KENS

KEK

月例研究報告 10月

1. 共同利用状況など

【 2014A 利用運転 】

 MLF の2014A の利用運転が、11 月 4日より再開した。各種トラブルがあり、5日まではほとんど中性子ビームが供給されなかったが、11 月 6日夕方から、安定的に中性子実験が行なわれている。

2. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【研究成果】

論文等

  • (1) Spin and Hole Dynaics in Carrier Doped Quantum Haldane Chain
      T. Yokoo, S. Itoh, S. Ibuka, H. Yoshizawa and J. Akimitsu
      Accepted to J. Phys.: Conf. Series (LT27) 
  • (2) Polarized Neutron Spectrometer for Inelastic Experiments at J-PARC: Status of POLANO Project
      T. Yokoo, K. Ohoyama, S. Itoh, K. Iwasa, N. Kaneko, J. Suzuki, M. Ohkawara, K. Aizawa, S. Tasaki, T. Ino, K. Taketani, S. Ishimoto, M. Takeda, T. Oku, H. Kira, K. Hayashi, H. Kimura, T. J. Sato
      Accepted to EPJ Web of Conferences Journal (QENS2014/WINS2014)
  • (3) Science from the Initial Operation of HRC
      S. Itoh, T. Yokoo, T. Masuda, H. Yoshizawa, M. Soda, Y. Ikeda, D. Kawana, T. J. Sato, Y. Nambu, K. Kuwahara, S. Yano, J. Akimitsu, Y. Kaneko, Y. Tokura, M. Fujita, M. Hase, K. Iwasa, H. Hiraka, T. Fukuda, K. Ikeuchi, K. Yoshida, T. Yamaguchi, K. Ono, Y. Endoh
      Accepted to J. Phys. Soc. Jpn. (proceedings) (J-PARC Symposium)

学会等発表

  • (4) マルチフェロイクス物質TbFe3(BO3)4の中性子非弾性散乱
      林田翔平、左右田稔、伊藤晋一、横尾哲也、大串研也、川名大地、益田隆嗣
      2014年9月7-10日、日本物理学会2014年秋季大会(中部大学)
  • (5) CePd2P2の強磁性秩序
      池田陽一、吉沢英樹、横尾哲也、伊藤晋一
      2014年9月7-10日、日本物理学会2014年秋季大会(中部大学)
  • (6) ブリージングパイロクロア磁性体 Ba3Yb2Zn5O11 に対する非弾性中性子散乱研究
      白椽大、木村健太、伊藤晋一、横尾哲也、左右田稔、益田隆嗣
      2014年9月7-10日、日本物理学会2014年秋季大会(中部大学)
  • (7) カゴメ・三角格子積層系YBaCo4O7における磁気励起
      左右田稔、伊藤晋一、横尾哲也、Georg Ehlers、益田隆嗣
      2014年9月7-10日、日本物理学会2014年秋季大会(中部大学)
  • (8) The Influence of Outbreak Magnetic Field by a Superconductor Coil for Surrounding Devices and Environment
      T. Koga, T. Yokoo, K. Ohoyama
      ANSYS Electronics Simulation Expo, Tokyo, 9 - 10 September 2014
  • (9) Recent Progress on New Polarized Neutron Spectrometer POLANO
      T. Yokoo, K. Ohoyama, S. Itoh, K. Iwasa, N. Kaneko, M. Okawara, S. Tasaki, T. Ino, K. Taketani, S. Ishimoto, K. Aizawa, J. Suzuki, M. Nanbu, M. Takeda, T. Oku, K. Hayashi, H. Kimura and T. J. Sato
      Polarised Neutrons for Condensed Matter Investigations 2014 (PNCMI 2014), 15 - 19 September 2014, Sydney
  • (10) Polarized 3He Neutron Spin Filter for Polarized Neutron Spectrometer POLANO at MLF in J-PARC
      T. Ino, K. Ohoyama, T. Yokoo, S. Itoh, M. Ohkawara, H. Kira, H. Hayashida, K. Sakai, K. Hiroi, T. Oku, K. Kakurai, and L. J. Chang
      Polarised Neutrons for Condensed Matter Investigations 2014 (PNCMI 2014), 15 - 19 September 2014, Sydney
  • (11) Polarisation Analysis Neutron Spectrometer, POLANO, at J-PARC
      K. Ohoyama, T. Yokoo, S. Itoh, K. Iwasa, M. Ohkawara, N. Kaneko, J. Suzuki, M. Nanbu, H. Hayashida, T. Ino, T. Oku, H. Kira, S. Tasaki, M. Takeda, K. Hayashi, H. Kimurai and T. J. Sato
      Polarised Neutrons for Condensed Matter Investigations 2014 (PNCMI 2014), 15 - 19 September 2014, Sydney
  • (12) リエントラント金属−非金属転移を示すPrRu4P12元素置換系の量子ビーム散乱研究
      岩佐和晃、斉藤耕太郎、佐藤貴宏、Lijie Hao、Claire Laulhé、J.-M. Mignot、中尾裕則、村上洋一、伊藤晋一、横尾哲也、川名大地
      首都大学東京研究環「特異な結晶構造に創出する新奇量子相の解明」第2回研究会、2014年9月26日
  • (13) Instrument Developments and Neutron Brillouin Scattering Experiments on HRC
      S. Itoh, T. Yokoo, T. Masuda, H. Yoshizawa, M. Soda, Y. Ikeda, S. Ibuka, T. Asami, R. Sugiura, D. Kawana, T. Shinozaki, and Y. Ihata
      International Collaboration on Advanced Neutron Sources (ICANS XXI), 29 Sep - 3 Oct 2014, Mito
  • (14) Progress on POLANO Spectrometer for Polarized Neutron Experiment
      T. Yokoo, K. Ohoyama, S. Itoh, K. Iwasa, N. Kaneko, M. Ohkawara, S. Tasaki, T. Ino, K. Taketani, S. Ishimoto, K. Aizawa, J. Suzuki, M. Nanbu, M. Takeda, T. Oku, K.Hayashi, H. Kimura, T. J. Sato
      International Collaboration on Advanced Neutron Sources (ICANS XXI), 29 Sep - 3 Oct 2014, Mito
  • (15) PrRu4P12の金属-非金属転移に対する元素置換効果の中性子・X線散乱による研究
      岩佐和晃、斉藤耕太郎、佐藤貴宏、米本在、Lijie Hao、Claire Laulhé、J.-M. Mignot、中尾裕則、村上洋一、伊藤晋一、横尾哲也、川名大地
      物性研究所短期研究会「スクッテルダイト化合物及び関連物質を舞台とした強相関電子系物理の新展開」、2014年10月10-12日、柏市

