次の3年は「新機軸」 ~鈴木厚人KEK機構長第二期就任インタビュー~

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インタビューに答えるKEK機構長・鈴木厚人氏(写真:右)

 

4月1日付で次の3年間の任期に就任した鈴木厚人高エネルギー加速器研究機構(KEK)機構長に今後の抱負についてインタビューした。
―第一期の3年間を振り返っての感想は?
素粒子・原子核物理学や物質・生命科学などの基礎科学および加速器科学の国内外の拠点として、関連する研究分野の学会やコミュニティとの議論を進めて、KEKの将来計画、いわゆる「ロードマップ」を策定しました。このロードマップはJ-PARC(大強度陽子加速器施設)の建設から実験開始とアップグレード、KEKBのアップグレード、すなわちスーパーKEKB、フォトンファクトリーの増強、LHC(大型ハドロンコライダー)の建設と実験開始、今後の増強、ILC(国際リニアコライダー)やERL(エネルギー回収型線形加速器)などを見据えた先端加速器技術の研究開発など、今後5~10年のこの分野での研究の将来計画です。現在、ロードマップの実現に向けて、関連する関係者と調整を進めています。
―昨年はノーベル賞受賞で日本中が沸きましたね。
小林先生、益川先生、南部先生、それぞれにKEKの研究活動ともつながりが深いですから、ノーベル賞受賞はKEKに大きな興奮と感動を与えてくれました。特に小林先生はずっとKEKに勤めてこられて、TRISTAN計画やBファクトリー実験をサポートしてくださいました。今回の受賞で、基礎科学を地道に進めていくことの重要性について、多くの方々に理解していただけたのではないでしょうか。また、高エネルギー加速器研究機構の名前を覚えていただくいい機会にもなりました。
―次の3年間についてはどのような抱負を?
3月に開かれたKEKの経営協議会で、「次の3年間の施策」を提示しました。大きく4つの柱があります:
1)研究力の向上。さらなる研究の飛躍のために、ロードマップに従ってプロジェクトを遂行すること 
2)大学共同利用機関として国内の大学との間で、これまでとは異なる概念の連携体制を構築すること 
3)アジア各国との連携を強化すること
4)高校生や大学生への教育活動を充実することです。
加速器科学の研究規模や必要経費がどんどん巨大化し、一国で全てをまかなえきれなくなってきている状況で、世界の研究所を一極集中することによって、各国の経費負担を軽減する構想が浮上しています。これは将来、ビッグサイエンスが選択すべき一つの方法でしょう。しかし、科学の進歩を考えるとき、文化や価値観が異なる集団が競い合うことがもっとも重要です。また、一極集中は巨大化の問題を根本的には解決せず、将来に先送りするだけです。ビッグサイエンスの発展はいつか行き詰まってしまうと考えています。このため必要なことは、加速器や測定器のまったく新しい革新的技術を、世界中の知恵を結集しながら押し進め、巨大化問題を解決することです。このような視点をもって次の3年間の舵取りをしたいと考えています。
―産業界とも連携を進めていくことになりますね?
これまで日本で言われてきた「産学官連携」では、主に研究者の側の努力をうながすことが強調されてきました。しかしながら、諸外国では必ずしもそうではなく、企業が大学や研究機関を頻繁に訪れて、新しい応用のタネを積極的に拾い集めています。日本の企業が消極的であることも問題なのです。KEKにおける最先端の技術開発を、産業界の関係者が積極的に取り込めるような呼び水のシステムを作りたいと考えています。
また、日本の産業界は経営の合理化や昨今の経済危機の影響もあって、研究開発や設備投資になかなか思い切った予算を投入できない状況にあるように見えます。このため、企業内で若手の人材育成が難しくなってきているという声を聞きます。一方、KEKでは高い水準の技術開発を進めるわけですから、なんらかの形で設備投資を拡充し、多くの企業の人材を結集して、KEKで産学協同作業が行える環境を作るつもりです。発想や手法の異なる人たちによる共同作業から、これまでにないアイデアが生まれ、技術開発が飛躍的な発展を遂げることを期待しています。

―どうもありがとうございました。