加速器の一部と衝突点周りの様々な技術が関連する「ILCの中央領域」が、スペイン・サンタンデールで行われるECFA(欧州将来加速器委員会 )リニアコライダー・ワークショップの大きな話題となっている。設計変更や土木建築の課題、測定器に関する課題も重要なアジェンダだ。ILCディレクターのマイク・ハリソンは、いつものようなビデオ会議ではなく、直接会って議論できる機会を楽しみにしている。
グローバルな共同作業においては、ほとんどの打ち合わせはウェブベースで行われている。そのため、毎年2回行われるリニアコライダー・ワークショップは、高帯域(つまり直接的な)コミュニケーションを行う貴重な機会として、とても重要な意味を持つ。加速器コミュニティにとっては、来たるサンタンデール・ワークショップにおいて、ILC設計を確認し、適宜承認することによる進捗が期待される。4日間にわたる会議は、加速器に関するパラレルセッションの数を最小限にするようプログラム構成されている。そのため、様々なワーキンググループ間で異なる専門分野をまたいだつながりが持たれることを期待している。
カナダで行われた前回のワークショップ以来、加速器中央部のレイアウトをより詳細に理解するための取り組みに注力してきた。この取り組みにおける、「中央部」とは、加速器の両線形加速器間のセクションと定義している。同じ構成要素が繰返される線形加速器セクションとは異なり、中央部では多くの単独のシステムが使われる。これら各々のシステムは、個別の設計解が要求されるうえ、最終的には最適化された解決へと統合される必要がある。中央部には、ダンピング・リング、ビームを衝突点に導くシステム、ビーム・ダンプおよびコリメーター、ビーム輸送ライン、陽電子および電子源、そして特に重要な部分だが、実験そのものが含まれている。トンネル断面は場所によって異なり、長さ方向の位置とともに大きく変化する。過去数か月の間これらの問題に関してワーキンググループで検討している。グループは、最終設計には至らないと思うが、概念設計が提示され議論されるであろう。
設備ワーキンググループは、中央部に加えて、いくつかの位相幾何学的な問題に取り組むことになるだろう。すべてのアクセス・エリアは同じ設計にできるのか、それとも、場所によってカスタマイズを要するのか。うまくいけば、同じ設計にできない場合でも、共通のアプローチに基づいた解決策を講じることができるかもしれない。地上の低温設備に関しても、同様の議論ができるだろう。LHCの地上設備は、結局、個々の独立したものとして建設された。ILCは、モジュール式のアプローチがより適していると期待する。低温ワーキンググループは、4.2Kのコールド・ボックスの最適なポジショニング(トンネル中か、あるいは地上か)と、1.8Kでの運転のインパクトの検討に集中するとともに、故障モードの課題に取り組み始めるであろう。
陽電子標的の領域、低温施設および主線形加速器トンネル断面に関する設計変更要請が、アドホック委員会によって提出されており検討が行われている。これらの委員会の提言は、ワークショップ中に変更管理委員会に提示されるだろう。これらの提言に関する決定が下されることを期待している。
ビームを衝突点に導くシステム(BDS)/加速器・測定器インターフェース(MDI)に関するセッションでは、コリメーションとビームハローに関する課題について議論される。ILCで使われるような大強度ビームにおけるビームハローは、実験のバックグラウンド事象として問題になることに加え、設備に損害を与える可能性もある。特に、ミュー粒子は、非常に貫通力の高い性質を持っているため害になる可能性があり、特殊な遮蔽やスポイラーが必要となる。
目標とするルミノシティを達成するために必要な陽電子の生成は、ILC加速器の主要な技術的課題の1つと長く認識されてきた。ソース・ワーキンググループは、システムの様々な側面からの陽電子標的の検討に集中して活動的に取り組むだろう。この議論は、電子駆動方式およびアンジュレーター方式に関連する陽電子源の標的設計と、標的領域の避けがたい問題を含む。陽電子生成標的には大きな電力が照射されるため、標的の材料は強く放射化する。そのため、遮蔽、設備取り扱い、故障モードおよびメンテナンスへの要求等の問題に取り組む必要がある。
加速器設計活動に加えて、ワークショップでは、空洞技術の最新の成果や世界の技術的な進捗状況、さらに電力供給システムについて検討する、超伝導高周波(SCRF)関連のセッションもいくつか行われる。KEKのATF2ビームラインのシステム・テストに関しては、日本から、ビーム強度に関連する効果や、サブシステムの状況、そしてビーム・サイズの改善等についての発表がなされる。
サンタンデール・ワークショップは、まちがいなく、ウィスラーで行われた先の会議や他の多くのリニアコライダー関連会議に続く、生産的な会合になるであろう。進捗の度合は、我々が求めているより少し遅いかもしれない。それでも、進捗は進捗である。