所長あいさつ
物質構造科学とは、物質の構造(原子配置や電子状態)から物質の機能の根源を探る学問分野です。この学問分野の名称を冠した物質構造科学研究所(物構研)は、文部科学省研究振興局所轄の17の大学共同利用機関のひとつとして、1997年の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の発足と同時に創設されました。大学共同利用機関は、個々の大学では整備・運営することの困難な最先端の大型装置を提供する「全ての大学の共同利用の研究所」です。物構研は、加速器技術に支えられた4つの量子ビーム施設を有しています。KEKつくばキャンパスでは放射光(PF)と陽電子(SPF)のビームを、東海キャンパスでは中性子(KENS@MLF)とミュオン(MSL@MLF)のビームを利用するビームライン群(装置群)を整備して、また、つくばキャンパスにはクライオ電子顕微鏡も導入して、生命体を含む広範な物質を対象に、大学の研究者とともに学術研究を推進しています。
理念のなかで、物構研は「量子ビームの先端的・複合的利用の追求」を掲げています。先端的利用の追求において、量子ビームの高性能化(加速器科学の観点)、ビームライン装置の整備(量子ビーム科学の観点)、利用環境・周辺機器の整備(物質・生命科学の観点)が必要であることは説明を待ちません。これまでも各施設において具体的な取り組みが実施されてきました。また、複数の量子ビーム施設を有する物構研では、特に複合的利用の追求が重要であり、各施設の取り組みを超えて量子ビーム連携(順次利用:マルチプローブ研究)が推進されてきました。これからは、さらにこれをレベルアップした量子ビーム協働(同時利用:マルチビーム研究)に注力していきます。人の協力と組織の連携による量子ビーム協働は、研究の融合を促進すると期待されます。
世界中で多数の量子ビーム施設が稼働しています。そうした状況において、大学共同利用機関として大学の研究者とともに学術研究のフロンティアを開拓・推進する物構研の施設には、研究者が主体的に研究教育を展開できる自由度や研究者のニーズへの対応に加えてシーズを生育する多機能性が求められます。つくばキャンパスでは、放射光学術施設(UVSOR, HiSOR, ISSP-SOR)および利用者団体(PF-UA)と協力して、軟X線と硬X線の同時利用を可能にする開発研究多機能ビームラインの建設を開始しました。現在、他の組み合わせによる異種マルチビームの同時利用も検討しています。また、大学共同利用機関である物構研の研究者が教育職であり、わが国の教育・人材育成を担うことが求められている点も重要です。物構研は、研究面に加えて教育面の機能強化も図っていく方針です。こうした研究教育活動は、物質構造科学の飛躍的な発展に必要な新しい機能をもつ新しい種類の量子ビーム施設の実現に向けた準備とも位置付けられます。
物質構造科学研究所は、人の協力と組織の連携によって研究の融合を図り、Diversity Frontierを実現して参ります。皆さまのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
令和6年4月
所長 船守 展正