2014年12月10日
12月6, 7日にサマーチャレンジの秋実習がおこなわれた。中性子では、演習課題03(結晶の構造を読み解く)を高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD(BL08)を用いて実施した。参加者は4名。
図1.
HRC研究会
BL12のS型課題に関するHRC研究会を以下のように開催した。30名の参加があった。
日時:2014年11月27日13:30-17:50
場所:KEK東海1号館116
論文等
受賞等
山田悟史助教の第12回中性子科学会奨励賞受賞が決定した(研究成果:J-PARCにおける試料水平型中性子反射率計SOFIAの開発)。12月11日より開催される日本中性子科学会第14回年会にて受賞講演を行う予定である。
水/2,6ジメチルピリジン/テトラフェニルホウ酸ナトリウムにおけるナノ構造形成
陽イオンが親水性かつ陰イオンが疎水性であるテトラフェニルホウ酸ナトリウムを水と有機溶媒2,6ジメチルピリジンに加えた場合に見 られる変化について、目視観察、光学顕微鏡観察、及び中性子小角散乱実験により調べた。その結果、無塩系で310K〜390Kで現われる2相分離領域が、 塩を加えることにより縮小して水と有機溶媒が混合しやすくなることが分かった。また水richの混合物に85mol/Lの塩を加えた場合、338Kより高 温側で不規則構造だったものが、338K以下でラメラ構造になることが分かった。これは水/3メチルピリジン/テトラフェニルホウ酸ナトリウム系で見られ た振る舞いと同じ現象であると考えられる。この結果は、Sadakane et al., J. Sol. Chem. 43 (2014)1722 よりpublishされた。
図2. 水/2,6ジメチルピリジン/テトラフェニルホウ酸ナトリウムの混合系の光学顕微鏡観察の結果。T>338Kでは一様だがT≤338Kではオニオンが出現する。
装置整備状況
VIN-ROSEでは、夏の休止期間中に遮蔽体内部の電気関係の工事(ケーブルラック・照明・コンセント) 等を行い、実験再開に備えている。ビーム運転再開後、偏極ビーム実験を行い、今年度中にエコーシグナル観測を目指している。
図3. 電灯の灯ったBL06分光器室内部
中性子集光ミラー実験
SOFIAでは、微小試料における効率的な反射率測定のために京大・理研と共同で金属基板をベースとした1次元楕円集光ミラーの開発を 行っている。具体的には、アルミにニッケルリンめっきを施した基板に超精密切削加工を施し、表面粗さがRMS(Root Mean Square)で1 nm以下に研磨した基板を製作、これに多層膜スーパーミラーを蒸着することで、高い形状精度と反射率を実現することを目指している。この方法のメリットは 基板の形状加工が容易なことで、将来的には2次元の回転楕円体集光ミラーの製作が可能であると期待できる。我々は、昨年度に1次元楕円集光ミラーを試作 し、今年度の夏前に0.56 mm(半値全幅)の集光像を得ることに成功した。その後、ミラーの加工によって生じる形状誤差によって生じるミスアライメントに対応するための据え付け方 法等を再検討し、組み上げた際のミラー形状の改善を試みた。11月に実際に中性子ビームを用いて検証実験を行ったところ、ミラー形状の改善の結果0.47 mm(半値全幅)までビーム像を狭めることに成功した。この結果は最終目標である0.1 mmには足りていないが、一連の試作で集光ミラーの加工・据付に関する様々な知見を得ることが出来た。現在、この知見をもとに製作プロセスの再検討を行っ ており、新たに製作を開始した次のバッチで形状のエラーによる傾き誤差が30 μrad以下(RMS)の精度を達成し、目標値である0.1 mm集光の到達を目指す。
図3. 集光ミラーにより絞られたビーム像
同位体置換Sm4Ti9O24ガラスの中性子散乱測定
