KENS 中性子科学研究系

KEK

月例研究報告 11月

1. 共同利用状況など

【 2014A一般課題公募 】

 11/7締め切りで、2014Aの一般課題公募を行った。2013Bには、2013Aビームタイムキャンセルの影響もあり247件の応募があったが、2014Aはさらに増加し289件の応募があった。件数は、MLF中性子ビームライン全体の合計数である。

 

(1) 量子物性グループ

【 研究成果 】

・中性子科学会へ4件のPOLANO関連の講演申し込みを行った

・QENS2012/WINS2012で発表した以下のプロシーディングスがpublishされた

 "Basic Concepts of Polarisation Analysis of Neutron Chopper Spectrometer POLANO at J-PARC"
 K. Ohoyama, T. Yokoo, S. Itoh, J. Suzuki, K. Iwasa, T.J. Sato, H. Kira, Y. Sakaguchi, T. Ino, T. Oku, K. Tomiyasu, M. Matsuura, H. Hiraka, M. Fujita, H. Kimura, T. Sato, J. Suzuki, H.M. Shimizu, T. Arima, M. Takeda, K. Kaneko, M. Hino, S. Muto, H. Nojiri, C.H. Lee, J.G. Park, and S. Choi
 J. Phys. Soc. Jpn. 82, SA036 1-6 (2013).

 "Newly Proposed Inelastic Neutron Spectrometer POLANO"
 T. Yokoo, K. Ohoyama, S. Itoh, J. Suzuki, K. Iwasa, T.J. Sato, H. Kira, Y. Sakaguchi, T. Ino, T. Oku, K. Tomiyasu, M. Matsuura, H. Hiraka, M. Fujita, H. Kimura, T. Sato, J. Suzuki, M. Takeda, K. Kaneko, M. Hino, and S. Muto
 J. Phys. Soc. Jpn. 82, SA035 1-5 (2013).

 "Progress in High Resolution Chopper Spectrometer, HRC"
 S. Itoh, T. Yokoo, D. Kawana, H. Yoshizawa, T. Masuda, M. Soda, T. J. Sato, S. Satoh, M. Sakaguchi, and S. Muto
 J. Phys. Soc. Jpn. 82, SA033 1-6 (2013).

 "Neutron Brillouin Scattering on High Resolution Chopper Spectrometer, HRC"
 S. Itoh, T. Yokoo, D. Kawana, and Y. Endoh
 J. Phys. Soc. Jpn. 82, SA034 1-6 (2013).

・LPBMS2013で発表した以下の論文が掲載決定となった

 "Concepts of Neutron Polarisation Analysis Devices for a New Neutron Chopper Spectrometer, POLANO, in J-PARC"
 K. Ohoyama, T. Yokoo, S. Itoh, T. Ino, M. Ohkawara, T. Oku, S. Tasaki, K. Iwasa, T.J. Sato, S. Ishimoto, K. Taketani, H. Kira, Y. Sakaguch, M. Nanbu, H. Hiraka, H.M. Shimizu, M. Takeda, M. Hino, K. Hayashi, M. Kenzelmann, U. Fliges, and P. Hautle

 "Dynamical Properties of Spins and Holes in Carrier Doped Quantum Haldane Chain"
 T. Yokoo, S. Itoh, D. Kawana, H. Yoshizawa, and J. Akimitsu
 Submitted to Journal of Physics Conf. Series

 "Construction of Polarized Inelastic Neutron Spectrometer in J-PARCv"
 T. Yokoo, K. Ohoyama, S. Itoh, J. Suzuki, M. Nanbu, N. Kaneko, K. Iwasa, T.J. Sato, H. Kimura, and M. Ohkawara
 Submitted to Journal of Physics Conf. Series

 "Neutron Brillouin Scattering Experiments with Pulsed Neutrons on High Resolution Chopper Spectrometer HRC"
 S. Itoh, T. Yokoo, D. Kawana, Y. Kaneko, Y Tokura, M. Fujita, K. Yoshida, K. Saito, N. Inami, Y. Takeichi, K. Ono, and Y. Endoh
 Submitted to Journal of Physics Conf. Series

