KENS 中性子科学研究系

KEK

月例研究報告 11月

1. 共同利用状況など

【2013 S型課題公募】

 J-PARCにおいて高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所が保有する中性子科学実験装置を用いて行うプロジェクト型研究課題(S型 課題)について、平成25年度の公募の受付を平成24年10月1日より開始した。継続課題については、主査(中性子共同利用実験審査委員)により詳細予備審査が下記のとおり実施され、中性子共同利用実験審査委員会(12/19)にて評点が決定される。

課題番号代表者実験課題名BL名予備審査
2012S01 伊藤 晋一
(高エネルギー加速器研究機構)
Studies on Dynamics in Condensed Matters by using the High Resolution Chopper Spectrometer BL12 HRC 11/6
2009S03 清水 裕彦
(名古屋大学大学院理学研究科)
Fundamental Physics with Pulsed Cold Neutrons BL05 NOP 11/20-11/21
2009S04 古坂 道弘
(北海道大学大学院工学研究科)
Technical feasibility study of mini-focusing small-angle neutron scattering instrument    
2009S05 野田 幸男
(東北大学多元物質科学研究所)
Structural study of functional materials and development of advanced methodology using SuperHRPD BL08 SuperHRPD 12/14
2012S06 大友 季哉
(高エネルギー加速器研究機構)
Fundamental research of hydrogen storage mechanism with high-intensity total diffractometer BL21 NOVA 12/3-12/4
2009S07 日野 正裕
(京都大学原子炉実験所)
Construction of advance neutron beam line for VIllage of Neutron Spin Echo spectrometers (VIN ROSE) BL06 VIN-ROSE 11/16
2009S08 高原 淳
(九州大学先導物質化学研究所)
Analysis of Dynamics at Nano Interface of Functional Soft Matter Principal BL16 SOFIA 10/3-10/4
2009S09 大山 研司
(東北大学金属材料研究所)
Dynamic and Static Structural Analysis by 3D polariometry spectroscopy on Neutron Analysis System for Functional Material BL23 POLANO 11/12
2009S10 福永 俊晴
(京都大学原子炉実験所)
Structural study of batteries by using the special environment neutron powder diffractometer BL09 SPICA 12/14
2009S11 鬼柳 善明
(北海道大学大学院工学研究科)
Neutron Transmission Imaging (BL22)  

【准教授公募】

 11/30を締め切りとして、准教授の公募が行われている。
(公募内容)J-PARCにおける中性子分光器の先端的な利用及び性能向上を通じて、物質科学研究を展開する。また、本所における大学共同利用や大学連携、さらに構造物性センターとの連携を推進し、その中でリーダーシップを発揮する。

2. 受賞

 山田 悟史(のりふみ)KEK物構研助教、および菱田 真史(まふみ)筑波大学数理物質系 助教が第11回日本油化学会オレオサイエンス賞を受賞した。この賞は日本油化学会が刊行する学会誌オレオサイエンスに掲載された総説の中から特に優れたものに授与されるもので、本受賞は中性子と放射光を組み合わせて行った一連の研究「添加剤により誘起される巨大単層膜ベシクルの形成メカニズム」に関する総説が認められたことによるものである [ 山田悟史, 菱田真史, オレオサイエンス 11 (2011) 205-211 ]。
 なお、詳細については以下の物構研トピックスにて報告済みである。
  http://www2.kek.jp/imss/news/2012/topics/121016Oleo-Award/index.html

 

(1) 構造科学グループ

【BL08(SuperHRPD)超高分解能粉末回折装置】

 SuperHRPDは装置コミッショニングが終了、Run#44期間中に5件の一般課題を実施した。BL08を一部用いた研究成果「プラセオジム・ニッケル酸化物の高い酸素透過率の原因を解明」がプレス発表された。
 http://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Release/20121019150000/

【BL09(SPICA)特殊環境中性子回折装置】

 Run#44期間中に、バックグランド低減作業とチョッパー類のテストを行った。このRunでは、本格的なバックグランド除去の前に、第1段階としてデータ収集可能な最低限のバックグランド除去を目指した。下図に示すようにバックグランド低減し、T0およびディスクチョッパー調整を行い中性子発生に伴う25Hzのバーストピークも取り除くことが調整できた。

