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last update:07/11/08  

   image J-PARCは第二段階へ    2007.11.8
 
        〜 3GeVまでの陽子加速に成功 〜
 
 
  多量の陽子を加速して、世界最高強度の陽子ビームを作る大強度陽子加速器施設「J-PARC」の建設が進んでいる様子については、これまでにも何度かお伝えしてきました。

KEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で建設を進めているJ-PARCは、3段の加速器で構成されています。今回、その2つ目、3GeVシンクロトロンと呼ばれる加速器が目標のエネルギーまで陽子を加速することに成功しました。
  ※ 3GeVは30億電子ボルト


予想以上に順調

J-PARC第一段加速器のリニアックが目標のエネルギー(1億8100万電子ボルト)までビームを加速することに成功したのは、今年1月24日でした。そして、今年の夏、第二段加速器の3GeVシンクロトロン(Rapid-Cycling Synchrotron:RCSと呼ばれる「速い繰り返しのシンクロトロン」)の試験運転のための準備が整い、9月からこのRCSに陽子ビームを入射するため、リニアックの調整に入りました。

RCSにビームが到達し、いよいよビームを回す試験が始まったのが10月2日でした。それから1ヶ月も経たない10月31日の午後2時3分、このRCSが陽子ビームを目標エネルギー30億電子ボルトまで加速することに成功し、さらに、第三段(最終段)加速器の50GeVシンクロトロン(Main Ring:MRと呼ばれる主リング)と中性子源・ミュー粒子源ターゲットへのビーム輸送系に、RCSからビームを取り出すことに成功したのです。

RCSでの加速は、当初、来年初めまでかかると予想されていました。ビーム調整がこのように早く進んだのには、何よりもRCSを構成する機器の完成度と安定な運転があったことは勿論ですが、リニアックからのビームが安定していたことも大きな要因のひとつです。


リニアックの安定な稼働も大きく貢献

新品の電磁石や加速空洞を使ってビームを加速するのは、新品の車を運転するのに似たところがあります。新車の場合はハンドルの遊びやアクセルの効き具合、エンジンの癖などを手探りで覚えながら、だんだんとその車の運転に馴れていきます。RCSの場合はビームを操縦するための機器の数が200個以上あり、無数のパラメータが存在しますので、これらの機器の癖を全て調べるためには大変な時間がかかります。

通常、ビーム試験の当初は、加速器の調整がまだ完全ではないので、ビームがパイプの真ん中を通らず、あちこちのパイプの壁に当たってしまいます。この場合、ビームを何発も連続して打ち続けるといろいろな問題が引き起こされます。そのため、今回はビームを1発ずつシンクロトロンに入射するということにしました。その1発のビームでいろいろなデータ、例えばビームの位置などのデータを取り、ビームが右に寄っていれば左に寄るように調整するということをします。

この時のデータの解釈は複雑で、1発のビームの入射からデータを取った後、さまざまな計算などを経て、シンクロトロンの調整をし、次のビームの入射に備えるのですが、場合によっては、これに1時間以上要することもあります。その後、次の1発をリニアックから入射してもらいます。この時、稼働して間もないリニアックでは、なかなか「次の1発」を「前の1発」と同じような状況で入射することができないことが多いのです。そのため、リニアックの調整がシンクロトロンの調整よりも時間がかかってしまうことさえあります。今回の試験では、次の1発の入射がたとえ1時間後でも、前の1発と同じ所に同じエネルギーで来たのです。

また、この間RCSの機器も安定した運転が続いていましたので、1発の入射ごとに意味のあるデータがどんどん貯まっていきました。こうして、ほとんどの時間をシンクロトロンの調整に使うことが出来たのです。これが、RCSの目標エネルギー30億電子ボルトをこのように早く達成できた大きな理由です。ですから、単に予定より「早かった」ということよりも、今回示されたリニアックとRCSのすべての機器の信頼性・安定な運転性能が、将来のビーム電流を増強していくに当たって、大きな期待が持てるものであるところに意味があります。


従来の2倍の加速性能

RCSは、速い繰り返しにより、陽子を1秒間に25回も加速することが出来ます。1回にシンクロトロンに貯めることの出来る陽子の数はどうしても限られてしまうので、加速する回数を増やすことにより、1秒間に加速することが出来る陽子数を増やすのです。こうすることにより、世界一のビーム出力(陽子のエネルギーと陽子数の掛け算)を実現し、その結果、中性子などの2次粒子の数を世界一にしようとしています。

今回30億電子ボルトのエネルギーを達成したRCSは、世界一速い陽子の加速を実現しました。陽子を1秒間に25回加速するためには、25分の1秒に1回加速しますが、その時間の半分は元に戻すのに使うので、実際には50分の1秒の間に1回の加速を行います。この間に陽子を1.8億電子ボルトから30億電子ボルトまで加速するのです。30億電子ボルトまでエネルギーを上げていくのにかかる時間と、次の加速のために加速器の状態を1.8億電子ボルトに戻すのにかかる時間は、電磁石などの性能で決まります。RSCでは従来の世界記録の約2倍の速さで加速のサイクルを実現することができました。これは、ファインメットと呼ばれる新しい磁性合金を使用した加速装置を世界で初めて大規模システムとして採用し、加速電界を約2倍にするなど、世界に先駆けた多くの新しい研究開発の成果です。今回の成果は、J-PARCが世界の大強度陽子加速器の先駆けとなりうることを示しました。

今回のビーム試験は、予想を超えた早さで目標を達成しました。試験が早く進んだ分、課題を早く見つけることができました。J-PARC加速器の次の目標は、来年の5月からMRと中性子源ターゲット及びミュー粒子源ターゲットにビームを供給することです。目前に迫った実験開始に向けて、次第に灯が点される加速器の様子は、今後も随時お伝えします。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→大強度陽子加速器施設(J-PARC)のwebページ
  http://www.j-parc.jp/
→日本原子力研究開発機構(JAEA)のwebページ
  http://www.jaea.go.jp/index.shtml

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    J-PARC3GeVシンクロトロンで所期性能のエネルギー3GeVを達成

 
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[図1]
東海村に建設が進むJ-PARC。
拡大図(72KB)
 
 
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[図2]
J-PARCの全体構成図と、今回目標エネルギーを達成した3GeVシンクロトロン(RCS)の主要機器配置図。
拡大図(43KB)
 
 
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[図3]
リニアック(Linac)からRCSへの陽子ビーム入射部と、RCSから50GeVシンクロトロン(MR)、物質・生命科学実験施設(MLF)への陽子ビーム出射部。
拡大図(132KB)
 
 
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[図4]
RCSのアーク部。偏向電磁石と四極電磁石が並ぶ。
拡大図(99KB)
 
 
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[図5]
RCSのRF部。高周波加速空洞が並ぶ。
拡大図(101KB)
 
 
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[図6]
10月31日午後2時3分、試験開始から1か月を経ず30億電子ボルト(3GeV)までの加速に成功した。
拡大図(67KB)
 
 
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[図7]
RCSの3GeV達成を喜ぶJ-PARCの加速器スタッフ。
拡大図(104KB)
 
 
 
 
 
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