山田作衛氏、リサーチディレクターに

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ILCで加速された電子と陽電子は測定器内に導かれます。測定器中央を貫くパイプの一方からは電子が、反対からは陽電子が入り、ちょうど真ん中で衝突します。衝突で生成された粒子の反応を調べるのが測定器です。credit:Newton Press

 

加速器と測定器
国際リニアコライダー(ILC)は、世界の研究者がその実現を目指して研究を続けている加速器です。電子と陽電子を真正面から衝突させ、かつてない高いエネルギーでの反応を実現する世界最強の加速器、それがILC。でも、ILCの最終目的は「最高のエネルギーを実現する」ことではありません。研究者たちが目指しているのは、高いエネルギーで粒子と粒子が衝突したときに、どんな現象が起きるのか、それを調べることです。そのためには、高いエネルギーを実現するための「加速器」そのものの開発はもちろんのこと、加速器の感覚器と頭脳とも言える「測定器」の開発が、車の両輪のように進められることが必要です。
測定器とは、粒子と粒子が衝突したときに起こる反応を検出する検出器と、そこで感知した信号を処理するエレクトロニクスから構成される、最先端技術の「目」です。検出器は、衝突によって生成された粒子の位置やその粒子のもつエネルギー、その飛跡などを捕えます。それをコンピューターで解析することで、私たちの宇宙がどのように生まれ、今の姿になったのかを解き明かすことが可能となるのです。加速器の性能が向上すると、生成される素粒子の持つエネルギーは高く、数も多くなります。それらを正確に捉えるために、測定器は大型化しています。ILCの測定器は、幅、奥行きともに十数メートル、重さは一万五千トンにも及ぶと考えられています。

 

リサーチディレクターとは?

ILCの研究開発は、加速器は国際共同設計チーム(GDE)が、測定器はリニアコライダー物理・測定器国際研究組織(WWS)が中心となって進めています。現在、ILCの測定器の設計としては、4種類が提案されていますが、工学設計(EDR)フェーズに入り、提案されている4つの設計以外の可能性も広く検討して、測定器の設計を2つ選択することになっています。このプロセスにおいて非常に重要なことは、加速器開発グループと測定器開発グループが密にコミュニケーションをとることです。双方が足並みをそろえて、最適な設計を作り上げることが、ILCの実現には欠かせません。そこで、世界中に散らばる数千人にも及ぶ測定器開発研究者の活動をリードする「リサーチディレクター(物理研究責任者)」が創設されました。その重要なポストに就任したのが、山田作衛氏です。
「リサーチディレクターの打診を受けたときは、実はびっくりしたのです。電子・陽電子衝突実験からはしばらく遠ざかっていましたからね」と山田氏は語ります。山田氏と衝突加速器の出会いは、今から三十数年前にさかのぼります。1960年代から、衝突型加速器の研究が米ソ欧ではじめられていました。日本でも電子・陽電子衝突研究を推進しようとしていた東京大学の小柴昌俊教授(当時)は、草分け的な旧ソビエト連邦との共同実験準備のために、1972年に山田氏をノボシビルスクに約10か月間派遣したのです。当時の政治的理由から、そのプロジェクトは実現には至りませんでしたが、山田氏はその後も、おもにドイツを拠点として、電子・陽電子衝突の国際協力実験に参加。80年代後半からは、リーダーとしてプロジェクトを成功に導いてきました。これらの経験と実績が、今回の任命につながったのです。「成績も優秀で、とても真面目な学生でしたよ」、東京大学時代の担当教授であった、小柴東京大学特別栄誉教授は当時を振り返ります。山田氏は実験に熱心で、ほぼ研究室に入り浸りだったそうです。「彼は人当たりもとても柔らかい。良い人選をしたと思いますよ」(小柴氏談)
加速器開発を主導するGDEのディレクター、バリー・バリッシュ氏は「彼のリーダーシップが加わったのは喜ばしいことであり、ILCプロジェクトの実現に不可欠な貢献となるでしょう」と述べています。ILC実現に向け、いよいよ役者が揃ったと言えましょう。

 

ILC通信17.indd山田作衛(やまださくえ)
1941年、長野県生まれ。東京大学名誉教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。東京大学理学部物理学科卒業、博士課程修了後、東京大学理学部助手、助教授、東京大学原子核研究所所長、KEK素粒子原子核研究所所長を経て、現職。