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3. 研究成果 3.3 標準理論を越える新しい現象の探索 3.3.1 超対称性粒子の探索 超対称性理論は、標準理論の枠組みに収まる全ての粒子に対して、超対称性パートナーの存在を予言する。たとえば、電子:−⇔ +、ミューオン −⇔ −、である。超対称性粒子のなかで一番質量の軽いものは安定な中性粒子であると考えられ、これをLSPと呼んでいる。 超対称性粒子が崩壊した時には、その放出粒子のなかに必ず超対称性粒子が含まれるので、超対称性粒子は最終的には“標準”粒子とLSPに崩壊する。例として が対生成を考えると、+−→ +−→ +− LSP LSP となる。LSPはニュートリノと同様に測定器では検出されないので、運動量保存から2つのミューオンの系の運動量と逆向きの運動量が、観測にかからないLSPの系の“見えない”運動量である。実験ではこのような“見えない”運動量を含んだ事象が観測されなかったことから、 の質量についての排除領域が得られている。 、、 などでも同様に“見えない”運動量の解析からトリスタンのエネルギー領域での存在が否定された。 超対称性粒子はこのような直接的な探索以外に、前述の一光子事象の起きる断面積からも探索を行うことができる。すなわち、電子・陽電子反応で中性のLSPが対生成されても、それらが安定であれば測定器では見えないが、 対の場合と同じように一光子終状態としてその数を数えることが可能であり、もしLSPがトリスタンのエネルギーで作られていれば、一光子事象の数が の数からの予想より大きくなるはずである。 LSP の最も可能性の高い候補はフォティーノ()と呼ばれる、光子のパートナーである超対称性粒子である。この 対生成は、 と t -チャンネルに交換されるスカラー電子()の質量に依存する。これらがある値よりも小さければ、トリスタンで一光子事象の断面積がより大きく測定されるはずで、逆にトリスタンで断面積が標準理論通りであれば、このような超対称性粒子の質量について制限を与えることができる。 図33は、 生成の断面積と、この測定に対してバックグラウンドとなる 生成断面積を、いくつかのパラメーターセットに対して、重心系エネルギーの関数としてプロットしたものである。LEP/SLCなどの ファクトリー実験では、 バックグラウンドのためLSP 探索が困難であること、一方、PEP/PETRA 領域ではシグナルの生成断面積が小さいことが見て取れる。つまり、この目的のためには TRISTAN は理想的な加速器なのである。 SLC/LEP 稼働後の高ルミノシティー・トリスタンでの新粒子探索の一環として、TOPAZ、AMYも測定器を改良し、VENUSに続いて一光子事象探索を開始した。いずれの探索でも、 対生成のバックグラウンドからの統計的に有意なずれは検出されなかったが、そのことから、超対称粒子の質量に対する下限値を得た。図34は、 とスカラー電子()の質量に対する90%の信頼度での制限を示したものである。曲線で囲まれた質量領域が、実験で排除された部分である。これまでの全ての一光子事象探索の結果を合わせた制限(図中の「一光子実験全体」)は、より高エネルギーの実験である LEP での ALEPH による直接探索ではカバーできない領域に対しても制限を与えていることが分かる。 |
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