加速器図鑑:ビーム

コラム

ビームという言葉を聞くとSF映画に出てくるビーム砲を連想する人も多いと思います。レーザーポインタから出るレーザー光線もビームです。素粒子やイオンなどがまとまって飛んでいる状態をさす言葉がビームといえるでしょう。

加速器で扱うビームはその目的に応じていろいろな種類があります。ここではILCのビームの外見的特徴を解説してみたいと思います。ILCは電子ビームと陽電子ビームから成りますが、この2つ電荷が逆な以外は同じ性質を持つので、ここからは電子ビームを例に説明していきます。

電子ビームの一塊(専門用語でバンチと呼びます)は200億個の電子が集まってできています。バンチは非常に平べったくて進行方向にとても長い形状をしています。例えればトイレットペーパーのロールをほどいてのばしたものが飛んでいるようなものといってよいでしょう*1。大きさはトイレットペーパーよりはるかに小さく、衝突点では長さ300ミクロン、幅600ナノメートル、厚さ6ナノメートルです*2。

このような形状のバンチが1300個連なって飛びます。バンチとバンチの間隔は170メートルです。連なった様子が列車みたいなので1300個の連なり全体をトレインと呼びます。一編成が1300両で構成された列車といえます。170メートル間隔は長いように感じますがビームはほぼ光の速さで飛んでいるので時間にすると550ナノ秒間隔です*3。1300バンチからなるトレインの全長は200キロメートルを超えます。これはILC施設全体よりも長いので「あれ?」と思った方もいると思います。トンネルに入る列車の先頭付近の車両がトンネルに入っても後部はまだ外にいるという様子を想像して下さい。これと同じでILCでもトレイン全体が一度に線形加速器に収まっている必要はありません。

いま線形加速器の横に立ってトレインが通り過ぎるのを見ているとすると、この長さ200キロメートル超のほぼ光速で走るトレインは貴方の前を僅か0.7ミリ秒で*4通り過ぎます。ILCでは昼夜24時間連続で数ヶ月間にわたって実験が続けられます。実験中はこのトレインが0.2秒毎ごとに送り出されてに次々と飛んで衝突点に届きます。これがILCのビームです。

ところで実際のビームは目に見えるのでしょうか。残念ながらビームは、真空中を光ることもなく音も出さずに飛びますので見る事も聞く事も出来ません。科学者はこのビームを特殊な装置*5で観測しながらコントロールしています。映画の中のようにビームが光りながら飛ぶ様子を想像していた人は少しがっかりかも知れませんね。

*1)米SLAC国立加速器研究所のグレッグ・ロウ氏の例えによる。
*2)1ミクロンは1/1000ミリメートル、1ナノメーターは1/1000000ミリメートル。
*3)1ナノ秒は1/1000000000秒。
*4)1ミリ秒は1/1000秒
*5)例えばその中の一つがILC通信62号(2012年2月)の加速器図鑑で取り上げたビームの位置を測る装置、ビーム位置モニター。