【 BL12 高分解能チョッパー分光器HRC 】

 装置整備状況

 HRC は物構研と東京大学物性研究所が共同で運営している。東大物性研は、試料環境装置である超伝導電磁石の整備を分担し、これまでに、JRR-3Mガイドホールにて超伝導電磁石(最大磁場14T)の組立調整試験を行ってきた。この超伝導電磁石をHRC での実験に利用するため、HRCに移動して調整作業を行った。超伝導電磁石をHRCの試料位置に搭載して10Tまでの磁場の印加に成功した、また、周辺機器への磁場の影響がほとんどないことも確認した。
 フェルミチョッパー制御ソフトを改良し、位相制御の安定化を図った。フェルミチョッパーには磁気軸受が用いられているが、慣性中心制御(ローターの重心のまわりに回転)を行う回転数を、これまで101Hz以上であったものを99Hz以上に変更した。これにより、100Hzでの安定した回転制御が期待される。
 He3ガス循環型冷凍機の冷却試験を行い、最低温度0.6Kを確認した。He3ソープション型冷凍機の冷却試験を行い、最低温度0.3Kを確認するとともに、試料回転機構の回転動作を確認した。この夏の作業中に破損したGM型4K冷凍機の修理を行い、最低温度3Kを確認した。
 Oscillating collimatorの導入を行った。真空ポンプ及びエアドライヤーの保守を行った。その他、計算環境の更新を行った。

図1. 超伝導電磁石

【 BL23 偏極中性子散乱装置POLANO 】

 装置建設状況

 夏期停止期間中で以下の大型工事を行った。

  •  ・チョッパー機器類の設置・調整
  •  ・ガイド管の反射率測定
  •  ・実験盤用の一次配線(電気室から)
  •  ・ヘリウム回収管
  •  ・POLANO用実験盤および分電盤の設置
  •  ・PPS関連
  •  その他、大型真空槽やB4Cライナー製造を進めている。