 "Spin Waves in Ferromagnetic Phase of MnP"
 S. Itoh, S. Yano, T. Yokoo, S. Satoh, D. Kawana, Y. Kousaka, J. Akimitsu, and Y. Endoh
 Submitted to Journal of Physics Conf. Series

【BL23偏極中性子散乱装置POLANO】

 建設工事進捗状況

 ・10/29日および31日に遮蔽体の工場検収
 ・10/30日偏極全体会議
 ・遮蔽体設置工事開始(11/5-16日はB勤、11/18-30は日勤)
 ・H24補正予算の予算執行はほぼ終了
 ・H25プロジェクト経費の執行はほぼ終了

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図1. POLANO(BL23)の遮蔽体設置工事(11月8日)。

 

(2) ソフトマターグループ

【光・量子融合連携研究開発プログラム】

 本グループでは8月より光・量子融合連携研究開発プログラム「中性子とミュオンの連携による「摩擦」と「潤滑」の本質的理解」プロジェクト(研究代表者:瀬戸秀紀、研究期間:平成25年度~平成29年度)を開始した。本プロジェクトの目的は中性子やミュオンを用いてトライボロジー研究を推進することで、物質界面におけるナノスケールの構造とダイナミクスを観察することにより、摩擦や潤滑の本質的理解を目指す。研究はKEK、京都大学による装置開発と同志社大、九州大学、東北大学、住友ゴムによる利用研究を両輪に進めていく(詳細はホームページを参照)。
http://trimn.kek.jp

【BL06中性子共鳴スピンエコー装置群VIN-ROSE】

 建設工事進捗状況

 BL06の建設工事は10月中旬から再開され、順調に推移している。11月12日現在、遮蔽体の最下流部が設置され、ガイド管の設置作業が行われている。ガイド管設置作業は11月中に終了する予定で、その後、残りの遮蔽体部分の設置が行われる予定である。BL06では、MIEZE(Modulated IntEnsity by Zero Effort)型分光器と NRSE(Neutron Resonance Spin Echo)型分光器の2つの共鳴型中性子スピンエコー分光器を設置する予定であるが、年度内のビームを受け入れ及びMIEZE型分光器からの運用を目指して建設を進めて行く。

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図2. 左:遮蔽体最下流部。右:ガイド管設置風景。

 

【BL16ソフト界面解析装置SOFIA】

 レーザー加熱装置

 BL16ではJ-PARCの大強度パルス中性子ビームを利用して、外場の変化による物質界面の構造変化を時分割測定することにより、そのキネティクスを評価する研究が盛んに行われている。この際、外場の変化として温度ジャンプや溶媒接触をトリガーとすることが多いが、リモートで瞬時に外場を変化させるための試料環境が整っていなかった。この問題を解決するために、我々は新たに大強度レーザーを利用した加熱装置を作成している。中性子反射率計の試料は2インチ程度のシリコン基板を用いることから、このサイズで強度のムラが±2.5%以内の均一なビームを照射するためのロッドレンズを設計し100Wのレーザー光源と組み合わせることによって室温から200℃まで4秒で加熱できる仕様となっている。現在、最終図面を作成中で、年明けの納品を予定している。

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図3. レーザー加熱装置設計図(暫定版)。

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【BL21高強度全散乱装置NOVA】

 MgCa2Ni9重水素化物の構造解析(産業技術総合研究所 中村優美子,Kim Hyunjeong, 榊 浩司)

