ミュオン(μ)は、電子(e)と同じレプトン(軽粒子)の仲間に属 し、いろいろな点で電子と同じ性質を持っています。
❐ 類似点
しかし、ミュオン(μ)は、電子(e)とはたいへん異なる性質や、電子(e)には無い性質を持っています。
❐ 相違点
ミュオン(μ)は、宇宙線として地球に降りそそいでいますが、ミュオン(μ)を使って実験を行うには、加速器を用いて人工的に「つくる」必要があります。
"原子"とは、その古典的な抽象によると、正の電荷を帯びた小さな原子核の回りを、遠く離れた一連の"軌道"にいくつかの電子がとりまいているものをさします。
通常の原子を構成している電子の1つが、より重い、負の電荷を持つ、比較的安定な素粒子に置き換わり、クーロン力により束縛され、
原子状態になったものを"エキゾティック原子"(exotic atom)と、呼んでいます。ミュオン、パイ中間子、K中間子、反陽子、シグマ粒子等が、
エキゾティック原子を構成する素粒子です。その重い質量のために、それらの素粒子の軌道は、電子の軌道に比べて、中心の原子核に非常に近いです。
また、その素粒子は、1つの原子中に1つしかないため、Pauliの排他律が作用せず、すべての原子軌道をとりうります。そのため、エキゾティック原子では、
周囲の電子は無視でき、"1電子原子"に非常に似た振る舞いをします。
エキゾティック原子の生成から崩壊の過程では、様々な分野の物理現象ー物理化学、原子物理、固体物理、原子核物理、素粒子物理ーが複雑に作用しています。 例えば、パイ中間子原子、K中間子原子、反陽子原子等では、ゼロエネルギーでの強い相互作用の効果を調べたり、 素粒子の正確な質量や磁気モーメントを調べたりすることができます。ミュオン原子では、電磁相互作用が主であるため、原子核の電気的な大きさを調べたり、 量子電磁気学(quantum electrodynamics, QED)の検証に大いに役立ちます。
ミュオンは、強い相互作用の力を感ずることはなく、電磁相互作用が主であるため、原子核や原子中の電子の、電気的な性質を探求する有効な手段となります。
また、真空分極(vacuum polarization)を調べることにより、量子電磁気学(quantum electrodynamics, QED)の検証をすることができます。
他のエキゾティック原子とは異なり、強い相互作用で原子核に捕獲されないため、ほぼ、100%、基底状態に達します。ミュオン原子からの特性X線を測定することによって、
物質の組成を調べる非破壊分析も可能です。また、そのX線は、ミュオンの物質中での振る舞いを追跡する際の重要な手がかりともなります。
特に、最も簡単な系であるミュオン水素原子は、ミュオン原子を様々な性質を調べることのできる絶好の素材です。
その生成から崩壊までは、異なる種類の様々な過程からなっており、非常に興味深いです。また、ミュオン触媒核融合のサイクルの随所に、
ミュオン水素原子の性質が重要な働きをしています。ミュオン三重水素の濃度の初期値や、ヘリウム等の不純物への移行によるミュオンの損失率が、その一例です。
詳しくは、ミュオン移行反応の研究のページをご覧下さい。(μ)は、電子(e)と同じレプトン(軽粒子)の仲間に属し、いろいろな点で電子と同じ性質を持っています。
核融合は、同じ電荷を持つ2つの原子核が、その反発力を乗り越えて近づくことにより起こります。 Picture1 熱核融合やレーザー核融合が、超高温・高圧の状態にすることにより、その反発力に打ち勝とうとしているのに対し、 ミュオン触媒核融合は、負の電荷を持ったミュオン(μ-)が"重い電子"であるという性質を利用した、ユニークな方法です。 負のミュオンが、水素の重い同位体である重水素(D2)と三重水素の原子核(t)を引き寄せdμtというミュオン分子を形成します。 この分子は、電子によって結合している通常の分子とは異なり、ミュオンが電子の代わりをして、原子核を結びつけ分子の形をつくっています。 ミュオンは電子の207倍の質量をもっているため、ミュオン重水素三重水素分子(dμt)は、通常の重水素三重水素分子(DT)に比べて、大変小さくなります。 そのため、重水素原子核(d)と三重水素原子核(t)が、非常に狭い空間に押し込められ、すぐさま核融合反応が起こる。核融合反応の後、 ミュオンは自由となり、あらたにdμt分子を形成し、次の核融合反応を起こしていく。ミュオンは数多くの核融合反応を次々と引き起こしていき、 まさに、核融合反応の"触媒"の働きをします。ミュオンの寿命はたった2.2マイクロ秒(100万分の2.2秒)しかないですが、 その間に少なくとも100回以上の核融合反応が"触媒"されていることがわかっています。このミュオン触媒核融合は、将来の新しい形のエネルギー源として大きな期待が寄せられています。
