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月例研究報告 1月

1. 共同利用などに関して

【J-PARC での中性子利用実験再開予定】

平成24 年1 月24 日より、中性子ビーム供給再開の予定である。

【S 型課題審査】

平成24 年度S 型課題の中性子課題実験審査委員会における審査が、12 月26 日及び27 日に開催された。その結果、新規課題1 件(BL12 に関する東大物性研との共同公募課題)と継続課題9 件の採択が決まった。

1 日目:

12/26(月) 14:00~(非公開) 委員長選出等

     14:30~17:45(公開) ヒアリング(1 課題30 分)

     14:30~15:00 2012S01 伊藤、佐藤 (主査:清水)

     15:00~15:30 2009S07 日野 (主査:池田)

     15:30~16:00 2009S04 古坂* (主査:鈴木)

     16:00~16:15 (休憩)

     16:15~16:45 2009S11 鬼柳* (主査:山本)

     16:45~17:15 2009S06 大友 (主査:鍵)

     17:15~17:45 2009S03 清水 (主査:大友)

*悪天候による飛行機欠航により、TV 会議参加。

2 日目:

12/27(火) 9:30~12:00(公開) ヒアリング(1 課題30 分)

     9:30~10:00 2009S05 野田 (主査:陰山)

     10:00~10:30 2009S09 大山 (主査:守友)

     10:30~10:45 (休憩)

     10:45~11:15 2009S10 福永 (主査:野村)

     11:15~11:45 2009S08 高原 (主査:神山)

     13:00~17:00 (非公開) 審査等

 

【一般利用課題公募】

来年度上半期の一般利用課題公募(2012A)が12 月7 日に締め切られ、KEK 装置については29 件(BL05: 2 件、BL08: 9 件、BL12: 5 件、BL16: 7 件、BL21: 6 件)の応募があった。

【人事公募】

教授1 名の公募を開始した。J-PARC における中性子分光器(特に非弾性散乱装置)の開発研究、およびそれを用いた物質科学研究において中心的役割を担う。締め切りは、2 月13 日である。

 

2. 受賞

横尾哲也研究機関講師が中性子科学会技術賞受賞

11 月に開催された日本中性子科学会第11 回年会で「パルス中性子を用いた新しい非弾性散乱実験法の開発」 に対して技術賞が授与され、横尾哲也氏が開発メンバーの一人として受賞した。受賞理由はパルス中性子を用いた新しい非弾性散乱実験法である「Multi-Ei 法」の開発が、中性子科学の技術的発展に顕著な貢献をしたことである。物質内の原子や分子、あるいはそれに付随した電荷やスピン等の物質の性質を決定する物理量(物理自由度)の運動状態を観測する際に、 これまでの中性子非弾性散乱実験では、チョッパーによって選別される単一のエネルギーしか利用していなかった。これに対して提案された新しい実験法「Multi-Ei 法」では、複数の異なるエネルギーの中性子を同時に測定試料に入射し、 独立に解析することによって測定効率を格段に向上させた。今後本手法は世界的にも標準的な測定手法になってゆくことが期待される。

 

(1) 構造科学グループ

工事進捗状況

BL09 のガイド管設置は終了し遮蔽体の再設置を行った。震災後の初ビームによる中性子発生の確認とプロファイル確認をBL10 で実施したが、そのためには隣接する装置の前置遮蔽体を閉じる必要があり、BL08, BL09 は前置遮蔽体を閉めた。BL09 本体遮蔽体内は無灯状態であったため、電灯、100V コンセント、Web カメラを配置した。さらに、安全装置であるPPS (Personal Protection System)を導入し、Panicボタン2ヶ所と退避確認ボタンを設置した。MLF 制御室との接続は、2012 年1 月中に行う。BL09 の回折計本体の製造に入っている。図1 は、試料真空槽が5面加工機上に設置されて、加工に入る寸前の写真である。ボルト穴やO リング用溝などの加工を行う。また図2 は、多目的バンクの架台である。今月中の設置に向けて順調に製造過程が進んでいる。

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図1.BL09 回折計本体

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図2.BL09 多目的バンク架台

 

(2) 中性子光学研究グループ

DLC 中性子ミラーの開発

炭素は中性子散乱長が大きいため、高密度で平坦な炭素の層が製作できれば、効率的な中性子ミラーとなりうる。例えばダイヤモンドの場合、遅い中性子に対する核ポテンシャルは通常の中性子ミラーで用いられるニッケルに比べ数十パーセントも高いため、これを中性子ミラーの素材として用いることができれば、反射性能の高い中性子ミラーが実現可能である。そこで、中性子科学研究施設では、工業的利用が進んでいるDLC(diamond-like carbon)を反射材とする新しい中性子ミラーの開発を進めている。通常のDLC 膜には水素が含まれているが、水素の原子核(陽子)は中性子に対する非干渉性散乱が大きいため、これにより中性子の等方散乱が生じ、そのままでは適切な中性子ミラーとならない。そこで、中性子ミラーとしてはDLC 成膜の材料 ‐ ベンゼン ‐ に含まれる水素を重水素で置換した重水素ベンゼンを材料に、CVD 法(chemicalvapor deposition)で成膜を行っている。DLC の成膜状態には、成膜時の電場や材料の量など、様々なパラメータが影響を及ぼすため、いろいろな条件で成膜した試料に対して、X 線反射率測定、RBS/ERDA*、中性子反射率測定等の手法を用いて、性能評価を行っている。