 新しいタイプの水素貯蔵材料として積層構造をもつ合金材料が注目されている。これは,AB5型のセルとA2B4型のセルをある比率で積み上げた構造をしており,それぞれのセルの組成を調整することによって全体の水素吸蔵特性を変化させることができるユニークな特徴をもつ。
 これまではA元素が希土類の材料が主に報告されてきたが,本研究では,材料的な観点から軽量かつ資源的に豊富なMg, Caで構成される (Mg1-xCax)3Ni9系積層合金に着目した。その水素吸蔵特性と構造との関係を調べるために,水素化前後の材料の中性子回折実験を行った。また,金属格子の構造についての情報を得るために平行してin situ X線実験も行い,AB5セルの組成はCaNi5, A2B4セルの組成は(Mg3-3xCa3x-1)Ni4で表されることがわかった。
 MgCa2Ni9重水素化物(以下,水素化物と表記)を失活化し,NOVAを用いてex situ測定により収集した。図4にRietveld解析の結果を示す。フルに水素を吸蔵させた試料MgCa2Ni9D~12と約半分水素を放出させた試料MgCa2Ni9D~6ともに水素化物相単相モデルでほぼfittingできた。水素化物相中の主な水素占有サイトは,MgCaNi4セル内のA2B2サイトとCaNi5セル内のAB3サイトであった(図5)。積層構造でないAB5合金やAB2合金での水素の占有と比較すると,D4に隣接するA2B2サイトとD5に隣接するB4サイトの占有が積層合金の場合にはみられないことがわかった。すなわち,積層構造をつくることによって,一部のサイトに占有分布がより偏る傾向が示唆された。
 同じ結晶構造をとることが報告されているLaY2Ni9水素化物のサイト[1]と比較すると(図6),上記サイトの占有は両水素化物に共通だが,MgCa2Ni9水素化物の方がこれらのサイトの水素の占有数が多かった。逆にAB5セル内の別のAB3サイトはLaY2Ni9水素化物では多く占有されているが,MgCa2Ni9水素化物では占有が非常に少ないことがわかった。このことから,Mg,Caを構成元素として含む場合の特徴として,A2B4セル内のA2B2およびAB3サイトへの水素占有数が多くなることが挙げられ,そのため,水素化物の安定性や平衡水素化特性はA2B4セル内の水素占有に大きく依存するものと考えられる。

[1] Latroche et al., J. Sol. State Chem. 177 (2004) 2541-2548.

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図4. MgCa2Ni9D~12のRietveld解析結果.Space group: R-3m, a = 5.26825 (2) &Aacute, c = 25.9543 (3) &Aacute, Rwp = 10.43%, RB= 5.47%.

 

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図5. MgCa2Ni9D~12の結晶構造モデルと主要な水素占有位置。

 

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図6. MgCa2Ni9DxとLaY2Ni9Dx中の水素サイトの占有数分布の比較.グラフ手前から,MgCa2Ni9D~12, MgCa2Ni9D~6, LaY2Ni9D~12

 

(4) 構造科学グループ

【BL08超高分解能粉末中性子回折装置 SuperHRPD】

SuperHRPDグループは、本年度の長期シャットダウンのビーム停止期間を用いて、引き続き震災復旧を実施している。

 La2-xPbxMo2O9-x/2 系の電気化学的性質と欠陥構造に関する研究(京大 高井茂臣他)

 酸化物イオン伝導体は、固体酸化物燃料電池(SOFC)やガスセンサーの電解質への応用といった実用的観点からばかりでなく、構造欠陥とイオン伝導の関係に着目した固体化学の観点からも精力的に研究が行われている。La2Mo2O9もその一つで、2000年にLaccoreらによって高い酸化物イオン伝導性が報告されて以来、多くの研究者の注目を集めてきた。La2Mo2O9の高温立方晶相(β相;図16)は、720 ℃で0.03 Scm-1といった高い酸化物イオン伝導性を示すが、560 ℃~580 ℃で低温相(α相)に相転移して、イオン伝導率は1桁以上低下する。この相転移は基本的には酸化物イオンのオーダリングと格子歪みで特徴付けられる。酸化物イオンサイトについてはO1サイトのみ占有率が1で、O2およびO3サイトは部分的に欠損している。とくにO3サイトの占有率は半分以下である。低温ではO2およびO3間の拡散が主要な導電パスであり、高温ではO1サイトも伝導に関与すると考えられている。560 ℃以下でもLaやMoのサイトに3価のBiや2価のPbを置換すると高温相を安定化することができる。本研究では、2価のPbを置換することで高温相を安定化した試料の結晶構造を3価のBiのそれと比較検討した。詳細は低温相の構造解析が成功して明らかにしてはじめて解明できると考えられる。SuperHRPDの回折データのリートベルト解析の結果によると2価のPbを置換したことによる欠損は、比較的占有率の高いO2サイトで優先的に生じる。これが全温度領域でx = 0.06 - 0.6におけるイオン伝導率の悪化に対応すると考えられる。一方、酸素のオーダリングが大きく寄与すると考えられるO3サイトの占有率には違いが見られず、それが2価のPbと3価のBi置換による相転移挙動に大きな相違が無い理由の可能性がある。

