中性子共同利用実験 S型課題公募を10/1(水)から11/17(月)まで行っている。
(公募要項 http://uskek.kek.jp/apply/kens.html)
一般課題の 2015A 期(平成27 年度上期)に係る公募を 10月17日(金)から 11月 7日(金)に行なう。
米村雅雄氏、池田一貴氏が 10/1 付けで特別准教授として着任した。
・NOBUGS 10(9/24~9/26、KEK 小林ホール)
本会議は、中性子、放射光、ミュオンなどの大型施設におけるデータ集積・解析ソフト、リモートアクセス、可視化ソフト、実験シミュレーション、データベース、開発プロジェクトマネージメントなどについて最新の成果について情報交換するとともに、積極的に共同開発を模索することを目的とする。1996 年にILL で第1回が開催されたのち、隔年開催されている。10 回目を数える本年は、KEK 小林ホールにて、J-PARC センター主催、物構研およびCROSS 共催により 9月 24日から 9月 26日に開催された。68 名が参加者した。
・ICANS XXI(9/28~10/3、茨城県民文化センター(水戸))
加速器型の先進的中性子源開発における協力を目的とした本国際会議は、1977 年より2〜3 年おきに開催され、先進的中性子源開発における協力を目的とし、加速器、中性子源、中性子散乱実験装置などに関する技術開発情報の交換、研究成果や設計のレビュー、今後の研究協力等について議論されている。第21 回は日本において、J-PARC センター主催、物構研およびCROSS共催により開催された。今回は、ワークショップ形式で様々なテーマについて議論され、パルス中性子源の将来像についてパネルセッションが行なわれ幅広い意見交換が行なわれた。
・近藤強磁性体CePd2P2の強磁性転移(東大物性研吉沢研究室 池田陽一)
ThCr2Si2型構造を有するCePd2P2は、1980年代にJeitschkoらにより合成されたが[1]、その後、構造に関する情報を除いて報告がなかった。我々はこの長い間眠っていた物質を掘り起し、最近、Ce化合物としては珍しく高いキュリー温度(TC = 28 K)を持つ強磁性体であることを報告した [2]。その後、他グループによっても同様の報告がなされた[3-4]。特にTranらは、CePd2P2の強磁性転移に伴う臨界現象を調べ、興味深いことに、この物質の臨界指数は3D-IsingやHeisenberg型等の臨界指数では説明できない事を 指摘した[4]。我々もより詳細な知見を得るべく、DC磁化測定により臨界指数を評価した。また、この物質の磁気構造とCeの結晶場状態を明らかにする為、J-PARC MLF BL12に設置された高分解能チョッパー分光器(HRC) を用いて中性子散乱実験を行った(2014A一般課題)。
図1に3, 40 Kで測定したCePd2P2の中性子回折パターンを示す。TC以下において新たな超格子反射がないことから、強磁性秩序であることが確認された。転移温度前後の散乱強度を比較すると、101では明確な差があるのに対して、002では有意な差が無い事から、秩序モーメントがc軸へ向いた一軸異方的な強磁性状態であることがわかる。また秩序モーメントの大きさは1.3(3)μB/Ceと見積もられた。
図2にDC磁化測定より求めた飽和磁気モーメントと逆磁化率の温度依存性を示す。これより評価された臨界指数の値は β = 0.45, γ = 1.1であった。中性子散乱実験の結果からは3D-Ising型(一軸異方性)の臨界現象が期待されるが、評価された値はどの理論予測値とも一致しないことがわかった。正確な起源は不明であるが、弱い磁気異方性やThCr2Si2構造に特有な磁気相互作用の競合等により、臨界指数のクロスオーバーが生じているのではないかと推察している。いづれにしても、CePd2P2はCe系では比較的珍しい強磁性体であり、今後は、強磁性量子臨界現象や、強磁性と近藤効果の競合問題を研究する上で大変興味深い物質であると考えている。
この結果はSCES2014(2014.7、Grenoble)にて報告され、先日、議事録(J. Phys.: Conf.Ser)用に報告書が提出された[5]。また、Ceの結晶場状態に関する報告は、近々投稿予定である[6]。
[1] W. Jeitschko et al., J. Less-Common. Metal 95, 317 (1983).
