KENS

KEK

月例研究報告 12月

1. 共同利用状況など

【300 kW運転】

 Run#45が11/21より開始されており、パルスあたり300 kWでの運転が行われている。また、Run#45より2013B一般課題が実施されている。

【博士研究員公募】

 J-PARC/MLFに高エネルギー加速器研究機構が建設し運用中の中性子科学実験装置(BL05, BL06, BL08, BL09, BL12, BL16, BL21) を用いた中性子科学研究を展開するとともに、その装置の高度化を進めることを職務とする博士研究員1名を公募中(締め切り12/20)。

 

(1) 構造科学グループ

【BL08(SuperHRPD)超高分解能粉末回折装置】

 8月に大学から学部生を受け入れてサマーチャレンジを実施していたが、その秋実習として、BL08では5人を受け入れて、11月23、24日に実施した。具体的にはMnOの相転移を観測し、8月の実習で得たX線のパターンと比較した。

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【BL09(SPICA)特殊環境中性子回折装置】

 11月に引き続き、SPICAのコミッショニングを継続している。バックグランド低減のための試行錯誤を行なっている。10月のコミッショニングで低角バンクに影が出ていた点を改善した。小角バンクにおいては、バックグランド源を特定し、対処方法を検討している。
 40本の自動試料交換機が、特定の軸のモーターが定期的に故障する問題に関して検討を行った。その結果、大気中では長時間連続運転では現象が再現しないことから、真空下でのステッピングモーターの排熱効率の低下に伴い、モーターが故障するものと判断した。負荷低減のため、モーターの規格に余裕をもたせ、入力電流の調整でトルク制御を行った。その結果、真空下の連続運転においても故障は再発しないことを確認した。

 

(2) 中性子光学研究グループ

3He中性子スピンフィルターの開発】

 3Heの原子核はスピンに依存した大きな中性子吸収断面積を持つため、これを偏極すれば中性子のスピンフィルターが実現できる。中性子偏極デバイスとしては、現在、磁気多層膜中性子ミラーや磁気単結晶が実用化されているが、磁気ミラーは低エネルギー領域(冷中性子)の偏極に、また磁気単結晶はブラッグ散乱を利用しているため短波長の中性子偏極に限られる。これらに比較して3Heスピンフィルターは、エネルギーにして冷中性子領域から熱中性子領域の中性子を偏極することができることに加えて、ガスであるため自由な形状にでき広い中性子散乱角度をおおうことができるというメリットを持つ(図1)。3He核偏極にはふたつの方法がある。SEOP(spin-exchange optical pumping)法では、光ポンピングによりルビジウム等アルカリ金属原子の最外殻電子を偏極させ、これと3Heの原子核がスピン交換をすることにより3He核偏極を実現する。MEOP(meta-stability optical pumping)法では、希薄なHeガスにRF磁場をかけてHe原子を準安定状態に励起させ光ポンピングでその電子を偏極させ、この電子と3He原子核とのスピン交換で3He核偏極を実現する。SEOP法ではスピン交換の時定数が長く(10時間から20時間程度)、3He核偏極の達成に時間がかかり、MEOP法では1 Pa程度の低圧でのみ核偏極ができるため、偏極後に3Heガスを圧縮する必要があるなど、各々一長一短あるものの、達成できる3He偏極率はいずれの方法でも70%~80%となっている。現在までに世界各国の中性子施設で3He核偏極による中性子スピンフィルターの実用化が進められているが、特に過去10年ほどの間にレーザーや3Heセル材料等さまざまな技術開発があり3Heの偏極性能が向上した。
 中性子偏極装置としての3Heスピンフィルターは、中性子分光器の上流部、遮へい体に囲まれた限られた空間に装置を納める必要があり、KENSでは従来、装置の小型化に特化した3He偏極装置の開発を進めている。図2は可搬で小型のオンビーム3He偏極装置で、高偏極を実現するために10-3以内の精度で一様な静磁場環境を実現している。また、偏極中性子散乱測定で必須の中性子スピン反転を実現するため、3Heスピンを反転できるAFP (adiabatic fast passage)-NMRを装備しており、偏極を失うことなく瞬時に3Heのスピン方向、すなわち中性子のスピンを反転することができる。現在この装置を使った偏極中性子実験がJ-PARC/MLFで進められている。

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図1. 非偏極中性子ビームが3Heスピンフィルターを透過した後の中性子偏極率。中性子偏極率PN3He偏極率PHeσρd (=opacity)の関係はPN=tanh(σρdPHe)となり、σρd3Heガスの中性子吸収断面積、原子数密度、厚さの積。

 

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図2. 直径20 cm、長さ30 cmのソレノイド内に納められたオンビーム型3He偏極装置。

