KENS 中性子科学研究系

KEK

月例研究報告 2月

1. 共同利用状況など

【J-PARC/MLF 中性子ビーム実験再開】

 2月17日より、中性子ビーム実験再開が再開し、3月6日時点で300 kWでの加速器運転が行なわれている。これに伴い、S型課題及び2013B一般課題が順次実施されている。

【2014A一般課題】

 平成26年度上期J-PARC/MLFにおける大学共同利用中性子実験課題(一般課題)の審査結果が、2月24日に開催された物質構造科学研究所運営会議において承認された。KENS装置で一般課題を実施しているのは、BL05(中性子光学基礎物理装置)、BL08(超高分解能中性子回折装置)、BL12(高分解能チョッパー分光器)、BL16(ソフト界面解析装置)、BL21(高強度全散乱装置)の5台であり、これらの装置に対する申請件数合計は60件、採択37件、予備採択9件、不採択14件であった。なお、MLFの中性子ビームライン全体では、申請課題数283件、採択155件、予備採択43件、不採択85件であった。

 

(1) 量子物性グループ

【BL12高分解能チョッパー分光器HRC】

 高分解能チョッパー分光器 HRC の整備

 BL12高分解能チョッパー分光器(HRC)では、6 - 2月のビーム休止期間中に以下の装置整備を実施した。

  •  検出器増設 これまでの散乱角範囲:-10° ~ 40°
        → 今回の計画:-30° ~ 60°(ただし、一部は3月納品予定)
  •  真空散乱槽における検出器取付機構の改造
  •  制御ソフト・解析ソフトの改良
  •  ブリルアン散乱用コリメータ(collimation:0.2°)の整備
  •  オシレーティングコリメーターの導入
  •  3He冷凍機のOVCの整備
  •  超伝導電磁石導入のための分電盤改造
  •  フェルミチョッパー回転センサーの放射線対策(光ファイバーによる信号伝送)
  •  T0チョッパー予備機の製作と設置
  •  チョッパー保守設備の整備

 これらの性能確認について、2月17日に開始されたビームタイムにおいて、中性子ビームを用いた試験を実施した。一部、引き続き調整作業が必要ではあるものの、おおむね所期の性能を確認した。実験研究については、ブリルアン散乱用コリメーターが期待どおりの性能(バックグラウンドの改善)を示したので、これを用いた実験を開始した。

 

(2) ソフトマターグループ

【BL06中性子共鳴スピンエコー装置群VIN-ROSE】

 工事進捗状況

 2014Aのビーム受け入れを目指して建設を進めてきたが、遮蔽体出入り口扉の移動機構の導入を来年度に延期したことに伴い、ビーム受け入れが2014Bとなった。これまでに遮蔽体関連は全て設置完了し、今年度中にPPS(Personal Protect System)の取り付け作業や真空配管及び分光器架台の設置を行う予定である。来年度は遮蔽体出入り口扉移動機構の設置を行い、電気関連等ユーティリティー及びキャビンの設置を2014Bまでに完了する予定である。

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図1. 2014年3月のBL06の外観。遮蔽体設置が完了している。

 

【BL16ソフト界面解析装置SOFIA】

 レーザー加熱装置

 中性子反射率計SOFIAでは、J-PARCの大強度ビームを生かした測定の1つとして秒オーダーでの時分割測定を目指している。これを行うにあたって、光学系を調整することによるビーム強度の最適化はもちろん必須であるが、それに加えて試料環境の方もそれと同じオーダーで急激に変化させる必要がある。また、試料をマウントしてからビームを出して測定に入るまでに少なくとも1分程度の時間を要するため、リモートでこれを行うことが望ましい。
 我々はこの問題を解決するためにレーザー加熱装置を導入した。これは100 Wの赤外線レーザーを用いて最大2インチのシリコン基板を加熱することができる装置で、10秒以内に室温から200℃まで急速加熱することが可能である。現在、既にレーザーに関する安全申請と試験運転を終えており、300℃までの加熱テストを行った。結果は図4に示す通りで、10秒強で300℃に到達し、レーザーを切ると1分程度で室温付近まで温度が低下することを確認した。この急速な温度変化は0.3 mm程度の非常に薄く、熱容量の小さな基板のみをローカルに加熱している事により実現しており、これによって時分割測定だけでなく温度調整に要するロスを無くした、効率的な測定が可能になると期待できる。