[2] 小西順, 池田陽一ら, 日本物理学会68回年次大会(27aPS-33, 2013).
[3] T. Shang et al., J. Phys.: Condens. Matter 26, 045601 (2014).
[4] V. H. Tran et al., J. Phys.: Condens. Matter 26, 255602 (2014).
[5] Y. Ikeda et al., J. Phys.: Conf. Ser. (submitted).
[6] Y. Ikeda et al., JPSJ (in preparation).
図1. Neutron diffraction pattern of CePd2P2 measured at 3 and 40 K.
図2. Temperature dependence of the saturation moment and the zero-field reciprocal magnetic susceptibility of CePd2P2.
成果報告
BL16を用いた研究成果として以下の論文が出版された。
塗布型有機EL素子における有機/有機界面の評価とデバイス特性(山形大学 大久ら)
近年、ディスプレイや照明として有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)が相次いで商品化されますます開発が盛んに行われている。有機EL素子の更なる普及の為には塗布成膜による低コスト化が求められているが、塗布法で作成した有機EL素子は蒸着法で作成したものと比較して省エネルギー能や駆動寿命が低いという問題点がある。有機EL素子の性能を最大限に引き出すためには、最適な多層膜構造を作成する事が重要であるが、塗布法で作成する場合、塗布積層する際に下層が再溶解するため困難である。そのため下層材料を架橋などで不溶化する方法がとられる。しかし塗布法で形成された界面の構造および有機EL素子性能に与える影響は詳しく分かっていない。 これに対し、山形大学城戸研究室のグループは重水素化ラベリング法により観察対象となる有機物のコントラストを強調できる中性子反射率法により、塗布法および蒸着法で作成した界面の構造を評価した[1]。また、これら界面の構造が有機EL素子の電圧特性に及ぼす影響を調べるためにホールオンリーデバイス(HOD)を作成し、電流電圧特性(JV特性)を評価した。
実験に際しては、下層材料に正孔輸送性高分子TFB、上層材料に散乱長密度 (SLD)コントラスト増強のため重水素化した発光ホスト材料CBP-d16と発光ドーパントIr(ppy)3を88:12の質量比で用いた (図3)。中性子線反射率測定試料を下記のように作成した。TFBをシリコンウエハー上にスピンコートし、200℃で1時間加熱処理し溶媒に対し不溶化した。CBP-d16: Ir(ppy)3膜を1,4-ジオキサンとシクロペンタノンの2種を溶媒とした溶液のスピンコートまたは蒸着によりTFB上に積層した。加熱による材料拡散を避けるため塗布成膜後の加熱はされなかった。ここでTFBに対してシクロペンタノンは1,4-ジオキサンよりも良溶媒である。また、比較のためにTFBの単層膜についても評価を行った。中性子反射率はJ-PARCの水平型反射率計SOFIAを用いて測定した。本研究では界面構造を表すパラメータとして界面厚みをとり、Nevot-Croceの減衰因子における界面粗さの3 倍と定義した2] 。また、電圧特性評価のためにITO(150)/PEDOT:PSS(40)/TFB(20)/CBP:Ir(ppy)3(40)12wt%/α-NPD(40)/MoO3(5)/Al(100)からなるHODを作成し(括弧内はnmを表す)、JV特性を測定した。CBP:Ir(ppy)3層は中性子反射率測定と同様、2種溶媒による塗布、および蒸着により作成した。
