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2. トリスタン計画までの状況

2.1 トリスタン加速器

2.1.2 トリスタン加速器の概要


トリスタン加速器は、限られたKEKの敷地内で可能なかぎり高いビームエネルギーを達成するべく設計された。電子が円弧を描くとシンクロトロン放射によって光が放出され、そのパワーはビームエネルギーの4乗に比例し円弧の曲率半径に反比例する。曲率半径は敷地の大きさによって制限されるため、パワー損失を補うために必要な高周波加速装置の規模はビームエネルギーと共に急速に増大する。このため、トリスタンは全周3kmのうち約400mが高周波加速装置を置くための直線部となり、4つの線型加速器を円弧でつないだような独自の形状を持っている。

図1に示すようにトリスタンは、4つのビーム衝突点(富士、日光、筑波、大穂)によって区切られた4回対称の形状をしている。ビームを偏向、収束するための磁石も4回対称に配列され、この配列は更に鏡面対称な2つの1/8周部分に分けられる。それは衝突点から始めて直線部、ディスパージョン(分散)関数抑制部、標準セル部、ウィグラー部から成り立っている。

4つのビーム衝突点近傍には数種類の四極磁石が置かれ、衝突点でのビーム断面積をできるだけ小さくし高ルミノシティーを得るよう設計されている。衝突点に最も近い四極電磁石には、特に収束力の大きいものが要求される。実験開始時この四極磁石は鉄芯の常伝導磁石だったが、その後超伝導磁石に置き換えられルミノシティーは2倍に向上した。このとき、衝突点でのビームサイズの標準偏差値は、水平方向300m、垂直方向10mであった。残りの直線部には高周波加速空洞が置かれている。特に日光直線部に置かれた超伝導空洞は、稼働を開始した1988年の時点では世界最大規模の大電力システムであり、これによってトリスタンのビームエネルギーは設計値30GeVを上回る32GeVに達した。

ディスパージョン関数抑制部と標準セル部は、偏向電磁石、四極電磁石および六極電磁石より構成されている。ディスパージョン関数抑制部は、標準セル部で生じるディスパージョン関数が、直線部で消えるようにビーム軌道を調節する部分である。ディスパージョン関数は、運動量が設計値からずれた粒子の軌道を表わし、この関数が高周波加速空洞部に残っていると、4.3.5で述べるシンクロベータトロン共鳴が起きビームが不安定になる。また、衝突点でディスパージョン関数があると、ビームサイズが大きくなりルミノシティーの低下を招く。標準セル部は、偏向電磁石と四極電磁石を周期的に配置しビームを発散しないように輸送する。六極電磁石は、主として衝突点近傍の四極磁石から生じる色収差(運動量の違いによる収束力の差)を補正するために使われる。ウイグラー部のウイグラー磁石は、入射時にビームを大きく蛇行させシンクロトロン放射の量を増やすことにより、ビームの運動を安定化するために使われる。

表3にトリスタン加速器の主要諸元を示す。このような大規模システムに所定の性能を発揮させるためには、4章で述べる数々の開発研究が必要であった。


 
Figure 1: トリスタン加速器システム。電子と陽電子は先ず電子・陽電子リニアックで2.5GeVに加速される。入射 蓄積リングで十分な電流値まで蓄積され、8GeVに加速される。その後衝突リングに入射され、30GeVまで加速され、4ヵ所の実験室で衝突する。 (PSは12GeV陽子シンクロトロンであり、PFはフォトンファクトリーである。)
 

  ビームエネルギー30GeV
ルミノシティー1×1031cm-2sec-1
周長3018m
ビームの回転周波数99.3kHz
高周波加速周波数508MHz
加速電圧380MV
シンクロトロン放射損失290MeV/turn
衝突点ベータ関数(水平/垂直)1/0.04m
衝突点ビームサイズ(水平/垂直)300/10m
バンチ長1.2cm
偏向電磁石数272
四極電磁石数392
高周波空洞数(室温/超伝導)104/32

  Table 3: トリスタン加速器の主要諸元


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