ビーム試験に参加したメンバー
ILC用飛跡検出器(TPC)のビーム試験のためにドイツのDESY研究所で10月31日~11月14日まで2週間にわたり実験してきました。飛跡検出器の開発は、国際協力により進められ、DESY研究所のビームラインに設置された大型プロトタイプチェンバーに各研究グループが開発したモジュールを搭載して性能試験を進めております。今回は、日本グループが開発を進めてきた、ILCにおけるTPCに不可欠な、ガス増幅時に発生するイオンを除去するゲート装置を搭載したモジュールを用いての初めての実験になり、競合する他グループのメンバーも参加した国際色豊かな実験となりました。
ゲート装置は、ガス増幅に使用されているGEMと構造は似ていおりますが、厚さが12.5ミクロンのポリイミドを用い、また穴の開口率を極限まで大きくしたもので、(株)フジクラに無理して作ってもらっているものです。開口率が大きすぎて、ほとんど透明に見え、搭載されているのがわからないほどです。ゲートを閉じる時に、薄い絶縁体を挟む銅電極に与える電位差を逆転させることで穴に逆電場を発生させ、イオンの通過を阻止するわけですが、このような構造物はゲートを開いていても電子の透過率に影響を与えてしまいます。透過する電子の減少は、測定精度の低下を招くことになり、ゲート装置のために検出器の性能が劣化するようでは本末転倒ということになり、ゲート装置には高い電子透過率が要求されています。これまでの、基本性能試験から80%程度以上の電子透過率が達成できれば、ILCで要求される飛跡検出器の性能を満足させられると予想されています。
これまでプロトタイプ試験でのゲート装置の透過率測定は80%以上を示しており、実際にモジュールに搭載した場合に、1T磁場中で55cmドリフト時において、求められる位置測定精度150μmを達成できることを実証することが今回の大きな目標でした。
今回のビームテスト隊としては、隊長A君(総研大D3)を筆頭に、Bさん(総研大M1)、Cさん(岩手大M2)の3名の良く働く学生と年寄り(スタッフ)4名と助っ人として急遽召集された良く働く若手1名が日本から乗り込みました。また、現地で飛び入り参戦した3名の日本人の他に、中国科学院高能物理研究所(中国)から1名、Saclay研究所(フランス)から2名、Lund大学(スェーデン)から1名、DESYからは何人も協力してもらい2週間のテストを終えました。期間中ハンブルグでは雪が降ったり凍てつく日々が続きましたが、休日は1日だけで、あとは朝から夜中まで良く仕事をしました。おかげで、ほぼ満足できる(と思われる)データを収集することができ無事に帰国したと思われます。(隊長のA君は別任務でSaclayでの仕事を行い帰国予定。)解析結果は、LCWSや物理学会などで順次報告されてくると思います。
DESYのホステル(宿舎)は、本当に寝るだけでしたが、欧州標準の外断熱のせいか寒い日でも暖かく快適に過ごせました。(この辺はKEKの宿舎も参考にして欲しいと思います)しかし食堂に関しては、以前まで開業していたビストロが閉店してしまい、夕食はカフェテリアだけでの営業となり、メニューが少なく貧弱になり果ててしまっていました。カンティーンでの昼食が最も充実した食事の時間となり、どこの研究所も食堂事情は苦しいものがあるのかもしれません。