図4に得られた中性子線反射率プロファイル、および深さ方向に対する散乱振幅密度プロファイルを示す。蒸着積層された膜中におけるTFB層の膜厚とSLDはTFB単膜のものと同じ値を示した。これは蒸着により積層された界面は明瞭に分かれている事を示している。それに対して、塗布積層膜中のTFB層の膜厚とSLDはTFB単膜のものと比較して増大した。これはジオキサン、シクロペンタノン溶媒の両方で確認された。この結果はTFB層が溶媒により膨潤し、低分子であるCBP-d16とIr(ppy)3が拡散した事を示している。TFB層の膨潤の程度は2種の溶媒で同様であった。架橋点が膜の膨潤を制限したために同様の値になったと考えられる。塗布積層界面の厚みはジオキサン溶媒で約7nm, シクロペンタノン溶媒で約10 nmと異なっていた。架橋高分子の末端は架橋点により制限されないため、溶媒による違いが出たものと考えられる。また、塗布積層膜中のCBP-d16とIr(ppy)3のSLDは単膜のものと比べて両溶媒で3%低下した。これはSLDがより大きいCBP-d16がIr(ppy)3よりもTFB層に拡散した事を示唆している。架橋による網目構造が材料の選択的拡散を起こした可能性がある。
JV特性評価においては、蒸着法で作成されたHODは塗布法で作成されたHODよりも低電圧で駆動した。また、ジオキサン溶媒による塗布で成膜されたHODはシクロペンタノン溶媒による塗布で成膜されたHODよりもわずかに低電圧で駆動した。これは界面の混合の程度が大きいほど駆動電圧が増大する事を示唆している。図5にHODのエネルギーダイアグラムを示した。TFBのイオン化ポテンシャルはIr(ppy)3よりも深いTFB中にIr(ppy)3が混合した場合、PEDOT:PSSからIr(ppy)3へ正孔が直接注入される利点があるもののIr(ppy)3が正孔トラップとして働き正孔輸送を阻害している可能性を示した。
本研究では残留溶媒の影響が懸念されるものの、有機/有機界面がデバイス特性に与える影響に与える知見を得る事ができた。
[1] S. Ohisa, G. Matsuba, N. L. Yamada, Y.-J. Pu, H. Sasabe, J. Kido, Adv. Mater. Interfaces, 2014,
DOI: 10.1002/admi.201400097
[2] L. Nevot, P. Croce. Rev. Phys. Appl., 15, 761, (1980)
図3. 本実験で使用した化合物
図4. 得られた反射率プロファイルとSLDプロファイル
図5. HODのエネルギーダイアグラム
震災後、BL09増設建屋の沈下が継続的に続き、一時はガイド管の真空が保てなくなるまでに悪化していた。このロングシャットダウンを利用し、現在、再アライメントを行っている。
再アライメント前に、現状確認を行った。その結果、MLFとBL09増設建屋境界付近の遮蔽体の土台で約6mm、ガイド管ジャケットで約4mmのずれが発生していた。現在、MLFとBL09増設建屋境界より下流側のガイド管を再アライメントしており、11月から再開するビームタイムに合わせるため急ピッチで作業を進めている。
図6. MLFとBL09増設建屋境界におけるガイド管への沈降の影響
研究成果
アルカリ金属のなかで、一番サイズが小さいリチウムイオンは、水溶液中では水分子を強く引きつけ水和イオンとして存在している。水和リチウムイオンの構造は、中性子やX線により解析されてきたが、リチウムイオン周りの水和数(nLiO)や最隣接Li+...O距離(rLiO)が定まっていない。本研究では、LiNO3の重水溶液((LiNO3)x(D2O)1-x ここで、x = 0.1、0.05、0.01)の中性子全散乱測定を行い、リチウムの同位体置換(6Li/7Li)により、リチウム原子周りの部分相関を導出した。その結果、X = 0.1の場合には、rLiO= 1.969 (8) Á および nLiO = 4.12 (6)であることがわかった。また、x = 0.01 の場合には、 rLiO = 2.00 (2) Á および nLiO = 6.0 (2)であることがわかった。つまり、LiNO3の濃度に応じて水和数が変化していることがわかった。
Neutron Diffraction Study on the Structure of Aqueous LiNO3 Solutions Yasuo Kameda, Takuya Miyazaki, Toshiya Otomo, Yuko Amo, Takeshi Usuki
J Solution Chem DOI:10.1007/s10953-014-0223-y published online
図7. 中性子全散乱測定により得られた(LiNO3)x(D2O)1-xにおけるLi周りの局所構造