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4. トリスタンと加速器科学 4.2 加速器技術開発 4_2_1 超伝導加速空洞 トリスタン超伝導高周波空洞システムは、有効長1.5mのニオブ製加速空洞(図61)32台、6.5kW液体ヘリウム冷凍機及び8組の500MHz大電力高周波システムからなる複合システムであり、米国のCEBAF研究所の超伝導空洞システムが本格的に稼働を開始した1995年までは世界最大であった。このシステムは1988年11月に世界初の大規模かつ大電力システムとして稼働を開始し、翌1989年10月には残る半分の加速空洞の追加により、トリスタンのビームエネルギーを、設計値30GeVを上回る32GeVまで押し上げた。超伝導空洞導入以前の最高エネルギー28GeVに比べると、エネルギー増としては4GeV、1.14倍にすぎないが、電子シンクロトロンにおいては必要加速電圧はその4乗の1.7倍になる。これを常伝導空洞で実現するためには、約200mの空洞の増設が必要であり、使用電力も当然70%増加する。一方設置された超伝導空洞は約50m、電力増もわずか10%であり、優れた加速性能を実証した。 空洞のみに集中していた開発研究から実際の応用システムとしての開発が始まったのは1982年で、その2年後には最初のビームテスト、さらに2年後の1986および1987年には実用機のモデルのビームテストを成功させ建設に入った。この間、電解研磨法を中心とした空洞の表面処理方法の確立等により空洞の最高加速電界は平均10MV/mとそれまでの2倍以上の性能が保証できるようになった。最も難しいと予測していた大電力高周波入力カプラーも最後のビームテストでは目標の100kWまでのテストに合格し、計画成功の自信を与えてくれた。また、クライオスタット、日本最大のヘリウム冷凍機システムもビームテストを通じ完成度の高いものになっていった。この約5年の開発期間は、ドイツのHERA(DESY)、スイスのLEP(CERN)の同様の計画に比べると2年以上も短く、またトリスタンでの開発が常に先行していたことから、世界的に高い評価を得ている。一方短期間での計画の遂行に当たっては、確実に動作するものの開発を心がけたため部品によっては最適化されていないものがあるが、空洞本体の性能は7年間の運転の後も後続のHERA、LEPの空洞を上回っている(図62)。 この大規模システムは当然運転においても世界初のシステムであり、長期の運転中にはビームテストでは予期できぬ故障もあった。初期には、加速ビームにより誘起される高調波モードを取り出す高周波ラインのセラミックコネクターのいくつかが、接触不良による異常発熱を起こし、ビーム電流値を制限しなければならなかったが、1990年の夏に抜本的な改良を行い解決した。また、運転開始から約3年後の1991年後半から翌年にかけては、2種類のリークが相次いで起こり、担当者をおおいに慌てさせた。一つは大電力高周波カップラーの窓を水冷にするための銅製のジャケットからの水漏れで、水流による銅の浸食によるものであった。もう一つは、空洞と他部品との接合部での真空リークで、わずかな不具合が多数回の冷却サイクルによる熱ひずみにより故障に至ったものである。表14にみられるように、この時期の運転空洞台数は23台にまで落ち込んでしまったが、その後の3年間リークは一度しか起こらなかった。 このように世界初という条件は困難であったと同時に、その成功は正しく評価され、以後の諸外国の計画実現の原動力となった。システムの評価は現在でも高く、外国研究所での再使用計画も進んでいる。 |
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