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トリスタン計画報告書TOP
 高エネルギー物理学研究所長挨拶
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全アルミ合金超高真空システム
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4. トリスタンと加速器科学

4.2 加速器技術開発

4_2_5 全アルミ合金超高真空システム


ビーム衝突リングでは、ビーム寿命を確保するために、電子および陽電子の通路を10-7Pa程度の高真空に維持しなければならない。トリスタンではこのための真空システムとして全アルミ合金超高真空システムが使われている。

トリスタンの真空システムを設計する上で重要だったのは、放射光が真空ダクトに当たることによって生ずる熱を速やかに除去する工夫と、放射光によってダクト表面から誘導放出されるガス分子を低減かつ効率良く排気する工夫であった。この目的のため、1)熱伝導が良く、2)ステンレス鋼よりもガス放出率が低く、3)発生ガスをその場所でただちに排気する分散イオンポンプ構造が作りやすいアルミ合金真空ダクトが採用された。アルミは残留放射能の減衰時間が他の実用金属に比べてずば抜けて短いという長所も持っている[図71]。

真空システムのほとんど全てをアルミ合金で建設する試みは世界で初めてだったので、クリーンなアルミ合金管の押し出し法、自動溶接法、ベローズ、真空端子、バルブ、窓など、アルミ合金超高真空システムを構築する技術とコンポーネントの開発が企業との協力によって行なわれた。

全アルミ合金超高真空システムは、ほぼ10年の運転を経験している。ビーム寿命は、電子・陽電子衝突実験時、4時間程度である。これまでの運転では、1)ビームチェンバーに組み込んだイオンポンプの動作不良、2)シンクロトロン放射光による真空コンポーネントのX線損傷や腐食等の問題が生じたが、真空システムの根幹にかかわるトラブルはなかった。2)については特に薄肉のベローズの腐食が心配されたが、鉛シールドで囲まれた空間を乾燥窒素で満たすことで解決された。

トリスタン完成後はシステムの完成度を高める研究が進められ、ガス放出の機構と低減法、世界最高レベルのポンプやバルブなどコンポーネントの開発、極高真空計を中心としたシステムの開発、急速排気システムの開発、化学反応で真空材料表面の吸着水を除去する方法の開発、超高真空中の駆動機構やトライボロジ、電子ビームによる微小なゴミ(マイクロパーティクル)の捕捉機構の解明等の成果が得られた。

アルミ合金超高真空システムは、他の加速器や半導体製造装置にも応用されるようになってきている。加速器については、台湾の1.3GeVシンクロトロン放射光研究センター、韓国の2GeVシンクロトロン放射光研究所、アメリカのアルゴンヌ研究所の7GeVシンクロトロン放射光リング、西播磨の8GeVシンクロトロン放射光リングなどに応用され、性能、信頼性などで評価を得ている。半導体製造装置に関しては、アメリカや日本において、エッチャー、CVD、PVDなど半導体プロセスの真空チェンバーのほとんどが、この10年間でステンレス鋼からアルミ合金に転換されている。1)重金属汚染がなくクリーンである、2)軽量である、3)機械加工性が良い等がアルミ合金選択の理由となっている。トリスタンで行った研究のいくつかは半導体プロセスへの応用にも役立っている。例えば、エッチング工程などで用いる腐食性ガスに対するアルミ合金の耐食性改善については、シンクロトロン放射光による放射線腐食の問題に取り組んだことが役立った。また、前述した電子ビームによるマイクロパーティクルの捕捉に関する研究も半導体プロセスの改善に寄与している。


 
Figure 71: 各種の実用金属の残留放射能の減衰の測定値


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