 

(3) ソフトマターグループ

【研究会】

 以下の通り、BL16とBL06に関するS型課題研究会をそれぞれ行った。

BL16 Neutron Reflectometer Workshop 2012

  2012年10月3日(水) 〜 4日(木)

  高エネルギー加速器研究機構 東海1号館1階116室

10月3日(水)
13:30〜 Opening remark
13:35〜 Outline of JST ERATO Takahara Soft Interfaces Project A. Takahara
14:05〜 Current status of neutron reflectometer SOFIA N. L. Yamada
14:35〜 Swollen and Collapsed Structure of Surface-Grown Polyelectrolute Brushes M. Kobayashi
15:25〜 Time-resolved X-ray reflectivity measurements in the simultaneous multiple angle-wavelength dispersive mode: from instrumentation development to first applications W. Voegeli
16:10〜 Neutron Reflectivity Studies on the Release Characteristics of Polymer Multilayer Thin Films K. Char
17:15〜 Hydrophilic surfaces spontaneously formed by segregation of block copolymers M. Inutsuka
17:45〜 Time-resolved neutron reflectivity measurements of polymer interdiffusion D. Kawaguchi
 
10月4日(木)
9:00〜 Phase separation and dewetting of deuterated polystyrene/ poly(vinyl methyl ether) blend thin films by TOF-neutron specular and off-specular reflectivity measurements H. Ogawa
9:30〜 Aggregation states of polymers at non-solvent interfaces K. Tanaka
10:00〜 Free discussion
11:15〜 J-PARC tour

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KEK-S課題中性子スピンエコー研究会

  2012年11月16日(金)

  高エネルギー加速器研究機構 つくば 4号館2階輪講室1

11月16日(金)
13:30〜 VIN ROSE(MIEZE/NRSE)分光器とBL06ビームラインの現状 日野 正裕
13:45〜 中性子スピンエコーによる磁性体のスローダイナミクス研究〜MIEZEへの期待 田畑 吉計
14:15〜 Study of Slow Lattice Dynamics in Relaxor Ferroelectric by Neutron Spin Echo and Backscattering Spectroscopy 松浦 直人
15:00〜 細孔水の構造と水の第2臨界点 吉田 亨次
15:30〜 ダイナミクス解析装置DNAの現状と成果 柴田 薫
16:00〜 iNSEの現況と来年度の運用にむけて 遠藤 仁
16:30〜 総合討論

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【BL16ソフト界面解析装置SOFIA】

成果報告

 新たに以下の成果発表に関する報告を受けた。

 T. Fujiwara, H. Takahashi, T. Yanagida, K. Kamada, K. Fukuda, Y. Fujimoto, N. Kawaguchi, N. L. Yamada, M. Furusaka, K. Watanabe, and M. Uesaka,
"Study on Ce:LiCAF scintillator for 3He alternative detector", Neutron News 23, 31 (2012).

 A. Takahara, H. Arita, K. Mitamura, M. Kobayashi, N. L. Yamada, and H. Jinnai,
"Chain Mixing Behavior at Interface between Polystyrene Brushes and Polystyrene Matrices", Polymer J., accepted.

 K. Mitamura, N. L. Yamada, H. Sagehashi, N. Torikai, H. Arita, M. Terada, M. Kobayashi, S. Sato, H. Seto, S. Gokou, M. Furusaka, T. Oda, M. Hino, H. Jinnai and Atsushi Takahara,
"Novel Neutron Reflectometer SOFIA at J-PARC/MLF for In-Situ Soft-Interface Characterization", Polymer J., accepted.

課題実施状況

 SOFIA反射率計はRun#44(10/18-11/12)でプロジェクト課題2件(9.5日)と一般課題4件(12日)を実施し、無事2012A期の課題を全て消化した。

装置開発状況

 J-PARC/MLFのBL16に設置された試料水平型反射率計SOFIAは自由な液体表面に中性子ビームを照射できるよう、水平より下方にビームが取り出せるようなビームラインを設計している。J-PARC/MLFではこれまで液体試料の取り扱いに大きな制限がありこのような液体表面の測定が許されていなかったが、今年に入ってこのルールが緩和され、測定が行えるようになった。11月は光学系や試料環境など装置側の対応を進め、下図のような反射率プロファイルを得ることに成功した。これを用い、12月より実際に液体表面実験の課題を受け入れる予定である。

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重水表面における中性子反射率プロファイル

 