ミュオン科学研究のフロンティアを築くことを目指して、"超低速ミュオン"ビームを発生させ、新たな学際研究を展開させるためのプロジェクトが発足しました。 このプロジェクトでは、陽子ビームライン上に高温タングステンを置き、核反応の結果生じた正パイオンを止め、 表面から熱エネルギーのミュオニウム(正のミュオンと電子が結合した軽い水素原子の同位体)を発生させます。協力なレーザーの照射により、 ミュオニムから共鳴的に電子がはぎ取られ、eVからKeVの強力な正ミュオンが得られます。1994年、レーザーの周波数をミュオニムに合わせ、比電荷と飛行時間の2次元表示の上に、超低速ミュオンの発生を示す信号が得られました。また、超低速ミュオンを発生するためのタングステン標的条件の最適化、発生した超低速ミュオンの偏極度の測定などが行われています。
物質表面の磁性原子スピンのダイナミクスを調べる新しい物性研究、金属表面での触媒反応における水素状原子の役割を解明する表面科学研究等への新しい展開をはかるとともに、レプトンのみでできる"純粋"なミュオニウム原子を対象とした量子電磁気学の精密な検証実験などが計画されています。 また、超低速ミュオンをイオン源と考えて、さらに高いエネルギーのミュオンを得ることが可能です。
正のミュオンは寿命が2.2μsで、100%スピンが偏極しており(π+が崩壊し、μ+と負のヘリシティを持つ中性微子が180度逆方向に放出されるため)、 陽子の1/9の質量を持っています。これらの特徴を生かして、陽電子のように物性を調べるプロープとして幅広く物性研究などに用いられています。 また、H、D、Tの軽い同位体としてそれ自身の拡散や、反応性自体がおもしろい研究の対象となり得るという特徴をも兼ね備えています。 加えて、μsオーダーの特異なタイムスケールで時間情報を得るというユニークな側面をも有しています。 従って、最近注目を浴びている表面・界面の研究、精密な原子物理の研究、触媒等水素のダイナミクスを調べる研究にも大いに貢献でき得るポテンシャシャルを持っていると言えます。
しかしながら、そのためには、もっと低速で、物質表面に止まるミュオンが不可欠で、その要望は日に日に声高くなりつつあります。 そこで我々中間子科学研究施設では、超低速正ミュオンビームを得るべく新しい計画をスタートさせました。 その骨子は、500MeV陽子ビームライン上に、2000℃に熱したタングステン箔を設置し、2次ビームであるμ+をつくるというステップをスキップして、 1次標的から直接水素原子の軽い同位体と考えられるミュオニウム(Mu)を発生させます。次に、ライマンΑ(LΑ)光により2p状態に励起し、 その後355nmの光でイオン化させる共鳴イオン化法(RIS)を採用することで、"超低速ミュオン"発生をさせるというものです。
超低速ミュオンは、もともと、熱エネルギーから出発することもあり、モノクロマシティに優れた質の良い正ミュオンです。 将来、JHP計画が成就した暁には、様々な研究が花開く可能性を秘めています。
波長122nmのVUV光を直接発振するレーザーは、今のところ世の中に存在しません。 そこで、Marangos等によって開発された、Krの四波共鳴差周波混合法を導入しました。 この手法では、Krの4P(5)5P準位に対応する2光子共鳴波長212.5nmと、その共鳴準位とLα光の差に相当する差収波を、Kr/Arの混合ガス中で、 時間的にも空間的にも重ね合わせることによってLα光が生成されます。したがって、差収波の波長を変えることでLα光自身の波長を可変にできます。