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図1. バックグランド低減作業前(左)と後(右)の背面バンク。

 

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図2. T0チョッパー調整前(左)と調整後(右)の中性子モニタ図形。右図のように、スパイク状のバーストピークを除去することができた。

 

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図3. T0およびディスクチョッパー調整後の中性子モニタ図形。

 

 さらに、タイムフォーカスシングパラメータも導出し、下図のようにNIST製標準試料の回折図形のヒストグラム化に成功した。今後、さらにバックグランド低減作業を継続しながら、in situ測定のテスト試験を実施する

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図4. NIST ZnOの回折図形。

 

(2) 中性子光学研究グループ

【BL05(NOP)中性子光学基礎物理測定装置】

中性子ガイド管増設によるビーム強度の増強

 BL05中性子基礎物理ビームラインは、一本のビームラインを、上流部に設置した中性子スーパーミラーベンダーにより分岐し、各々特徴のある三本の冷中性子ビーム(低発散、非偏極、偏極)を実験エリアに導いている。今回、三分岐のひとつ、非偏極ビームブランチに、中性子強度増強のためスーパーミラーガイド管を増設した。非偏極ビームブランチには、極冷中性子(VCN)を超冷中性子(UCN)に減速するドップラーシフターが設置されており、今回のガイド管増設でUCN生成量が大幅に増強される。UCN生成実験は12月後半に予定されており、それに先立ち、現在、VCNのエネルギー分布、ビームプロファイル、ビーム発散角分布等の特性測定を進めている。
 RCSからMLFへの陽子ビーム供給は40 ms周期であるため、TOFによる中性子エネルギー測定では、通常、中性子源から実験エリアまでの飛行時間が40 msを超える低エネルギー中性子を測定することができない。NOPビームラインでは中性子源から実験エリアまでの距離が16 m以上のため、速度が400 m/s(E = 0.84 meV、λ= 0.99 nm)より遅い中性子のエネルギー分布が測定できないことになる。そこで、RCSからMRへ陽子ビームを取り出す期間、すなわちMLFに陽子ビームが供給されていないタイミングで中性子を計数して、エネルギー分布の測定を行った。これにより、速度が50 m/s程度までの遅い中性子が計数でき、波長が3 nmより短い領域で約5倍、3 nm以上では約25倍増加していることが確認された。今後、発散角等の測定及びシミュレーションとの比較を進める。

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図5. 非偏極ビームブランチの中性子波長分布。黒はガイド管設置前、赤は設置後。RCSからMRへの取り出しタイミングの変更により、ガイド管有無での測定波長領域が変わっている。

 

(3) ソフトマターグループ

【BL16ソフト界面解析装置SOFIA】

装置開発状況

 J-PARC/MLFのBL16に設置された試料水平型反射率計SOFIAは自由な液体表面に中性子ビームを照射できるよう、水平より下方にビームが取り出せるようなビームラインを設計している。J-PARC/MLFではこれまで液体試料の取り扱いに大きな制限がありこのような液体表面の測定が許されていなかったが、今年に入ってこのルールが緩和され、測定が行えるようになった。現在、光学系や試料環境など装置側の対応を進めている最中で、12月より実際に課題を受け入れる予定である。

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図6. 中性子の入射角を変えるためのミラーシステム。

 

(4) 量子物性グループ

【研究会】

 HRC研究会とJ-PARC偏極中性子散乱装置POLANO計画研究会を、それぞれ、11月6日と11月12日に開催した。前者はMLFのBL12に設置されている高分解能チョッパー分光器HRCに関する研究会、後者はBL23に建設が計画されている偏極中性子散乱装置POLANOに関する研究会であり、今年度研究成果及び来年度研究計画について議論を行なった。また、これらの研究会はS型課題(それぞれ2012S01、2009S09)の予備審査会を兼ねたものでもあった。以下、研究会のプログラムを記す。

HRC研究会

  2012年11月6日(火)10:00 - 17:00

  高エネルギー加速器研究機構東海1号館1階116室

はじめに(物性研附属中性子科学研究施設施設長) 柴山充弘
平成24年度活動報告 伊藤晋一(30分)
 