(2) ソフトマターグループ

【 アウトリーチ活動 】

 KEKキャラバン

 KEKで行っている出前授業のイベントであるKEKキャラバンの一環として、10月16日に長野県伊那北高校で高校2年生を対象とした授業を行った。講義のタイトルは「加速器を用いた最先端の物質科学」で、KEK全体の紹介と物質構造科学研究所で利用している4つのプローブ、およびそれを用いた物性研究についての紹介を行った。授業は65分×2コマの講義を2クラス行い、1時間目は波の性質を理解してもらうために電子レンジで生じる定在波の波長をチョコレートが溶けたスポット間距離から計算し、それを利用して光速を計算するという実験を行った。2時間目は放射光・中性子を用いた実験例として、チョコレートを構成するココアバターの結晶構造と美味しさとの関連についての講義を行い、あらかじめ準備しておいたチョコレートを使ってテンパリングによる見た目や手触りの違いを体感してもらった。アンケートの結果は良好で、55名中48名に面白かったとの感想が得られた。

【 BL16 ソフト界面解析装置SOFIA 】

 装置整備状況

 SOFIAでは、11月からの実験再開に向けて計算機環境の強化を行っている。これまでに測定用のプログラムは、自動アライメントプログラムのバグ取りと機能強化を、解析用のプログラムはピークサーチ機能と時分割測定のデータ解析における機能改善を終え、運転再開と同時の提供を行う予定である。また、解析環境については装置のローカルネットワークと外部との接続を同時に行う専用のPCを用意し、データの転送を簡単に行えるようにした。今後もプログラムの改良を引き続き行っていき、今年中に測定状況のメール送信機能とデータ解析のバッチ処理機能を追加する予定である。

図2. 現在の SOFIAの計算環境(左から制御PC、情報表示タブレット、解析PC)

 中性子反射率法勉強会

 異種の物質が接触する表面・界面ではバルクと異なる物性が発現することが知られており、中性子反射率法は電極材料や有機ELなど産業的にも重要度が高い材料のナノ構造を評価する上で強力なツールの一つとして用いられている。我々は10月20日に中性子反射率法の活用促進を目的として、中性子反射率法の基礎から学べる講習会と、J-PARCの中性子反射率計SOFIAを用いた最新の研究例の紹介を組み合わせた「中性子反射率法勉強会」を東京で開催した。午前中は反射率法の原理に加え、具体的な実験系の構築に関するノウハウ、実際の実験に向けたアドバイスや質問の受付を行うと共に、午後はKEK物質構造科学研究所S型課題研究会を兼ねた最新の研究例の紹介を行った。参加者は47名(うち講演者は9名)で、締め切りを前に定員に達する盛況ぶりであった。勉強会終了後のアンケート結果は表1の通りで、実験の未経験者にも特長と原理についての理解を深められる講義内容であった一方、具体的な解析法や実験のモデル系構築についてはやや説明不足であったようである。また、未経験者には今後の利用に関する質問も行い、20名中12名から今後の利用に前向きな回答が得られた。使用した講義資料は研究会のwebサイトにアップロードして広く情報提供を行うと共に、今回の受講者について今後の課題申請状況をフォローしていくことにより、多くの優れた実験テーマを拾い上げられるよう継続的に活動を行っていきたい。

表1. アンケートの集計結果(5段階評価の平均点)。ただし「自分の研究にも利用でき そう」の項目については4点と5点を付けた回答数を集計した。

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

 装置整備状況

・オンラインモニター
 つくばキャンパスのKENS で使用していた有感長600 mm、ガス圧力10 気圧の3He ガス検出器を、独立のデータ集積系として、45 度検出器バンクに設置した。データ集積を行ないながら各種補正と表示を行なうオンラインモニターとして使用する。これを用いて計算機やネットワーク負荷などを検証し、ソフトウエアの改良・整備を行なった後、BL21 の全ての検出器でオンラインモニタリングが可能なシステムを構築する。

図3. BL21:45度検出器バンクに設置されたオンラインモニター機能検証用の中性子検出器

・データ補正環境整備

 BL21 のデータ補正ソフトウエアは、データ解析ソフトウエアフレームワークであるManyo-lib を用いて開発されている。夏期停止中に、最新のManyo-lib にアップグレードするとともに、データ補正処理と補正データの管理を効率的に行なうため、サーバー構成の変更を行なった。異なる計算機で行なっていた非弾性散乱実験データの補正も、全散乱実験データと同じ計算機で実施可能となった。

・高温炉整備

 破損していた高温炉(バナジウムフォイル)を修理し、室温から1000℃までの実験が再開可能になった。MLF 機器安全チームにより安全性に問題無いことが確認され、11月からの一般課題実験に使用する。