ILCの物理学:湯川相互作用とヒッグス場

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日本初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士。

湯川博士の受賞理由となったのは「素粒子の相互作用について」という論文です。湯川博士はこの論文で、陽子や中性子を原子核の中で結びつけている粒子「中間子」の存在を予言しました。 (ノーベル賞でたどる素粒子の発見物語:3 中間子)

原子核はプラスの電気を持つ「陽子」と電気を持たない「中性子」でできています。プラスとマイナスの電気をもつ粒子同士は引き合って結びつきます。しかし、原子核の中にはマイナスの電気を持つ粒子がありません。

プラスと中性なのに、なぜ、陽子と中間子は結びついているのか? 

どんな力が結びつけているのか? 

湯川博士は、陽子と中性子の間には「未知の粒子」があって、それが二つの粒子を結びつける力を生んでいるのでは?と考えました。この仮説から計算してみると、未知の粒子の重さは電子と陽子の重さの中間になることがわかりました。そこで「中間子」と名付けられたのです。湯川博士が理論を提唱した13年後に、英国のセシル・パウエル博士が宇宙線の軌跡から湯川博士が予言した中間子を発見!湯川博士のノーベル賞受賞につながりました。

湯川博士の理論は「力は粒子の交換により生じる」という考え方を初めて提唱したもので、それが今ではすべての力に適用される基本的な考え方となっています。このように中間子が力を媒介して粒子を結合する相互作用を「湯川相互作用」といいます。

この湯川相互作用は、ILCの実験でも重要なテーマになっています。

世界の科学者が次につくりたいと考えている加速器が「ヒッグス・ファクトリー」です。その名の通り、工場のようにヒッグス粒子をたくさん作り出す加速器のこと。2012年に発見されたヒッグス粒子は、他の素粒子に質量を与えるとされる素粒子で、新しい物理現象を解明するための鍵をにぎる重要な素粒子です。これを大量に作り出すことで詳細に調べようとするのがヒッグス・ファクトリー。ILCはその最有力候補です。

実は電子やクォークなどのフェルミ粒子にヒッグス場が質量を与える相互作用も「湯川相互作用」。ピーター・ヒッグス博士が理論を提唱したときには、W粒子とZ粒子(ボーズ粒子:力の素粒子)だけを対象に考えていたのですが、スティーブン・ワインバーグ博士が、フェルミ粒子にも湯川相互作用を適用できるのでは?と考えたのです。

ILCは「湯川相互作用」を精密に測定してヒッグス場がフェルミ粒子に質量を与えるメカニズムの詳細を明らかにすることができます。もし、湯川相互作用の測定結果が素粒子の標準理論の予言から外れていたら、標準理論では説明できない何かがある、ということになります。これは、世紀の大発見!ヒッグス・ファクトリーが求められている大きな理由のひとつです。