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RBS(Rutherford backscattering spectrometry)・・・・・膜の組成や密度の測定

ERDA(elastic recoil detection analysis)・・・・・軽元素の定量

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図3. RBS/ERDA によるDLC 膜成分分析の例

このDLC 試料に関しては、混合比率C=88.1%,D=10.7%,H=1.2%C=88.1%、D=10.7%、H=1.2%と同定された。

 

(3) ソフトマターグループ

研究成果

先日成果発表があった論文[R. Inoue et al., Phys.Rev. E 84, 031802 (2011)]に関して、詳細を以下に報告する。近年の精力的な研究により高分子薄膜のガラス転移温度 (Tg)、熱膨張係数の膜厚依存性、特異なアニール効果などの特異性が明らかになってきた。過去の研究において井上らは軽水素化ポリスチレン (h-PS) と重水素化ポリスチレン (d-PS) を交互積層した薄膜を用いて中性子反射率法によるTg 及び熱膨張係数の分布を調べ、薄膜の最表面から内部にかけて連続的に通常より低い表面Tg からバルクのTg へと変化していく様子を観測することに成功した。その一方、基板との界面近傍では測定した温度範囲内ではガラス転移を観測することができず、極めて高いTg を有する可能性が示唆された。そこで今回井上らはJ-PARC/MLF のBL16 に設置された試料水平型中性子反射率計ARISA-II を用いてd-PS とh-PS の2 層薄膜の温度変化を調べ、膜厚の変化から基板との界面近傍におけるTg の評価を試みた。図4 に313K で測定されたh-PS/d-PS2 層積層薄膜の反射率プロファイル及び二層モデルによるフィットの結果を示す。d-PS は膜厚を徐々に変えており、これから基板界面における効果を明らかにできる。図5 にフィットから評価されたd-PS 層の膜厚の温度依存性を示す。d-PS の膜厚が減少するに伴い、bulk Tg と比較してTg が増大する傾向が観測された。この結果はPS のような基板との相互作用が比較的弱い系であっても界面近傍のTg は増大することを示している。興味深いことにd-PS 層の膜厚が155A ではゼロ熱膨張係数が観測されており、これは測定温度範囲外にTg を有することを示している。また、d-PS の膜厚を55A まで減少させると熱膨張係数が負になるという現象が観察された。これはアニール温度(=403K)では十分に構造緩和を引き起こせない程高いTg を有することを示唆している。

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図4. Neutron reflectivity Profiles from bi-layer thin film consisted of surface h-PS layer 900A thick and the bottom d-PS layer with various thicknesses at 313K.

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図5. Temperature dependence of the thickness of bottom d-PS layer and the solid arrows correspond to the evaluated Tg.

また、新たに以下の成果発表に関する連絡を受けた。詳細については後日報告を行う。

D. Kawaguchi, A. Nelson, Y. Masubuchi, J. P. Majewski, N. Torikai, N. L. Yamada, A. R. Siti Sarah, A. Takano, Y. Matsushita, "Precise Analyses of Short-Time Relaxation at Asymmetric Polystyrene Interface in Terms of Molecular Weight by Time-Resolved Neutron Reflectivity Measurements", Macromolecules 44 (2011) 9424.

 

(4) 量子物性グループ

海外施設でのJ-PARC 課題振り替え実施

米国オークリッジ国立研究所のSNS において、重い電子系PrCu4Au の4f 電子状態に関する測定を11/11-14 の日程で、チョッパー分光器SEQUOIA を用いて行った。これは、HRC で行う予定だった振替課題2 件のうちの1 件(もう1 件は10 月上旬のYVO3)であり、東北大岩佐グループ、KEK から川名が参加した(図6)。試料は粉末で、1.7K から100K までの温度10 点について非弾性スペクトルを得た。図7 は1.7K における励起スペクトルで、同じマシンタイムで測定した空セルのデータを差し引いている。5-6meV におけるPr の結晶場分裂によるピークとともに波数にほとんど依存しない準弾性散乱のピークが観測され、これらのピークの形状が温度上昇とともに大きく変化する結果を得た。今後、これらのピークの変化から、Pr の4f 電子のもつ局在的性質と遍歴的性質が議論される。

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図6. 実験風景。左から岩佐、小林(東北大)、Kolesnikov(SNS)

 

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図7. 1.7K において観測された励起スペクトル。

 

(5) 水素貯蔵基盤研究グループ

解析環境整備

NOVA では、測定データに対して各種補正を行うことで得られる静的構造因子S(Q)とS(Q)からのフーリエ変換によりを導出される実空間2 体相関(Pair Distribution Function、PDF)をもとに構造解析を行う。NOVA で測定されたSi やCeO2 等の構造既知の標準試料のPDF を、リートベルト解析(Z-Rietveld 使用)で得られた結晶構造パラメータから計算したPDF と比較したところ、約200 A までの2 体相関が良く一致していることを確認した。今後、結晶構造パラメータにより表される平均構造との違いから、水素貯蔵過等で生じる揺らぎの解析を行う。

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図8.左より、静的構造因子S(Q)、リートベルト解析結果、PDF 解析結果。いずれも黒が測定値、赤が計算値を示す。