2016 年のILC

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国際リニアコライダー(International Linear Collider :ILC)は、次世代の電子・陽電子衝突型加速器です。全長30km を超える地下の直線トンネルに、超伝導の加速器と超精密な制御装置を配置します。電子とその反粒子である陽電子を衝突させて、宇宙の始まりから1 兆分の1 秒後の状態を再現し、その現象を徹底的に研究して未知の物理法則を解明することが目的です。

1月6日(水)、高エネルギー加速器研究機構は「KEK-ILCアクションプラン」を発表しました。このアクションプランは、山内正則KEK機構長の元につくられた機構内ワーキンググループが検討を重ねたもので、ILC計画に対する「青信号」が出た時に、どういう時間スケールでどのようにKEKの組織を改編し、実施組織を立ち上げてゆくのかを示したものです。

20160112_通信年表ここでの「青信号」とは、文科省から「ILCの実施を前提に諸外国との交渉を始める」という正式な発表があることを想定しています。アクションプランでは、ILC計画を「予備準備期間」「本準備期間」「本建設期間」の3つの段階に分け、それぞれのフェーズにおける対応がまとめられています。現状は一般的な先端加速器・技術開発の範囲で研究開発が実施されている「予備準備期間」にあたります。青信号が出されたら、速やかに「本準備期間」へと移行するのですが、本準備期間の立ち上げからILCプロジェクトが国際的な合意のもとに建設開始されるまでの期間に、どのような人材配置が必要であるかについて、特に詳細な検討が行われました。これは、プロジェクトの正式承認・建設開始にスムーズにつなげるための、準備期間の技術課題、組織・体制、人材およびその育成プランを策定するための基礎となる情報となります。

素粒子物理学では、これまでの研究結果から「標準理論」と呼ばれる理論体系が確立されています。標準理論は、17 種類の素粒子の働きによって、私たちが知っている物理現象をほぼ正しく説明することができる優れた理論です。しかし標準理論に含まれる粒子の中にも、詳しい性質が未解明のものが含まれています。例えば、2012 年に発見されたヒッグス粒子や、電子の34万倍もの質量を持つトップ粒子などの性質にはまだまだ謎が残されています。また、標準理論では説明できな現象や物質の存在も確認されています。さらに、まだ誰も見たことのない粒子が発見される可能性もあるのです。ILCでこれら未解明の謎を探求することにより、より本質的な物理法則が姿をあわらすと考えられています。

科学が高度に進化しているように思える現代社会ですが、実は分からないことだらけ。人類が理解しているのは宇宙のたった5パーセントにすぎません。ILCの研究によって、私たちの自然の理解が新しい段階へと進んでいくのです。