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図7. La2Mo2O9の構造モデル(左)と各種構造パラメータ(右)。

 

その他研究成果

1. "(highlight of IOP Select) Large in-plane deformation of RuO6 octahedron and ferromagnetism of bulk SrRuO3",
Sanghyun Lee, J R Zhang, S. Torii, Seongil Choi, Deok-Yong Cho, T Kamiyama, Jaejun Yu, K A McEwen, and Je-Geun Park,
J. Phys.: Condens. Matter 25 465601 (2013)

2. "Phase Relationship of the TbO1.81-Mn3O4-Fe2O3 System Synthesized at 1200℃",
R. Wang, C. Yang, M. Fan, M. Wu, C. Wang, X. Yu, J. Zhu, J. Zhang, G. Li, Q. Huang, D. Chen, T. Jin, T. Kamiyama, F. Liao, and J. Lin,
Journal of Alloys and Compounds 554 pp. 385-394 (2013).

3. "On the Structure of α-BiFeO3",
H. Wang, C. Yang, J. Lu, M. Wu, J. Su, K. Li, J. Zhang, G. Li, T. Jin, T. Kamiyama, F. Liao, J. Lin, and Y. Wu,
Inorganic Chemistry 52 pp.2388-2392 (2013).

4. "Structural and electrical properties of Pb-substituted La2Mo2O9 oxide ion conductors",
S. Takai, Y. Doi. S. Torii, J. Zhang, T. Y. S. P. Putra, P. Miao, T. Kamiyama, and T. Esaka,
Solid State Ionics 238 pp.36-43 (2013).

【BL09特殊環境中性子回折装置SPICA】

 2013A期において、幾つかのin situ測定を行った。市販されている18650型リチウム二次電池セルを用いて、充放電中の電極の構造変化を測定した。大気中においても、SPICAの多目的バンク全体に設置したB4C製コースコリメータにより、低バックグランドで測定することができた。図1にin situ測定の回折図形を示す。充放電過程における電極の連続的な構造変化が起きていることがわかる。炭素負極の002面に注目すると、充放電中にグラフェンレイヤーへのリチウムイオンの(ディ)インターカレショーションによるステージ構造と呼ばれる構造が簡素くれている。そのステージ構造が、放電と充電と非対称な構造変化をしていることがわかる。SPICAは、図8に示した放電時の炭素負極の002面の構造変化のように、高い時間分解で構造変化を追いかけることができる。今後詳細を調べていく予定である。

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図8. 18650型セルのin situ時分割充放電過程での電極構造変化。正極負極極材料の構造変化がはっきりと観測されている。データの欠損は加速器の短時間停止による。

【粉末回折データ解析ソフトZ-Rietveld】

本ソフトウエアの最新版ver. 0.9.41 (Mac版、Windows版)がリリースされた。 https://z-code.kek.jp/zrg/
Mac版とWindows版がほぼ同一になり、Windows版の操作性が改善された(日英OSに対応)。従来通りポーリー法解析、マルチヒストグラム解析、多点測定の連続解析が可能で、新機能として、分割擬フォークト関数の導入、放射光データの解析モード等を盛り込んだ。