放射光科学第二研究系:構造生物学研究部門
構造生物学研究部門は、原子から個体レベルで、生命現象の謎を生体高分子の立体構造情報を活用して解明することを目的としています。その過程で、他分野の生命科学研究者と積極的な共同研究を行い、生体高分子の構造情報の利用を生命科学分野全体に広げていくことも大切です。これと同時に、放射光実験施設と協力し、生体高分子の立体構造情報を取得するための放射光技術および周辺技術の開発を行い、放射光ユーザーに高度で機能的な研究環境を提供することも目指します。
構造生物学研究センター https://www2.kek.jp/imss/sbrc/
活動内容
エネルギー代謝(GTPと細胞機能)(千田俊哉)
GTPは、ATPと同じように細胞内のエネルギー分子で、細胞内でのタンパク質合成に必須です。細胞内のGTP濃度は細胞の種類や状態によって異なっており、細胞増殖などの細胞活動と密接に関係しています。ですから、生体におけるGTP分布の時空構造は、多細胞生物における細胞活動の時空構造と関係すると考えられ、その制御機構を明らかにすることは多細胞生物の理解に必須です。そこで、構造生物学研究部門では、細胞内のGTP濃度の制御や細胞内シグナルとの関係、そしてその生物学的な役割を生体高分子の構造情報を活用しながら解明するとともに、多細胞生物や脊椎動物の出現とエネルギー代謝の関係など、進化的な研究も推進しています。
Takeuchi, K et al. FEBS J., 283, 3556-3562 (2016)
Sumita, K.; Lo, Y-H.; Takeuchi, K. et al. Mol. Cell, 21, 187-198 (2016)
遺伝情報とエピジェネティクス(安達成彦 [現 筑波大学准教授])
GTP代謝の研究は生物のエネルギー面に着目したものですが、この研究は生物の情報利用に焦点を当てたものです。生物が持つ遺伝情報を文字数に換算すると、我々人間でも750MBしかありませんが、それだけの情報量で人間のような複雑な生物を作り上げることが可能です。ですから、生物は非常に巧妙な情報処理の仕組みを持っており、少ない情報を有効に活用していると推定されます。構造生物学研究部門では生物が進化を経て獲得した情報処理の仕組みを解明すべく、遺伝子の働きを制御するタンパク質複合体の立体構造に注目して研究を進めています。
Adachi, N. et al. Sci. Rep., 6, 27922 (2016)
Kawakami, E.; Adachi, N. et al. Cell Rep., 21, 3941-3956 (2017)
Ray-Gallet, D.; Ricketts, M. D.; Sato, Y. et al. Nat. Commun., 9, 3103 (2018)
糖鎖代謝(加藤龍一)
エネルギー代謝と遺伝情報に関する研究は、主にタンパク質と核酸という2つの物質に関するものです。しかし近年、第3の生体分子として糖鎖の重要性が増してきました。細胞表面に存在する糖鎖は、ガンの転移やウィルスの感染などと関係するとともに、細胞内においてもタンパク質の細胞内輸送の荷札になったり、タンパク質の成熟過程の指標になったりと、糖鎖は生体内の情報分子として機能しています。糖鎖代謝の異常によって発症する病気も多数知られています。構造生物学研究部門では、糖鎖修飾に関わるタンパク質の立体構造解析を通じ、その機能を分子レベルで理解することを目指しています。
Kuwabara, N. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 9280-9285 (2016)
感染症(田辺幹雄)
感染症は、過去から現在に至るまで、人類の大きな脅威です。身近なところではインフルエンザは毎年大きな問題になっています。構造生物学研究部門では、感染症関連の研究も推進しています。その一つの柱は、胃がんなど様々な疾病に関与していると言われているピロリ菌(Helicobacter pylori)に関する研究で、ピロリ菌がつくるがんタンパク質CagAに着目し、疾病の原因となる細胞内過程をCagAなどの立体構造を利用して研究しています。また、薬剤耐性という問題も、感染症の治療における大きな問題です。構造生物学研究部門では、このような耐性菌の問題解決の基盤を構築すべく、薬剤耐性に関与するタンパク質の研究も行なっています。
Hayashi, T. et al. Cell Rep., 20, 2876-2890 (2017)
Nagarathinam, K. et al. Nat. Commun., 9, 4005 (2018)
酸化還元関連酵素(千田美紀)
酸化還元は、電子の移動を伴う基本的な化学反応の一つで、細胞内においても数々の重要な役割を果たしています。構造生物学研究部門では、細胞内で起こる酸化還元反応に着目し、電子伝達タンパク質や酸素添加酵素の研究をおこなっています。これらは、触媒反応とタンパク質の構造と関係など、タンパク質そのものを詳しく調べていく研究です。
Nakashima, Y. et al. Nat. Commun., 9, 104 (2018)
Nakashima, Y. et al. J. Am. Chem. Soc., 140, 9743-9750 (2018)
構造解析技術に関する研究(山田悠介 [現 東北大学准教授])
構造生物学研究部門においては、放射光を用いた構造研究を高度かつ効率的に進めるために、ロボティクス等を駆使した実験の自動化を進めています。具体的には、自動結晶化スクリーニングや、自動回折データ測定、さらには実験で得られたデータを効率的に取り扱うためのデータベースシステムや自動構造解析パイプラインの整備などを推進しています。また、結晶化などの基礎技術に関する研究も行っています。これらは、放射光実験施設との密接な協力により進められています。
更に構造生物学研究部門では、新しい構造解析の手法としてクライオ電子顕微鏡の共用を開始しました。Thermo Fisher Scientific社の200kVクライオ電子顕微鏡 Talos Arcticaの運用を行い、ユーザーに提供するとともに、高度な解析を可能とするための研究を推進しています。
Liebschner, D. et al. Acta Crystallogr., D72, 728-741, 2016.
Senda, M. et al. Cryst. Growth Des., 16, 1565-1571, 2016.
メンバー・連絡先 | 主な研究内容 | リンク | |
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千田 俊哉 [教授・放射光科学第二研究系主幹・構造生物学研究センター長]e-mail:toshiya.senda@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 教授室 |
researchmap | ||
加藤 龍一 [准教授]e-mail:ryuichi.kato@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室1 |
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川崎 政人 [准教授]e-mail:masato.kawasaki@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室1 |
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田辺 幹雄 [准教授]e-mail:mikio.tanabe@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室1 |
researchmap 研究者紹介(筑波大学) |
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守屋 俊夫 [特任准教授]e-mail:toshio.moriya@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室2 |
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引田 理英 [助教]e-mail:hikitam@post.kek.jp居室:PF研究棟304号室 |
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千田 美紀 [特任助教]e-mail:miki.senda@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室2 |
researchmap 研究者紹介(筑波大学) |
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露口 正人 [研究員]e-mail:tsuyugu@post.kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室2 |
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池田 聡人 [研究員]e-mail:akihito.ikeda@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室2 |
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GENOVESO, Michelle Jane Clemeno [研究員]e-mail:genoveso@post.kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室3 |
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中村 司 [研究員]e-mail:tsukasa.nakamura@kek.jp居室:構造生物実験準備棟 研究員室3 |
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