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始動!T2K実験 2009.12.10 |
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〜 前置検出器でニュートリノの初観測に成功 〜 |
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茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARCのニュートリノ実験施設において、11月22日20時25分、T2K(Tokai to Kamioka)実験の前置ニュートリノ検出器が、J-PARCで生成したニュートリノの初検出に成功しました(図1)。 K2K実験からT2K実験へバトンタッチ T2K実験は、J-PARCニュートリノ実験施設で生成する世界最高強度のニュートリノビームを、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるスーパーカミオカンデで検出する実験です。ニュートリノが別の種類のニュートリノに変わる「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象を世界最高感度で測定することにより、ニュートリノの質量や世代間の関係など未知の性質の解明を目指します。 KEKでは1999年から2004年まで、陽子加速器で生成したニュートリノビームをスーパーカミオカンデに打ち込む世界初のニュートリノ振動実験、K2K(KEK to Kamioka)実験を行っていました。このときスーパーカミオカンデで観測された約100個のニュートリノ反応事象を解析することによって、加速器を使ってニュートリノ振動現象を初めて検証しました。T2K実験はK2K実験に比べて二桁増しのニュートリノを生成する、世界をリードする圧倒的な強度を誇るニュートリノビーム実験です。 T2K実験のめざす物理 2008年ノーベル物理学賞を受賞した小林・益川両氏の理論は、もし物質を構成する基本粒子クォークが3世代(6種類)以上存在するならば、K中間子やB中間子の崩壊で起きるCP対称性の破れを理論的に説明できることを示しました。 一方、K2K実験によるニュートリノの振動現象の観測により、ニュートリノの属するレプトンにおいても世代間の混合が起き、レプトン側からもCP対称性の破れの効果が生じる可能性がでてきました。もしこの破れが存在すれば、宇宙の物質・反物質非対称性の起源に新たなヒントを与えるため、その確認はニュートリノ物理におけるもっとも重要な課題の一つとなっています。T2K実験のもっとも重要な目的は、未発見の振動モードであるミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動を検出することにより、未知の混合の値を求め、将来のCP非保存探索実験の指標を得ることにあります(図2)。 T2K実験は日、米、英、イタリア、カナダ、韓国、スイス、スペイン、独、仏、ポーランド、ロシアの12ヶ国から500人を越える研究者が参加する国際共同実験です。日本からは大阪市立大学、京都大学、KEK、神戸大学、東京大学、東大宇宙線研究所、広島大学、宮城教育大学の総勢約80名の研究者と学生が実験の中心メンバーとして参加しています。 T2K実験のセットアップ 図3にT2K実験のセットアップの概要が示されています。T2K実験のニュートリノ生成は、パイ中間子の崩壊からのミューオンニュートリノを用います。J-PARC主リングで30GeVまで加速された陽子ビームは一周するうちにすべてとりだされます。取出された陽子ビームは常伝導磁石、超伝導複合磁場磁石で構成される一次陽子ビームラインを転送、神岡方向に約80度曲げられて標的に導かれます。超伝導複合磁場磁石はKEKの超伝導低温工学センターで開発されたもので、加速器実験で本格的に使用されるのは世界初です(図4)。 標的はヘリウムガスで冷却された直径26mm、長さ90cmのグラファイト棒です。標的で生成されたパイ中間子は、ディケイボリュームとよばれる長さ約110mのヘリウムガスが密閉された崩壊領域で、ミューオンニュートリノとミューオンに崩壊します。崩壊領域の終端部にはニュートリノとミューオン以外の粒子を吸収するビームダンプがあります。 ビームダンプの背後には、ミューオンモニターが設置され、ビームダンプを通過したミューオンの量と分布を測定します。ニュートリノと同時に生成されるミューオンを測定することにより間接的にニュートリノの方向、強度をモニターするのです。 世界初のオフ・アクシスビームの採用 T2K実験では世界で初めてオフ・アクシスビームを採用しています。ニュートリノ生成をするパイ中間子のビームラインの軸をスーパーカミオカンデの方向からわずかにずらす(オフ・アクシス)ことにより、シャープなニュートリノエネルギー分布をもった強いビームを作る方法です。そのピークを振動確率が最大になるエネルギーに合わせることにより、高感度低バックグラウンドを実現できます。T2K実験のビームラインはオフ・アクシスの角度を2.0〜2.5度の範囲で選ぶことができるように設計されています。 これまでの実験から、ミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動確率が最大となるエネルギーは、600MeV前後となること予想されています。そこで、感度を最適化するためオフ・アクシスの角度を2.5度に選んで実験を行うことにしました。 標的から280mの位置には生成直後で振動前のニュートリノビームの性質を測定するための前置検出器がおかれます。前置検出器はビーム軸上(オン・アクシス)に設置される検出器INGRID(イングリッド)(図5と図6)と、標的とスーパーカミオカンデを結ぶ直線状におかれるオフ・アクシス検出器からなります。 INGRIDは総重量100トン強の大型検出器で、1.2m×1.2m×6.5cmの鉄板9枚とシンチレーター飛跡検出器11層を交互に重ねた"モジュール"を水平方向に7台、垂直方向に7台、それぞれビーム中心から+/−5mの範囲をカバーするように配置したものです。ミューオンニュートリノにより鉄板の中で発生したミューオンをとらえ、計数することによって、ビーム強度、プロファイルを測定、モニターします。今回のニュートリノビームの確認(図1)はこのミューオンをとらえたものです。 オフ・アクシス検出器はジュネーブのCERN(欧州原子核研究機構)から寄贈されたUA1磁石の磁場中に全感知型シンチレーター飛跡検出器、タイム・プロジェクションチェンバー、電磁カロリメータなどを並べたもので、スーパーカミオカンデに向かうニュートリノの数、エネルギースペクトル、電子ニュートリノの混入率、ニュートリノ反応断面積の測定などを行います。 実験グループは今後ビーム強度を上げ、INGRIDに加え全ての前置検出器およびスーパーカミオカンデを用いてニュートリノビームを精密に測定することで、新しいタイプのニュートリノ振動を発見することを目指します。 |
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