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図2. (左上)レーザー加熱装置の外観と(右上)試料基板を設置した様子、 および(下)PCを用いたリモート制御によるテスト結果。

 

 制御プログラム更新

 前述の通り、SOFIAではJ-PARCの大強度ビームを生かして短時間測定を実現しているが、これに伴い実験中に要する試料交換時間が大きな割合を占めるようになってきた。特に、中性子反射率法では約0.3度の非常に浅い角度で中性子を試料に入射する必要があるため試料位置や角度のアライメントが難しく、初心者ユーザーや特殊な測定を行う際にトラブルの原因となっている。SOFIAではこの問題を緩和するために、これまでもサンプルチェンジャーの実装と測定の自動化を行ってきたが、試料のアライメントに関しては半自動で、しばしばアライメントミスを起こしていた。そこで、我々は信頼性の高いアライメントアルゴリズムを作成し、試料の厚みと交換機上の位置、および中性子を照射する面積を入力するだけで確実にアライメントが行えるようプログラムの改良を行った。また、アライメントと実際の測定を一元化し、条件を入力するだけでアライメントと測定を続けて行える自動測定モードを実装した。我々の知る限り、アライメントと測定を完全に行った中性子反射率計は他に例がなく、新規ユーザー開拓に貢献することを期待している。

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図3. (上)試料情報の入力画面と(下)自動測定モードの設定画面。

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【BL21高強度全散乱装置NOVA】

 6Li/7Li同位体置換法中性子回折によるLiNO3水溶液の構造解析(山形大・亀田グループ)

 広い濃度範囲におけるLi+の水和構造、特に水和数nLiOおよび最近接Li+...O距離rLiOの組成依存性を明らかにする目的で、6Li/7Li同位体分率が異なる1、5 および10 mol% *LiNO3重水溶液について中性子回折実験を行った。
 中性子回折実験は、J-PARC MLFに設置されているNOVA分光器を用いて25℃で行った。測定時の入射陽子ビーム強度は5および10 mol% *LiNO3溶液については160 kW、1 mol% *LiNO3溶液については220 kWであった。試料は6 mmφ標準バナジウムセルにインジウムシールにより密封して実験を行った。Liの同位体分率のみが異なり、濃度その他の条件は全く同一とした試料の散乱断面積の差から、差分干渉項ΔLi(Q)を求め、ΔLi(Q)のフーリエ変換から、Li+周囲の原子分布を表す分布関数GLi(r)を求めた(図4)。ΔLi(Q)の最小二乗法解析により、各濃度におけるLi+の水和数および最近接Li+...O距離を求めた(図5)。1、5および10 mol% LiNO3水溶液中におけるLi+の水和数nLiOは、各々6.0±0.2, 5.18±0.03および4.12±0.060であり、希薄な濃度ではLi+の水和数は約6であるが濃厚な溶液では約4になる事が明らかになった(図5 (a))。一方、1、5および10 mol% LiNO3水溶液中における最近接Li+...O距離rLiOは、各々2.00±0.02 Å, 1.957±0.004 Åおよび1.969±0.008 Åであり、水和数の変化に関わらずほぼ一定の値を取る事が明らかになった(図5 (b))。

この結果は、下記の論文により発表される。
  "Neutron Diffraction Study on the Structure of Aqueous LiNO3 Solutions"
  Y. Kameda, T. Miyazaki, T. Otomo, Y. Amo, T. Usuki, J. Solution Chem. (2014)

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図4. Li+周囲の原子分布を表す分布関数GLi(r)

 

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図5. 各濃度におけるLi+の水和数(a)および最近接Li+...O距離(b)

 

(4) 構造科学グループ

【BL08超高分解能粉末中性子回折装置 SuperHRPD】

 SuperHRPDグループでは、震災後の大規模な復旧作業がほぼ終了し、2月17日よりMLFに供給されたビームを受け入れることが出来た。全面的に検出器配置を変更したため、検出器調整用パラメータの解析を急ピッチで進めている。下図は、検出器パラメータ解析用に測定した粉末ダイヤモンドの回折パターンである。

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図6. 粉末ダイヤモンドの回折パターン。

 

【BL09特殊環境中性子回折装置SPICA】

 ビーム停止期間に検出器を移動させたため、基礎データからデータを取り直している。ビームラインの各コンポーネントの動作は正常であり、今後in situ測定を展開していく予定である。実験室の増床工事も順調であり、2階部分のコンクリート打ちが終わった。

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図7. BL09 実験室建設状況 H26.02.28現在。