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 高エネルギー物理学研究所長挨拶
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4. トリスタンと加速器科学

4.3 加速器理学に関する研究

4_3_5 シンクロベータトロン共鳴


シンクロトロン振動とベータトロン振動の結合についてはAGシンクロトロンの原理が発表されて以来、研究されてきたが、当時はあまり重要な効果とは考えられていなかった。それは、これら2つの一周当たりの振動数, 及び(水平方向、垂直方向のベータトロン振動数)が大きく離れていたからである。例えばトリスタンではは約0.1、, は約30である。

しかし、結合を起こす 原因がリングの周上の数点に局在している場合には、原因機器の点でのベータトロン振動の位相は、それまでに何回振動を起こしたかを示す整数値には依らず, の端数だけによる。この場合は (), の振動数の差はずっと小さくなり、結合により共鳴現象が現れてビームの振幅が増大し、ビームが失われる事がある。一般に共鳴の条件は、
(11)
, , , は負でもよい整数)と表わされ、,,の絶対値が小さいほど一般に共鳴の強さは大きくなる。

この共鳴が最初に好ましくない現象として現れたのは、1970年頃のイギリスの電子シンクロトロンNINAであった。加速空洞でのディスパージョン関数Dが零でないとすると、粒子の位置は、
(12)
と書ける。ここでは運動量の平衡値からのずれ、βはベータトロン振動の位置である。加速空洞での相対的加速があると、粒子の位置は変化しないから
(13)
となりベータトロン振動の位置が突然変わることになる。角度'βについても同様である。はシンクロトロン振動の位相に依存しているから、(13)式は加速によるベータトロン振動の位置・角度の変化がシンクロトロン振動と結合することを示している。この結合により、ベータトロン振動のエミッタンスはベータトロン振動とシンクロトロン振動の位相関係により増大したり減少したりする。共鳴条件が満たされた場合は、エミッタンスは増大しつづけ、しまいにはビームの損失を起こす。そこでトリスタンでは、加速空洞のある部分のDを零としている。

設計値のDが零でも、磁石の設置誤差などにより、誤差によるディスパージョンや閉軌道の歪みなどが空洞部分に現れるので、これをできるだけ小さくするように補正してある。また、加速電圧の他に加速空洞では様々な電磁場(ウェーク場と呼ばれる)が存在し、これは蓄積電流に比例して大きくなる。ウェーク場による加速/減速(及び閉軌道の歪みがある場合のウェーク場による粒子の偏向)により、前に述べたと同様の共鳴が起こる。トリスタンでは、できるだけウェーク場を小さくして影響を取り除くような努力がなされた。

その他にもシンクロベータトロン共鳴を引き起こす原因はいろいろ考えられ、これを完全に克服するのは難しい。そこでトリスタンでは, , をいろいろ変え、共鳴条件から離れた最適な動作点を選ぶことが行われた。


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