● 四季・アマテラスの現状
  四季の現状と成果 梶本亮一(20分)
  アマテラスの現状と成果 中島健次(20分)
● HRCのサイエンス 成果及び研究計画
  HRCにおけるブリルアン散乱 遠藤康夫(20分)
  YVO3における軌道波励起の探索 川名大地(20分)
  二次元遷移金属酸化物のスピンダイナミクス 吉沢英樹(15分)
  一次元ギャップ系 横尾哲也(15分)
  マルチフェロイック物質Ba2CoGe2O7のエレクトロマグノン 左右田稔(15分)
  カゴメ格子Cs2Cu3SnF12 佐藤卓(15分)
  充填スクッテルダイトSmFe4P12の多重項励起 桑原慶太郎(15分)
  Y(Sc)Mn2における擬一次元的スピン揺らぎと重い電子状態 門野良典(15分)
  反強磁性金属Crのスピンダイナミクス 平賀晴弘(20分)
  元素戦略電子材料(鉄系超伝導) 飯村壮史(20分)
  元素戦略磁性材料(NdFeB) 小野寛太(20分)
 
● 来年度計画
  平成25年度計画 益田隆嗣(30分)
  物構研所長コメント 山田和芳
  主査講評 山室修
  副査コメント 脇本秀一
  おわりに(物構研中性子科学研究系主幹) 大友季哉

 

J-PARC偏極中性子散乱装置POLANO計画研究会

  2012年11月12日(月)13:30 - 17:00

  高エネルギー加速器研究機構東海1号館1階116室

● 装置建設
  装置概要と偏極デバイスへの取り組み 大山研司(25分)
  建設の進捗状況 横尾哲也(25分)
  オンビームSEOP型3He偏極フィルターの実用化研究 奥隆之(25分)
 
● 期待されるサイエンス
  BL23を用いたサイエンスの可能性 佐藤卓(25分)
  スピン偏極中性子を用いたマルチフェロイックの研究 佐賀山基(25分)
  BL23における偏極非対角項観測の可能性 脇本秀一(25分)
 
審査員講評 門野良典(主査)
  中島健次(副査)

 

(5) 水素貯蔵基盤研究グループ

【BL21(NOVA) 高強度全散乱装置】

リチウムアルミニウムアミドLiAl(ND2)4

 車載用の水素貯蔵方法としてアンモニアから水素を取り出すリチウムアルミニウムアミドLiAl(ND2)4(以下、Li-Al-amide)は、100-160℃でアンモニアを放出するの熱分解過程を解明するため、種々の熱処理試料についてNOVAで中性子散乱測定を実施して局所構造を解析した。熱分解過程においてアモルファス化を伴っており、通常の粉末結晶構造解析(リートベルト法)による解析は困難である。
  LiAl(NH2)4 → LiAl(NH)2 + 2NH3 → 1/3Li3AlN2 + 2/3AlN + 8/3NH3
 試料合成の制約により測定試料量は50 mg程度の非常に少量であったが、検出器バンク全体のデータを適切に足し合わせれば十分な統計精度のS(Q)が得られることを実証できた。熱処理前の試料はリートベルト解析可能で水素を含む結晶構造パラメーターを決定した。S(Q)をフーリエ変換して得られるG(r)から、Li2NDにおけるND距離には相関ピークが見られず、熱処理によりLi2NDが生成していないことが分かった。

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図7. LiAl(ND2)4のNOVAによる中性子散乱パターンS(Q)(左)とフーリエ変換により得られた原子対相関関数G(r)。

 

 そこで、LiAl(NH)2生成を伴わずに次式の反応が起きていると過程して、熱処理前試料により得られた結晶構造パラメーターを初期値としてPDF解析を行ったところ、熱処理過程のG(r)によくフィットさせることができた(図8)。
  (1-x)LiAl(NH2)4 → x/3Li3AlN2 + 2x/3AlN + 8x/3NH3
 熱処理によりAl-NやN-N相関が明瞭になっており、AlN4構造単位によるネットワーク構造が生成していることがわかった。放射光を用いたG(r)から、AlN4構造の存在は示唆されていたが、PDF 解析により上式の反応の妥当性が確認されたのは初めてである。

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図8. LiAl(ND2)4の原子対相関関数G(r)のPDF解析結果。