KENS

KEK

月例研究報告 9月

1. 共同利用状況など

【 S型課題公募開始 】

 平成26年度S型課題公募を9/2より、11/8を締め切りとして開始した。

 

(1) 量子物性グループ

【BL23偏極中性子散乱装置POLANO】

POLANO建設開始

 偏極度解析分光装置POLANOのJ-PARC/MLFのBL23での建設に関する実作業が開始された。まず、8月22日に、シャッター 内に設置するために昨年度製作したスーパーミラー(m=4)のガイド管を、KEKつくばキャンパスから移送し、角ダクト(シャッター内ガイド管の真空容 器)にヘンデル棟にて挿入・格納作業を実施した。8月26日にこれをヘンデル棟から搬出し、BL06のガイド管挿入済み角ダクトとともに、MLF第3機器 搬入口から搬入し、シャッターセクションに仮置きした。9月下旬に線源グループにより、ガイド管に挿入する作業が実施される予定である。

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図1. POLANO(BL23)の入射部のレイアウト。赤丸がシャッター内ガイド管。

 

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図2. 角ダクトへのガイド管の挿入作業。

 

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図3. MLF シャッターセクション内の作業。

 

(2) ソフトマターグループ

【BL06中性子共鳴スピンエコー装置群VIN-ROSE】

建設状況

 J-PARC/MLFのBL06で建設中の中性子共鳴スピンエコー分光装置において、昨年度作製済みであったシャッター内に設置するた めのスーパーミラーガイド管をシャッター内ガイド管用真空容器に挿入し、8月26日にBL23のガイド管挿入済み角ダクトとともにシャッターセクションに 仮置きした。9月下旬に線源グループにより、ガイド管に挿入する作業が実施される予定である。

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図4. 左:真空容器に収められたガイド管。右:MLF シャッターセクション内に搬入されたガイド管。

 

【BL16ソフト界面解析装置SOFIA】

成果報告

 8/29-31にエポカルつくばで開催された国際会議LPBMS2013にて、SOFIA反射率計を用いた研究成果6件(口頭1件、ポスター5件)が報告された。

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【BL21高強度全散乱装置NOVA】

局所構造解析分解能の検証

 NOVAでは中性子回折プロファイルのフーリエ変換から導出される二体分布関数g(r)について局所構造解析を行っている。その分解能は散乱ベクトルの大きさの最大値Qmaxの逆数に比例することが知られており、0.1 Å程度の実空間分解能を得るためにはQmax > 30 Å-1が必要である。Fullerene(C60) の結晶構造は60個の炭素原子からなるサッカーボール状であり、図1に示すように5員環と6員環から構成される。中性子回折プロファイルの平均構造 (Rietveld)解析からも確認できたように、第1近接原子間距離は1.37-1.41 Å、第2近接原子間距離は2.33 Åおよび2.43 Å(図2)であるため、5員環と6員環を区別するためには0.1 Å程度の実空間分解能が必要になる。そこで、NOVAの測定で得られた構造因子S(Q)Qmax ~ 60 Å-1までのデータに対してフーリエ変換を行い、g(r)を導出したところ、Fullereneの第2近接原子間距離付近に2つのピークが確認できたので、詳細な局所構造解析が可能であることがわかった。今後は平均構造が乱れた物質で、かつ実空間分解能が必要な系に対して全散乱の特長を活かした局所構造解析に取り組んでいく。

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図5. Fullerene(C60)の中性子回折プロファイルに対する平均構造(Rietveld)解析結果と結晶構造。

 

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図6. Fullerene(C60)の中性子回折プロファイルから導出した二体分布関数と局所構造。

 

(4) 中性子光学研究グループ

【BL05中性子光学基礎物理測定装置NOP】

中性子寿命測定

 BL05では、中性子寿命の精密測定実験を進めている。中性子は電子、陽子、ニュートリノに崩壊し、その寿命は初期宇宙の元素合 成や、強い相互作用のクォーク混合行列のユニタリティーに関わる基本量である。磁気光学系を用いて正確なビーム制御を行い、同時にバックグラウンドに対す る感度を抑制あるいは弁別できる検出器を利用して、寿命の目標精度1秒未満を目指している。 スピンフリップチョッパーと呼ぶ高速チョッパーによって、 J-PARCから供給される中性子パルスを検出器体積よりも小さいバンチに刻む。検出器体積内にのみ中性子が存在する時間だけを解析対象とし、それ以外の 時刻に発生する上流からのガンマ線事象や、中性子と検出器内壁との相互作用事象を除外する。 用いている検出器Time Projection Chamberは、中性子崩壊に伴う電子を検出するガス検出器で、少量の3Heを加えることで入射中性子量を同時に測定することが でき、その比から寿命を算出する。低放射線素材の使用や追加遮蔽体、veto検出器の使用によって、宇宙線など環境バックグラウンドはS/N比1にまで低 減させている。またこの検出器は事象の発生位置、時刻、粒子の飛跡を全て記録している。入射中性子バンチの存在位置は時刻によって特定できるので、それ以 外の場所からの事象はバックグラウンドとして識別する。中性子崩壊事象と3Heによる核反応事象とは、飛程や単位長さあたりのエネルギー損失が異なり、検出信号の違いで判別できる。ガス分子の中性子による反跳など、中性子ビームに伴うバックグラウンドは、検出器のガスの圧力の異なる測定を行いその差をとることで見積もる事ができる。

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図7. 典型的なβ崩壊事象。崩壊電子の長い飛程が分かる。

 

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図8. 典型的な3He核反応事象。飛程が短い。

 

(5) KENS-DAQグループ

LiTA12システム開発

 KENS DAQグループではJ-PARC/MLFの中性子散乱実験で最も多く使用される3He位置敏感型検出器(3He- PSD)の処理回路のNEUNETシステムを開発しているが、高計数率に対応する検出器のLiTAシステムの開発も行っており、一部の実験装置で使用され ている。しかし、処理回路が大きく不安定であったので、最新の部品に置き換え、安定した小型処理回路を持つLiTA12システムを完成させた。 LiTA12検出器システムは、6Liガラスシンチレータを使用したLiTA検出器(図1)のデータ処理を行う。LiTA検出器は2.1mm角1mm厚の6Li ガラスシンチレータ(GS20相当)を16×16に、3.04mmピッチで配置した位置2次元検出器である。シンチレータごとに独立に処理をするピクセル 型検出器で、各ピクセルに対応したヒストグラムメモリをハードウェアで持ち、即座に蓄積していく高計数率型である。図2にLiTA12システムの構成図を 示す。アンプで増幅し、約4分の1に小型化した処理回路でヒストグラムデータとして蓄積していく。データはKEK素核研で開発したGbit-SiTCPで PCに送られる。 図3にJ-PARC/MLFのBL16で得られた最高計数率データを示す。左のグラフが時間分布で、横軸:時間、縦軸:カウント数で、全ピクセルデータを 積算している。右のグラフは位置2次元分布で、横軸:X位置、縦軸:Y位置、濃淡:カウント数である。2μsの時間分解能で1000パルスの測定を行って いる。最大係数率で28Mカウント/秒(cps)が得られ、ついに中性子測定で1Mcps/cm2を超える検出器の開発ができた。処理装置はさらに10倍以上の処理能力を持つので、今後は検出器の開発も進め、J-PARCのダイレクトビームが直接測れるシステムを目指す。

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図9. LiTA検出器(左)とLiTA12システムの構成図(右)

 

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図10. J-PARC/MLFで得られた最高計数率データ(左:時間分布、右:位置2次元分布)