私たちのまわりにあるさまざまな物質があらわす多彩な現象は,その物質を構成する原子や電子の空間配列や運動状態と密接に関係しています。それらの大きさや構造は実に多彩です。
光とは,電場と磁場とが一体となって振動する波(電磁波)で,波長によって下の図のように分類されています。可視光は波長が400~700nmの電磁波で,波長にしたがって七色に変化します。それより波長の長いものには赤外線やラジオ波などがあり,通信などに利用されています。短いものには紫外線やX線などがあり,医療や工学に,さらに分子・原子レベルの物質構造の解明に役立っています。
分子・原子のレベルで物質を観察するには,短い波長の光が必要です。可視光の波長は分子・原子の大きさの数千倍もあるので,もはや物体の位置や形状を判別できなくなってしまうからです。波長の短い光を使うことによって分子や原子の世界が初めて見えてきます。
また,光は波としての性質だけでなく,波長に逆比例したエネルギーをもつ「粒子」としての性質も持っています。物質に光を照射すると,物質の内部の電子が光のエネルギーを得て外に飛び出してくる現象(光電効果)が起こります。飛び出してきた電子(光電子)を調べることにより,物質の中の電子のふるまいを知ることができます。
極紫外からX線にいたるこの短波長の光,これで見えるのは物質の内部の姿であって,わたしたちが眼で見えるような色や形ではありません。しかし,わたしたちはさまざまな測定器を駆使して,この光と物質の織り成すドラマを「見る」ことができるのです。
放射光は,この領域の光を切れ目なしに供給する,最もすぐれた光源です。
放射光には,他にも以下のようなすぐれた特徴があります。
高エネルギーの電子が磁場の中を運動するとき,電子は円運動の中心に向かって力を受け,軌道が曲げられます。このとき,電磁波が円軌道の接線方向に放射されます。 この電磁波を放射光(Synchrotron Radiation)と言います。電子の軌道を曲げて放射光を取り出すための磁石を偏向電磁石(Bending Magnet)と呼んでいます。
また,特殊な配列の磁石の装置を用いると,よりすぐれた性質の光を得ることができます。この装置を挿入光源(Insertion Device)と呼びます。 磁場が比較的弱い時には,細かく蛇行した電子から放出される光同士が干渉して、エネルギーのそろった強力なX線を得ることができます。このような挿入光源をアンジュレーター(Undulator)と呼びます。また磁場が強い時には、偏向電磁石よりもエネルギーや強度の高い連続光が得られます。これをウィグラー(Wiggler)と呼びます。
アンジュレータの光は完全に連続光ではありませんが,エネルギーによっては偏向電磁石からの光に比べて1万倍以上も輝度の高い光が得られるので,最先端の物質・生命科学研究には欠かせない光源となっています。
放射光を用いた実験手法はさまざまなものがありますが、基本的には以下の3種類の原理を応用しています。