Sm4Ti9O24ガラスの屈折率は2.32であり他のランタニド含有ガラスLn4Ti9O24 (Ln=La、Nd)よりも高い値を示す。高屈折率ガラスは光ピックアップの小型化など実用上大きな重要性をもっている。Linesによるガラスの屈折率を経験的な局所構造からの推算法[1]を確かめるために、Sm4Ti9O24ガラスの中性子散乱測定をMLF BL21(NOVA)を用いて行った。金属元素TiおよびSm周囲の局所構造を解析するために3種の同位体置換試料、152Sm4Ti9O24、154Sm4Ti9O24、154Sm40Ti9O24をガス浮遊法により作製した。この試料は、同位体不純物として含まれる149Smが中性子波長約1Á -1に巨大な共鳴散乱を示すため、構造因子の解析の際には注意深い吸収補正が必要であり、標準の解析プログラムの修正も行った。
最終的に良好な構造因子S(Q)が3種独立に得られた。このデータを用い、金属元素周囲の酸素原子の配位構造、逆モンテカルロ法による構造モデルの生成 を行った。現時点での結果は、Ti周りのOの結合距離・配位数はそれぞれ4.68 Á ,4.7個およびSm周りでは2.46 Á ,7.2個である。
現状ではSm周辺の局所構造に不確定なところがあるのでさらにX線散乱、他の同位体を用いた測定結果を合わせた解析を続行している。
尚、本成果は、J-PARCシンポジウムのプロシーティングとして受理されている。
Neutron Diffraction Study of Isotope Enriched Glassy Sm4Ti9O24
K. Maruyama1, Y. Arai2, S. Sato1, M. Sanada1, T. Otomo3, K. Suzuya4 and K. Itoh5
Niigata Univ.1, JAXA2, KEK3, J-PARC Center4, Okayama Univ.5
[1] M. E. Lines: Phys. Rev. B 43 (1991) 11978.
NOVA研究会
BL21のS型課題の予備審査を兼ねた研究会を下記のとおり開催した。
日時:平成26年11月26日 13:30~ 17:50
場所:号館2階輪講室2
KENS DAQグループでは様々な中性子検出器システムを開発している。最近では中性子2次元検出のLiTA12システムを完成及び機能追加し、2013年9月と2014年7月に機構報告をしている。高計数率機能で、50Mcps(2Mcps/cm2)の測定を40%程度の中性子検出効率で達成した。また、排他処理機能追加で、切らないシンチレータも使用できるようになった。今回は重心計算により、0.4mmピクセルサイズで測定できるようになった。
排他処理機能の原理は、マルチカウントを防ぐために、信号があったときに近隣のピクセルと比較し、このピクセルが一番大きい場合に中性子データとし、周 りを捨てる。重心計算では、捨てる周りのピクセルともっと細かく大きさの比較に使用して、実配置よりも細かい位置を求められる。図5に切らないシンチレー タ(5cm角1.0mm厚の6Liガラスシンチレータ)を内蔵した検出器の前に、中性子を通さないカドミウムの「KENS」文字を 貼り付けている様子を示す。図5の(a)は実配置の3mmピクセルサイズのデータである(90°回転しているので注意)。文字が小さすぎで判別が難しい。 (b), (c), (d)は縦横それぞれで2倍、4倍、8倍の細かさで重心計算したデータであり、ピクセルサイズが1.5mm、0.8mm、0.4mmと細かくなっている。 文字の上下にうっすらと養生テープの影も確認できる。これらのデータは1個ごとの中性子の情報を保存するイベント方式で保存していて、何度でも違う条件で 計算することができる。また、この場合の最高計数率は、光が広がるために低くなるが、3Mcpsまで得られている。これらのデータは、均一性を良くするた めに、カドミウム文字がない状態で採ったデータで強度補正している。また、J-PARCのMLF/BL16で測定した。高位置分解と高計数率から、小角散 乱実験などに期待される。
図5. 検出器に設置したカドミ文字(左)と重心計算機能の効果(右)