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トリスタン計画報告書TOP
 高エネルギー物理学研究所長挨拶
 高エネルギー委員会委員長挨拶
 1. は じ め に
 2. トリスタン計画の概要
 3. 研 究 成 果
 概略
標準理論の精密検証とその予言する新しい現象の発見
標準理論を越える新しい現象の探索
光子・光子コライダーとして
実験技術の開発
 薄肉超伝導ソレノイド電磁石
強磁場(3テスラ)超伝導ソレノイド電磁石
低温機器の自動・長期運転
高速・大量データ収集用ファーストバスシステム
計算機とネットワーク
 4. トリスタンと加速器科学
 5. 周辺分野との関わり
 6. ま と め
 List of Figures
 List of Tables
 グラビア写真集
 
3. 研究成果

3.5 実験技術の開発

3.5.4 高速・大量データ収集用ファーストバスシステム


データ収集システムとは、検出器からのアナログ信号を受信して、時間差、電荷量、サンプリング波形などの情報をデジタル値に変換したうえで、コンピュータ管理下にあるマス・ストレージ に、これらのデータを格納するための整合のとれた電子回路システムおよび制御するソフトウエアを意味する。従ってデータ収集システムは、古くから積み上げられたアナログ技術、最近の進歩が著しいデジタル技術、また高速データ転送、高速演算、マス・ストレージ技術、ソフトウエアなどを含んだ意味でのコンピュータ技術に裏打ちされたものでなければならない。

検出器は目的別に選択されたさまざまな放射線センサーの集合体である。トリスタンの実験では信号源の数で勘定すると2万ないし3万チャンネルに相当するものとなった。タイム・プロジェクション・チェンバーのように波形サンプリングを用いる検出器もあるので、すべてのチャンネルからのデータをそのままコンピュータへ転送するのは現実的ではない。実際にはスパース・データ・スキャンという方式により、有効データのみを転送する方式がとられた。それでも毎秒あたりの平均データ転送レートは、100kバイトを越えることもしばしばであった。

トリスタンのデータ収集システムでは、伝統的なNIM、始めてコンピュータ化されたCAMAC、そして最新のファーストバス(FASTBUS)が併用された。NIM、CAMAC、またはインハウスの規格(TKOなど)による電子回路をフロント・エンド(検出器からの信号を直接受信する部分)に配置し、コンピュータへのインターフェースを含むデータ収集システムのバックボーンはFASTBUS規格で構築された。 TKO規格は、CAMAC相当の単純化されたインターフェース、縦長で広いボード形状、および背面からのケーブルアクセスなどの特徴を持ち、高エネルギー物理学研究所で開発されたインハウス規格である。FASTBUS規格と相補的に使用されることを目的としており、製造コストおよび、設計の容易さなどからフロント・エンドの電子回路等に数多く用いられている。

図51には新しいFASTBUS規格の下でそれ以前の規格が統合されている様子が示してある。このような構成はFASTBUSのアーキテクチャー上の柔軟さを示しているものである。

トリスタンのデータ収集システムを構築するにあたっては、NIM、CAMAC、TKO等による電子回路が数多く設計され、製作された。特にFASTBUSは、その時点ではまだ規格の策定段階にあり、実機の試作と規格へのフィード・バックを同時に行なっていった。

FASTBUS規格は、現在利用可能な最も高速な高密度データ収集システムの一つである。これによりほとんどあらゆるアーキテクチャーを構成することができ、またデータ転送速度は毎秒40Mバイトと高速である。FASTBUSは広く使われてきたNIMおよびCAMACの優れた特徴を継承しつつ、より高密度の実装を実現することで、チャンネルあたりのコストを劇的に削減することもねらっている。

FASTBUSの特徴は以下のようである。 モジュラーなシステムであること。32ビットのアドレス空間およびデータフィールドを有すること。エミッター結合論理回路(ECL)による32ビットの高速バックプレーンを有すること。並列プロセッサー用のアーキテクチャーを用いているので、複数のバス・セグメントを相互乗り入れたり、独立に動作させたりできること。 非同期のハンドシェーク方式を用いているので、異なったデータ転送レートのモジュール間のオペレーションも可能であること。最高速度でデータ転送を行なうためには、ハンドシェークによらないデータ転送モードが用意されていること。 いくつかのモジュールに対して一斉に同一のオペレーションを行なうためのブロードキャストが用意されていること。複数のモジュールに対してスパース・データ・スキャンを行なうための高速ポーリング機能があること。コントロールやデータ転送のために簡単にコンピュータに接続することができること。これらの特徴はトリスタンのデータ収集システムを構築するために必須のものであった。

実際のところFASTBUSのバックプレーンはコンピュータのバックプレーンの拡張となるように設計されている。このためにFASTBUSはセグメント・インターコネクト(SI)と呼ばれるインターフェースによってバックプレーン・セグメントとケーブル・セグメントの間を相互に接続している。SIはそれが実行しているオペレーションによってマスターにもスレーブにもなることができる。バックプレーン側でマスターの場合はケーブル側ではスレーブとなる。このSIの開発もトリスタンのデータ収集システムの開発の要点であった。

FASTBUSの電子モジュールは40cm角程の大きさであり(図52)、そこには標準の14ないし16ピンの集積回路を250個またはそれ以上載せることができる。モジュールごとの消費電力は(従って発熱も)数十ワットから百ワットに達することもあり、電力の供給と冷却の問題も主要な課題であった。図53に空冷による冷却構造を持つラックの列盤とそこに収納されたFASTBUSモジュールを示してある。また図54はFASTBUS用の電源盤でそれぞれラックの直上に設置され、数キロワットクラスの電力を供給することができる。

トリスタンのデータ収集システムは、現在のようにASIC(目的ごとに専用に設計された 集積回路)技術によるカスタムICの時代が開ける直前に構築されたものであり、実効実装密度、電力消費量など、設計上の制約も多かった。しかし現在でも十分通用する技術で構築されたことも確かである。トリスタン後のBファクトリーでは、フットボール程度の大きさの中に、トリスタンの検出器一台分の信号チャンネルが詰め込まれたようなシリコン・ストリップ検出器を使う予定である。そこではASIC技術が全面的に採用されている。データ収集技術は高速ネットワーク等の技術を取り込んでさらに進化の道を歩んでいくと思われる。


  
Figure 51: 測定器フロント・エンドからコンピュータまでのデータの流れ Figure 52: 開発中のFASTBUSモジュール
  
Figure 53: エレクトロニクス・ハットのFASTBUSラックの列盤 Figure 54: FASTBUS用電源盤



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