来年度上半期の一般利用課題公募(2013A)が、J-PARC/MLF 中性子課題審査部会において審査された。
J-PARCの粉末回折装置は、既存のソフトウェアでは扱っていない広いQ範囲の回折データが得られ、イベント方式を採用して各検出器ピクセルで測定されたデータが時刻情報を有すること、さらに、装置と連動した構造評価システムの構築など、材料のキャラクタリゼーション能力が著しく高くなる。また、多様な粉末データ解析手法が開発され、それらとの連携や、研究テーマ毎の解析法の類型化、解析結果の視覚化(例えば構造パラメータの鳥瞰図や物性データとの相関)など、材料研究へ向けた粉末法の発展が期待される。そのため、KEKは構造解析ソフトウェアスウィーツZ-Codeを開発中である。
Z-Codeの講習会を3月11,12日に実施する。講習会では、リートベルト解析ソフトウェアZ-Rietveld,マキシマムエントロピー法の計算ソフトウェアZ-MEMや視覚化ソフトZ-3Dなどについて、実習を含めた解説を行う。又、SuperHRPD(BL08)、SPICA(BL09)、PLANET(BL11)、TAKUMI(BL19)、iMATERIA(BL20)、NOVA(BL21)を利用したユーザーにZ-RietveldのMac OS X版(ver.0.9.40)とWindows版(ver.0.9.37)を配布している。
12th 日韓中性子散乱研究会
第12回日韓中性子散乱研究会が2月3-5日に琉球大学で開催された。Z-Code, BL09について発表を行った。
課題実施状況
SOFIA反射率計はRun#46(1/13-2/8)でプロジェクト課題6件と一般課題2件を実施した。 また、液体表面に単分子膜を作成する装置Langmuirトラフが新たに納品された。現在、最終調整中で、3月にビームラインに据え付けての動作確認を行う予定である。
高分解能チョッパー分光器(HRC/BL12)では、比較的高いエネルギーの中性子を入射し、高分解能で、散乱角が1°程度以下に設置された検出器を用いて、前方周辺で行なう中性子非弾性散乱実験、いわゆるブリルアン散乱実験により、多結晶試料の強磁性体の(000)から伝播するスピン波を観測できるように装置整備を行なってきたことをこれまで報告してきた。その成果を論文投稿していたが、受理され掲載が決定されたので、その内容について報告する[1]。
多結晶の強磁性体La0.8Sr0.2MnO3及びSrRuO3のスピン波の測定を行なった。結晶構造は両者ともほぼ立方晶で近似でき、強磁性転移温度は、La0.8Sr0.2MnO3はTc = 316 K、SrRuO3は165 Kである。まず既知の強磁性体La0.8Sr0.2MnO3の多結晶試料からのスピン波を観測し、分散関係がE(Q)=DQ2で表わされることを確認した。フィッティングで得られたスティッフネス定数Dの値は、T = 6 KでD = 130 ± 4 meVÅ2、T = 245 Kで88 ± 2 meVÅ2であり、単結晶試料を用いてすでに報告されている値D = 131 meVÅ2(T = 14 K)[2]、89 meVÅ2(250 K)[3]に一致した。これはHRCのブリルアン散乱実験の正しさを示すものである。次に、中性子非弾性散乱実験に必要な大型の単結晶試料が合成されていないSrRuO3のスピン波をT = 7 Kで観測した。分散関係はE(Q) = E0+DQ2でフィットでき、E0 = 2.2 ± 0.3 meV、D = 48 ± 5 meVÅ2を得た。一般に、高対称の結晶構造をもつ強磁性体は磁気異方性がなく、スピン波はギャップレス(E0 = 0)である。実際、La0.8Sr0.2MnO3のスピン波はギャップレスである。一方、SrRuO3はLa0.8Sr0.2MnO3と同様に立方晶で高対称の結晶構造をもつが、今回、明らかなエネルギーギャップを観測した。SrRuO3においては異常ホール効果が報告されていて、その起源はRuのスピン軌道相互作用であることが示唆されている[4]。スピン軌道相互作用が磁気異方性を誘起する可能性があり、今回観測したエネルギーギャップはこの事情を反映しているのかもしれない。
[1] S. Itoh, Y. Endod, T. Yokoo, D. Kawana, Y. Kaneko, Y Tokura, M. Fujita, J. Phys. Soc. Jpn. (2013) in press.
[2] F. Moussa, M. Hennion, P. Kober-Lehouelleur, D. Reznik, S. Petit, H. Moudden, A. Ivanov, Y. M. Mukovskii, R. Privezentsev, and F. Albenque-Rullier, Phys. Rev. B 76 (2007) 064403.
[3] Y. Endoh and K. Hirota, J. Phys. Soc. Jpn. 66 (1997) 2264.
[4] Z. Fang, N. Nagaosa, K. S. Takahashi, A. Asamitsu, R. Mathieu, T. Ogasawara, H. Yamada, M. Kawasaki, Y. Tokura, and K. Terakura, Science 302 (2003) 92.
NaAlD4における水素吸蔵放出反応
NaAlH4は単体では溶融しないと水素放出反応が進行しないが、数mol %のTi触媒を添加すると固体状態で水素の吸蔵放出反応が可逆的に進行することが知られている。この反応には物質内の構造の乱れやイオンの拡散が関係していると考えられ、いくつかのモデルが提唱されているが、反応機構は未だ解明されていない。そこで、空孔の生成・拡散が上述の反応に関与しているというモデルに基づいた解析を行うことを目的とし、NaAlD4水素吸蔵放出反応のin-situ中性子回折測定を開始した。
重水素試料による精度の高い構造解析を行うため、まずAlD3とNaDを合成し、これらの物質量比1:1混合粉末をミリング処理することでNaAlD4を合成した。さらに触媒として, 6 mol %のTiCl3をミリング処理により添加した.温度を393 Kに保持した状態で重水素圧力を0〜10 MPaの範囲で変化させながら高強度全散乱装置NOVA (J-PARC)において中性子回折を測定した。
測定結果より、NaAlD4の合成に成功したことをリートベルト解析により確認した。また、in-situ測定により水素吸蔵放出反応に伴うNaAlD4からNa3AlD6さらにNaDへの可逆的な相変化を初めて観測できた。水素吸蔵放出反応に伴う構造変化についてリートベルト解析・二体相関関数解析を進めている。