実験責任者 |
所属 |
ステーション |
期 間 |
松村 武 |
広島大学 |
4C
8A
12A
16A
3A
13A/B
19A/B
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2024/04〜2027/03 |
物質に磁場をかけると電気分極が誘起されたり,電流を流すと磁化が生じたりといった多種多様な交差相関物性の背後には,電子状態の非対称性がある.最近の理論研究により,この交差相関は電子の電荷とスピンを空間的に分布させた多極子の概念によって系統的に理解可能であることがわかってきた.交差相関の背後には空間反転対称性の破れがあり,電荷やスピンの空間分布が歪み,空間反転奇の奇パリティ多極子(磁気単極子,磁気トロイダル双極子,磁気四極子など)が出現することで,電場や電流による磁化といった非対角応答が可能になる.ところが,金属間化合物磁性体において非対角応答の起源である奇パリティ多極子の実体をミクロな観測で実証した例はない.本研究では,これを硬軟X線共鳴散乱を駆使してミクロに可視化する.従来型の偶パリティ多極子秩序の観測手法は確立されているが,対称性の破れた電子系に出現する奇パリティ多極子の観測は未開拓である.奇パリティ多極子の観測には,共鳴X線散乱でE1-E2遷移による信号を抽出することが必要である.ただし,分離抽出にはエネルギー依存性,アジマス角依存性,および偏光解析を組み合わせた丁寧な測定が求められる.典型例となる候補物質にこれを適用し,奇パリティ多極子秩序の同定,および観測手法の開発を行う.本研究により,磁気トロイダル双極子や磁気四極子,さらには電気トロイダル多極子も含んだ拡張多極子の観測手法を確立する.さらに,集束イオンビーム(FIB)による微細加工試料で物性測定と軟X線共鳴散乱の同時測定を行い,非対角応答をもたらす秩序構造の非対称性を可視化する.通常の実験では複数のドメイン形成によって信号が打ち消されて観測できなかったり,観測できたとしてもその定量評価に困難がある場合が多い.FIBによる精密加工により単一ドメイン領域を切り出すことで,ドメインの選択・制御をした上での軟X線共鳴散乱による観測を目指す.これまで明瞭な形で存在が実験的に確認されてこなかった奇パリティ多極子が,本研究で実際に微視的かつ具体的に観測されることは,軌道混成のあり方を理解する上で極めて重要である.さらには,非対角物性応答の測定で感受率を定量的に評価することにつながり,新しい交差相関や非相反伝導などの機能物性の開拓へと発展させることにつながる.
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関連課題 |
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