POLANO(BL23)建設状況
遮蔽体設置工事は11日5日に開始した。MLF第2実験ホールでは多数の工事がこのシャットダウン期間中に計画されていて、調整の結果、作業時間は日勤のみならず夜勤にも割り当てられ、この期間内に全て完了できるようにすすめられている。BL23分については順調であるが、隣接ビームラインの進捗遅れにより、BL23の遮蔽体設置工事は、11月下旬に一旦中断し、12月6日に再開した。現状は添付写真の通りである。そのほか、磁場環境の評価について専門業者と契約を交わした。また、散乱真空槽の仕様を確定した。
図1. 遮蔽体設置の様子。
工事進捗状況
10月中旬から再開されたBL06の建設工事だが、11月中に予定通りガイド管の設置作業を無事終える事ができた。年内にディスクチョッパーの設置を行い、来年1月初旬に分光器部分を覆う遮蔽体の上流部分の設置を行う予定である。現在は、設置予定の2台の共鳴型中性子スピンエコー装置、MIEZE(Modulated IntEnsity by Zero Effort)型分光器及びNRSE(Neutron Resonance Spin Echo)型分光器の架台の設計を行っている。
図2. 左上:設置されたガイド管.右上:NRSE用ガイド管ミラー部分.下:BL06に設 置されるディスクチョッパー。
成果報告
BL16用に開発を進めてきたMPPC(半導体ベースの光検出器)を利用した1次元検出器アレイについての論文が、LPBMS2013のプロシーディングスとして掲載されることが決定した[S. Sato, N. L. Yamada, and S. Muto, "Detector development for a high-flux neutron reflectometer", IOP Conf. Ser., accepted.]。この論文では、作成した検出器の位置分解能・均一性・計数率についての評価を行い、中性子反射率装置として十分な位置分解能と均一性を有していると共に、現在使用している検出器と比較して4倍程度の計数率向上を達成していることを確認した。
また、実際に反射率の測定を行い、現在使用中の検出器と良く一致することを確認している。
図3. 新旧の検出器による重水素化ポリスチレンの反射率プロファイルの比較。
ZrCuSiAs型構造を有するLnCrAsO (Ln = La, Ce, Pr, and Nd) の遍歴反強磁性
"Magnetic Structure and Electromagnetic Properties of LnCrAsO with a ZrCuSiAs-type Structure (Ln = La, Ce, Pr, and Nd)",
S.-W. Park, H. Mizoguchi, K. Kodama, S. Shamoto, T. Otomo, S. Matsuishi, T. Kamiya, and H. Hosono,
Inorg. Chem. 2013, 52, 13363-13368.
LnMAsO (Ln: ランタノイド、M: 3d 遷移金属) は正方晶系の層状構造であるZrCuSiAs型構造を有し、Mを変えることで電気伝導特性、磁性、光学物性が大きく変わる。本研究ではLnCrAsO (Ln = La, Ce, Pr, and Nd) を合成し、電気・磁気特性、磁気構造を調べた。本系は、軽い希土類元素のときのみ合成可能であり、粉末X線回折によりLnの原子番号とともに、格子体積が減少するランタノイド収縮が見られた。また、中性子回折により、室温の磁気構造はG型反強磁性であり、1.57μB/Crの磁気モーメントがc軸方向に向き、面間で反強磁性結合していることがわかった(図1(a))。 電気抵抗は室温で3.8×10-3 Ωcmであり、金属的な温度依存性を示した(図1(c))。 磁化率の温度依存性も反強磁性であることを支持した(図1(b))。 同じ結晶構造を有するLaMAsO (M = Cr ~ Zn)と比較すると金属的伝導は鉄系超電導体の母物質LaFeAsOと似ているが、Mイオンの磁気モーメントがはるかに大きい。密度汎関数法により計算したLaCrAsOのバンド構造は2次元金属的電子構造を支持し、大きなHund結合による反磁性絶縁体であるLaMnAsOのフェルミ準位をずらしたものとして理解できる(図2)。また、ab面内の反磁性相互作用は強いCr 3d - As 4pの共有結合による超交換相互作用に起因することを示唆した。
図4. (a) LaCrAsOの結晶と磁気構造, (b)磁化率(χ)の温度依存性, (c) LnCrAsO (Ln = La, Ce, Pr, and Nd)の電気比抵抗(ρ)の温度依存性。
図5. LaCrAsOの電子構造。
SuperHRPDグループでは、震災で狂いが生じたガイド管システムの本復旧アライメントを行なっている。11月末までにMLF第一実験ホール内のガイド管システムの再調整は終了した。長尺ビームライン建家内は、遮蔽体の再設置が進み、12月中旬より長尺部ガイド管の再調整に移行する予定である。装置本体台座の改良は、現在微調整作業を行なっている。
図6. (左)再調整されたガイド管/(中)長尺部遮蔽体の再設置/(右)本体台座改良作業。
北海道大学 木野准教授と共同で、透過ブラッグエッジイメージングの検出器テストを行った。検出器としては、マイクロピクセル電極を用いた粒子検出器 PIC (Micro PixelChamber)を用いた。中性子線源として、北大ライナックを利用した。今回製作した検出器は、正しく動作することを確認した。テスト実験として、18650型リチウム二次電池を検出器前に設置し透過像を測定した。パルス中性子源を使うことで、二次元像に加え、各ピクセル毎の入射エネルギーによる分析が可能である。今回は、テスト実験であったため、統計量が少なかったため、詳細な解析は難しいが、透過スペクトルの簡易解析の結果、電池内部に含有元素の共鳴スペクトルが観測できていることを確認した。今後、ブラッグエッジ解析に向けた試験を行う予定である。
図7. (左)μPIC検出器と18650型リチウム二次電池/(右)全エネルギーの二次元画像。