J-PARCにおいて高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所が保有する中性子科学実験装置を用いて行うプロジェクト型研究課題(S型 課題)について、平成25年度の公募の受付を平成24年10月1日より開始した。継続課題については、主査(中性子共同利用実験審査委員)により詳細予備審査が実施され、中性子共同利用実験審査委員会(12/19)にて評点が決定される。
11/30を締め切りとして、准教授の公募が行われている。
(公募内容)J-PARCにおける中性子分光器の先端的な利用及び性能向上を通じて、物質科学研究を展開する。また、本所における大学共同利用や大学連携、さらに構造物性センターとの連携を推進し、その中でリーダーシップを発揮する。
SuperHRPDは、温度コントロール用ヒーターが不調であったTop-loading型冷凍機に新しくカートリッジヒーターを導入した。これに伴い、温度センサーの更新も行い、現在、オフビームによる試験運転を実施しており、順次温度変化試験を行う予定である。また、昨年の震災による多数のひび割れ箇所が見つかった長尺建家では、建家の外壁・内壁のクラック修復がほぼ完了した。
図1. 新しくインストールしたヒーター
装置遮蔽体内、装置直前のビームモニター等の機器にアクセスしやすくなるように、J4遮蔽体を分割できるように改造した。さらに下流にB4C遮蔽体を設置する予定である。SPICAでは、室温測定の効率化を図るため40個の試料を装填できる自動試料交換機を開発し、現在調整を進めている。また、あらたに多目的バンクに検出器を設置、ケーブルを配線中である。
遮蔽の国際会議(奈良、9月2日から7日)が行われ、SPICAの遮蔽建設に関して報告した(Novel Monolayer Shields of A Neutron Powder Diffractometer SPICA at BL09 of J-PARC)。
図2. 40個試料交換機
Z- Rietveldについては、放射光データ解析に対応済みで、さらに分割擬フォークト関数を導入した。順次、Mac版、Windows版に反映させていく予定である。Z- Rietveldに不等式制約の導入作業をすすめている。可視化ソフトZ-3D/Z-Atomを開発中である。又、Z-MEMの勉強会を10月に開催予定である。
構造物性センターの研究会として、8/30〜31に「つくばソフトマター研究会2012」を開催した。この研究会はつくば地区のソフトマター研究者の交流の場として毎年開催しているもので、筑波大、産総研、東大物性研に続いて今回が4回目。J-PARCセンターやCROSSのスタッフとの協力の元に、KEK東海1号館で行った。招待講演13件を含む23件の発表があり、また50人近い参加者があって研究と交流を行い、またJ-PARCの中性子実験装置の見学も行った。次回は来年3月に筑波大で開催の予定である。
図3. つくばソフトマター研究会2012の様子
研究会ホームページ
http://www2.kek.jp/imss/cmrc/tsukuba-SM2012/index.html
物構研ホームページのトピックス記事
http://www2.kek.jp/imss/news/2012/topics/120903Softmatter/index.html
装置開発状況
J-PARCの強力な線源を用いて秒オーダーの時分割測定を行うには、高い計数率の検出器開発が必要である。現在、SOFIAではLiF/ZnSシンチレーターと2次元位置敏感型光増倍管を組み合わせて検出器として用いているが、シンチレーターの特性により係数率(数千cps)と検出効率(熱中性子で約20%)が抑えられている。現在、東大の高橋・藤原グループと行っている代替シンチレーターの開発ではCe:LiCAFと呼ばれる単結晶の無機シンチレーターについて特性試験を行っている。このシンチレーターは40nsという短い発光減衰時間と高い検出効率を満たした上、従来のリチウムガラスの問題であったγ線感度を低く抑えることに成功している。ただし、蛍光波長が310 nmと短いため光検出器での検出が困難であった。これを解決するために、素材の改良はもちろん、蛍光剤を塗布することにより検出しやすい波長へ変換するなどの工夫により実用化に向けた改善を行っている。図4はチェッキングソースによる波高値の分布で、中性子(Cf-252)の信号とγ線(Co-60/Cs-137)の信号が弁別できることを確認した。ただし、BL16を用いたテストでは、より高いエネルギーのγ線によるバックグラウンドが観測されており、2mm厚の結晶ではγ線の波高値が中性子の波高値と重なってしまった(図5)。また、その後の試験結果からγ線の信号強度は、シンチレーターの厚みに依存することが分かっている。シンチレーターの厚みを1mm以下にするとγ線成分を除去できることが可能となるが、その分検出効率が低下するので、結晶の厚みの最適化や、新たな素材の検討を行っている。
図4. チェッキングソースによるCe:LiCAFシンチレーターのガンマ感度測定
図5. BL-16での試験結果。結晶の厚みとγ線感度の依存性
9月最終週に、昨年度予算で製作していた上流部の遮蔽体を設置する工事を行った。図4は設置直後の写真だが、BL05の遮蔽体変更にあたりこのままではビームを出すことができないため、現在は周囲に遮蔽体ブロックを積んでアクセスできないようになっている。
図6. BL06上流部遮蔽体の設置直後の様子
9月24 - 26日にFRM(ドイツ)及びPSI(スイス)を訪問し、偏極中性子技術に関する研究協力についての議論を行なった。
9月17 - 20日にシドニーで開催された7th International Sample Environment Workshop - Sample Environment at Neutron Scattering Facilities - に参加し、研究発表と議論を行なった。
10月1 - 4 日に日光で開催されたNikko Joint Conference between 10th International Conference on Quasielastic Neutron Scattering and 5th Workshop on Inelastic Neutron Spectrometers (QENS2012/WINS2012)に参加し、以下の5件の研究発表を行ない、分光器技術に関する情報収集及び意見交換を行なった。
・ Anomalous Spin Diffusion in Two-Dimensional Percolating Antiferromagnet, S. Itoh
・ Progress in High Resolution Chopper Spectrometer (HRC), S. Itoh
・ Magnetic Brillouin Neutron Scattering on High Resolution Chopper Spectrometer (HRC), S. Itoh
・ Newly Proposed Inelastic Neutron Spectrometer POLANO, T. Yokoo
・ Basic Design of Polarisation Analysis Neutron Chopper Spectrometer, POLANO, at J-PARC, K. Ohoyama
10月10 - 11日に日本科学未来館(江東区)で開催された第4回MLFシンポジウムに参加し、以下の4件の研究発表を行なった。
・ 高分解能チョッパー分光器(HRC)の近況、伊藤晋一
・ 高分解能チョッパー分光器(HRC)における磁気ブリルアン散乱実験、伊藤晋一
・ Polarized Neutron Chopper Spectrometer POLANO at J-PARC、横尾哲也
・ J-PARC偏極度解析分光器POLANO:偏極デバイス開発、大山研司
フェルミチョッパーの回転センサーの放射線損傷対策が完了し、高温炉の再立ち上げ、水素ガス雰囲気実験のための試料セルの改良等のハードウエア改良を行った。 取得済みデータの解析とデータ処理ソフトウエアの改良を継続している。