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last update:09/05/14  

   image 東海村からニュートリノビーム!    2009.5.14
 
        〜 J-PARCの全実験施設稼働 〜
 
 
  「ただいまよりビームを出します。3、2、1、入射!」

2009年4月23日午後7時9分、大強度陽子加速器施設J-PARC(ジェイ・パーク)のコントロールルームで固唾を飲んで検出器からの信号を見守っていた研究者たちは、オシロスコープに現れた信号の波形(図1)をみて、ひと呼吸おいて「おおおお!」とどよめきました。茨城県東海村から295km離れた岐阜県飛騨市のスーパーカミオカンデに向けて、ニュートリノビームが初めて打ち出された瞬間です。

不思議な粒子ニュートリノ

2002年に東京大学の小柴昌俊先生がノーベル物理学賞を受賞したことで耳にした方もいらっしゃるかもしれませんが、ニュートリノとは素粒子の一種です。太陽の中で起きる核融合反応や、超新星が爆発するときなどに大量に生み出され、いまこの瞬間にも私たちの体を一秒間に数千兆個が通り抜けています。物質とほとんど反応することがないので、地球が何百個つながっていたとしても、ニュートリノはその中を平気で通り抜けていきます。

私たちの体を構成する炭素や酸素などの軽い元素は、太陽のような恒星が核融合によって燃えていく間に少しずつ作られていきますが、金、銀、銅やウランなど、現代社会に欠かせない鉄よりも重い元素はすべて、超新星爆発の瞬間に作られると考えられています。その時にニュートリノが重要な役割を果たしていることもわかってきました。

ニュートリノは長い間、「重さを持たない粒子」と考えられてきましたが、宇宙から降り注ぐニュートリノを詳しく調べることで、実は重さがあることがわかってきました。スーパーカミオカンデが1998年に見つけたこの現象を、加速器を使って作り出したニュートリノによって世界に先駆けて検証したのがK2K実験です。

飛んでいる間に種類が変わる

物質を構成する12種類の素粒子(図2)のうち、電気的に中性なのはニュートリノだけです。ニュートリノには電子型、ミュー型、タウ型の3種類がありますが、もし3種類のニュートリノがそれぞれ異なる質量(重さ)を持つと、飛んでいる間に種類が入れ替わります(ニュートリノ振動)(図3)。

ミカンを放り投げたら途中でリンゴになったりメロンになったりする、なんて、常識ではちょっと想像がつきませんが、ミクロの世界では電気的に中性の粒子の間でよく見られる現象です。小林先生と益川先生のノーベル賞受賞で話題になった「CP対称性の破れ」が最初に見つかったのは、中性のK中間子と反K中間子の間で種類が入れ替わる現象を調べる実験でした。

3種類のニュートリノがそれぞれどのように種類が入れ替わるのかを精密に測定することで、宇宙がビッグバンで始まった時にニュートリノが果たしていた役割を知ることができるようになります。以前ご紹介したK2K実験カムランド実験などでミュー型とタウ型、電子型とタウ型の入れ替わりは調べることができるようになりましたが、ミュー型と電子型の入れ替わりを調べることが次の研究テーマになっています。

J-PARCの陽子加速器を使って作り出すニュートリノビームは、2004年までKEKで作り出していたビームの100倍の強度を目指しています。強度が大きくなることで、これまで観測されていなかったミュー型から電子型への入れ替わりの様子を詳しく調べることができると期待されています。

3つの実験施設が稼働

J-PARCはKEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で2001年から建設を進めてきた、世界最高クラスの大強度陽子ビームを生成するための研究施設です。今回、T2K実験でニュートリノ生成するためのニュートリノ実験施設が稼働したことで、物質・生命科学実験施設、原子核・素粒子実験施設とあわせ、第一期計画のすべての実験施設で陽子ビームから生成した二次粒子による実験が始まりました。

9年近い歳月をかけて作り上げてきた巨大施設で、ニュートリノビームが設計通りにスーパーカミオカンデの方向に打ち出されていく信号を見ることは、計画に携わってきた研究者や技術者たちにとってそれまでの苦労が報われたことを実感できる瞬間でもありました。

J-PARCのそれぞれの施設では今後、徐々にビームの強度を高めていき、中性子、ミュー粒子、ハドロン、ニュートリノを用いた世界最先端の研究を進めていくことになります。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→大強度陽子加速器施設(J-PARC)のwebページ
  http://www.j-parc.jp/
→スーパーカミオカンデのホームページ(宇宙線研究所)
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/index.html
→T2K実験のwebページ
  http://www-nu.kek.jp/jhfnu/index.html
→K2Kつくば-神岡間長基線ニュートリノ振動実験公式ホームページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→J-PARCの全実験施設稼働
  http://www.kek.jp/ja/news/J-PARC/

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[図1]
J-PARCニュートリノ実験施設のミューオンモニターでファーストビームの信号を捉えた時の波形。
拡大図(42KB)
 
 
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[図2]
素粒子の標準理論の世界。物質は6種類のクォークと6種類のレプトンからなり、ゲージ粒子を交換して3種の力が引き起こされる。
拡大図(68KB)
 
 
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[図3]
ニュートリノには決まった物質としか相互作用しない状態である電子型(ν)、ミュー型(νμ)、タウ型(ντ)の三種類がある。質量がわずかに異なる別の三種類の質量の状態ν1、ν2、ν3があると、理論上は電子型、ミュー型、タウ型との世代間で混合が起き、これがニュートリノ振動を引き起こすと考えられる。
拡大図(86KB)
 
 
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[図4]
J-PARCニュートリノ実験施設 (1)J-PARCメインリング (2) 一次ビームライン (3)同ターゲットステーション (4)ターゲット (5)ディケイボリューム (6)ミューオンモニター (7)前置検出器
拡大図(98KB)
 
 
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[図5]
ニュートリノファーストビームを祝してダルマに目を入れるKEK素粒子原子核研究の西川公一郎所長(T2K実験前代表者)。
拡大図(70KB)
 
 
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[図6]
ニュートリノファーストビーム関係者のビーム生成記念写真。
拡大図(84KB)
 
 
 
 
 

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