(4) 量子物性グループ

 日本中性子科学会第12回年会(12月10-11日、京都大学百周年時計台記念館)において、高分解能チョッパー分光器(HRC)及び偏極中性子散乱装置(POLANO)に関する以下の5件の研究発表を行なった。
 このうち、充填スクッテルダイト化合物SmFe4P12の多重項励起の研究は、HRCを用いた研究結果であるが、吸収断面積の大きい自然同位体構成のSmを含む化合物の磁気励起の観測を、吸収断面積が比較的小さくなる中性子エネルギーを選ぶことにより、成功させたものである。Sm系充填スクッテルダイト化合物SmT4X12(T:遷移金属X:プニクトゲン)は磁場に鈍感な重い電子状態や多極子秩序などの興味深い物性を示すが、結晶構造に起因した強いcf混成効果や小さな結晶場によりこのような多彩な物性を示すと考えられている。Smイオンの価数は磁化率の測定から3価であると考えられるが、J多重項の分裂の大きさなど、この系における基本的な4f電子状態の情報よくわかっていない。HRCを用いて、500meVのエネルギーの高い中性子を入射して非弾性中性子散乱実験を行なうことにより、SmFe4P12の4f電子状態を調べた。このエネルギーの周辺でSmの吸収断面積が小さくなる。その結果、低温において80meV付近に励起を観測した。その散乱強度の散乱ベクトル依存性は磁気形状因子に従い、また、この励起は高温で消失するので、磁気励起であると考えられる。この励起エネルギーは自由Sm3+イオンのJ多重項間のエネルギー差(130meV程度)に比べてかなり低く、興味深い結果であり、電子状態を解明する上で重要な情報である。吸収断面積の大きい元素を含む化合物の研究は、熱中性子を用いた従来の研究では同位体置換を行なうことによってなされてきたが、この研究は、大強度のパスル中性子源で高エネルギー中性子を用いることにより、同位体置換しない自然元素を用いても可能であることを示したものである。

・ 高分解能チョッパー分光器(HRC)の近況、伊藤晋一(KEK)他
・ 高分解能チョッパー分光器(HRC)における中性子ブリルアン散乱実験、伊藤晋一(KEK)他
・ J-PARC偏極中性子散乱装置POLANO : 偏極デバイスの検討、大山研司(東北大)他
・ 偏極中性子散乱装置POLANOプロジェクト、横尾哲也(KEK)他
・ 充填スクッテルダイト化合物SmFe4P12の多重項励起、鈴木明日香(茨城大)他

 

(5) 水素貯蔵基盤研究グループ

【BL21(NOVA) 高強度全散乱装置】

S型課題研究会

 平成25年度のS型課題の予備審査会を兼ねて、BL21 NOVAの研究会を12/3-12/4に開催した。中性子産業利用推進協議会 物質科学研究会と協賛し、iMateriaにおける水素化物構造解析も含めた議論を行った。

NOVA研究会

  2012年12月3日(月) 〜 4日(火)

  高エネルギー加速器研究機構 東海1号館1階 116号室

12月3日(月)
13:30〜 NOVAの現状とS型課題 大友 季哉(KEK)
14:00〜 水素self-term補正について 大下 英敏(KEK)
14:30〜 水素ガス雰囲気下実験の現状 池田 一貴(KEK)
 
14:45〜15:00 休憩
 
15:00〜 水素貯蔵合金の結晶構造および局所構造の解析 中村 優美子(産総研)
15:25〜 希土類金属水素化物の水素副格子の解析 町田 晃彦(JAEA)
15:50〜 アルミ系水素化物の構造解析 池田 一貴(KEK)
16:10〜 In-situ中性子回折によるLa-Ni系超格子型水素吸蔵合金の結晶構造 岩瀬 謙二(茨城大)
16:30〜 ニッケル水素電池負極用水素吸蔵合金の結晶構造解析 中村 仁(日本重化学工業)
16:50〜 イオン伝導物質におけるカチオン拡散機構の解明を目指した構造研究 小野寺 陽平(京大)
 
17:15〜17:25 休憩
 
17:25〜 今後のS型課題の進め方について
 
12月4日(火)
9:00〜 有機溶液および水溶液中の水素位置の同位体置換を用いた精密構造解析 亀田 恭男(山形大)
9:25〜 メソ細孔内の水やタンパク質の水和水のEPSR法による構造解析 山口 敏男(福岡大)
9:50〜 液体金属、半導体金属、アルコール溶液等のリバースモンテカルロ法による構造解析 丸山 健二(新潟大)
10:15〜 分子動力学を要素とするリバースモンテカルロ法の開発 川北 至信(JAEA)
 
10:35〜10:50 休憩
 
10:50〜 NOVAにおけるレビテーション実験計画 鈴谷 賢太(JAEA)
11:15〜 金属ガラスの構造解析 伊藤 恵司(岡山大)
 
11:35〜 全体討論 鈴谷 賢太(JAEA)
11:50〜12:00 講評(井手本、大山、山室)

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