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月例研究報告 5月

1. 共同利用状況など

【 J-PARC一般利用課題(2013B)】

 平成25年度後期課題(2013B)の公募が、5/17~6/7に行われる。2013Bの実施期間は、平成26年度2月から3月の予定である。

【 AONSA school 】

 アジア太平洋オセアニア中性子科学会主催による中性子学校が、J-PARCにおいて5/17~5/21に開催される。平成23年に開催予定であったが、震災のため、今年に繰り越されたものである。参加者は40名、うち海外からの参加者は29名である。

 

(1) 量子物性グループ

【BL23(POLANO)偏極中性子散乱装置】

POLANO/BL23建設キックオフミーティング

 偏極中性子散乱装置POLANOの建設キックオフミーティングが4月25日東海1号館で開催され、関係者26名が出席した。POLANOの建設にあたっては、KEK及び東北大学が共同で建設を推進するために、両機関がそれぞれ概算要求を行なっていたが、両機関とも建設費が平成24年度補正予算で認められた。MLFのBL23においてPOLANOの建設が具体的にすすめられることになったので、平成25年度中の建設をめざして、このミーティングが開催された。POLANOの性能と設計、実現に必要な技術開発が紹介された。特に、建設業務及び技術開発に関連して、スーパーミラーアナラーザー、He3偏極装置、動的核偏極装置、建設現場のそれぞれのリーダーが紹介され、挨拶があった。また、これまでの準備状況と建設計画に関する年次計画が示された。今回の補正予算による建設では、KEKは主に、ガイド管、チョッパー、遮蔽体等を分担し、東北大は主に、装置本体、偏極装置、検出器、計算環境、ユーティリティー等を分担する。なお、6月12-13日に東北大金研でPOLANOのサイエンスに関する研究会を開催する予定である。

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図1. POLANO建設キックオフミーティング参加者一同。

 

(2) ソフトマターグループ

【BL16(SOFIA)ソフト界面解析装置】

課題実施状況

 SOFIA反射率計はRun#49(2/8-3/10)でプロジェクト課題4件と一般課題3件を実施した。
装置開発としては、1 MW運転に対応するための高計数率を目指して開発してきたMPPC(半導体ベースの光検出器)を利用した1次元検出器アレイについて、実際の検出器位置に設置しての反射率測定を行った。実験は無事終了し、現在解析を進めている。また、新しい試料環境として湿度調整機構のテストを行った。これは窒素ガスを水に通してバブリングすることによって空気を吸湿させるというもので、バブリングする際の温度を制御することによって湿度の制御が可能である。最初のテストとしては良好な結果であったが、より難しい高湿度雰囲気の制御のための課題も明らかになった。問題点については今後改善していく予定である。

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図2. MPPCを利用した1次元検出器アレイを設置した様子。

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図3. 湿度制御機構を設置した様子。

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【BL21高強度全散乱装置NOVA】

中性子ビームモニターnGEMの開発

 NOVAでは、今後の加速器ビームパワーの増強を見据え新しい中性子ビームモニターnGEM(図4)の開発をおこなっている。nGEMは高計数特性に優れたGas Electron Multiplier(GEM)を用いた中性子二次元検出器であり、現在NOVAで使用されている中性子ビームモニターのアップグレード版である。性能面においても、オンボード上でおこなうイベント選別アルゴリズムを見直したことで、高計数特性や位置分解能などの向上が期待できる。nGEMはコンパクトな形状を持ち、ネットワーク経由ですぐにデータ収集できる他、現行の中性子ビームモニターに比べて、より汎用的で機能的な検出器システムである。nGEMの基本特性を表1にまとめた。

中性子感度@1.8 &#197 0.01% ~ 0.1%
データ取得レート 1 MHz (Max)
位置分解能 ~1 mm (FWHM)
動作電圧 ~2600 V
有感領域 100 mm × 100 mm

表1. nGEMの基本特性
(*)中性子感度は中性子コンバータであるホウ素蒸着厚さに依存する

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図4. nGEMの外観。

 2013年5月に3台のnGEMをNOVAに持ち込んで、TOF分布と二次元画像の取得、計数プラトー特性の評価をおこなっている。図5にnGEMで測定されたTOF分布を示す。従来の中性子ビームモニターと同様のプロファイルが得られた。図6にnGEMのビーム上流側にB4C焼結体をセットした際の二次元画像を示す。図6(A)は従来のイベント選別アルゴリズムで取得された画像で、図6(B)は新しいアルゴリズムで取得された画像である。新しいアルゴリズムでは、中性子が反応した位置に近いチャンネルを選別することができるので、より明瞭な画像が得られている。図7にnGEMの計数プラトー特性を示す。2500 V~2700 Vのプラトー領域上で検出器を動作させることで、安定動作が期待できる。その他にもパルス幅分布の取得も可能であり、検出器劣化現象の監視に活用できる。なお、計数特性として、オフラインの試験において1 MHzを越えるデータ収集を確認しているが、イベントの数え落としの有無については、実際の運用で確認していく予定である。
 現在、BL09向けに2台、BL21向けに1台のnGEMが準備されており、データ収集ソフトウェア(DAQ-Middleware)を含めて夏前にインストールをおこなう。

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図5. TOF分布。

 

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図6. (A)従来のアルゴリズムで取得された画像、(B)新しいアルゴリズムで取得された画像。

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図7. nGEMの計数プラトー特性。