4月30日に中性子標的容器の密閉容器 (ヘリウムベッセル) 内部で水分濃度の上昇が検知され、調査の結果、当該不具合は中性子標的容器の欠陥に起因することが判明したため、本年7月から予定していた交換作業を2か月程度前倒しで行うこととし、6月末までの間、利用運転を休止することとした。この決定を受け、2015B期の一般課題公募を中止することとなった。
HRC全体会議
2015年度におけるBL12(HRC)装置整備計画に関するHRCグループの全体会議を4月30日にKEK東海キャンパスにて開催した。
POLANOキックオフミーティング
2015年度におけるBL23(POLANO)の建設と運営に関するキックオフミーティングを4月30日にKEK東海キャンパスにて開催した。内容は以下のとおり。
◆ メンバー紹介
図1. POLANOキックオフミーティグの記念撮影
TRIMN全体会議
光・量子融合連携研究開発プログラム「中性子とミュオンの連携による「摩擦」と「潤滑」の本質的理解」(通称TRIMN, 代表:瀬戸秀紀)の第3回全体会議を5月18日(月)にTKP東京駅八重洲カンファレンスセンターにて開催した。
(プログラム)
13:30-13:35 | 開会のご挨拶 | 瀬戸 秀紀 (高エネルギー加速器研究機構) |
3:35-13:55 | BL06 中性子スピンエコー分光器 VIN-ROSEの現況 | 遠藤 仁 (高エネルギー加速器研究機構) |
13:55-14:15 | 中性子集光ミラー開発の現状2 | 日野 正裕 (京都大学) |
14:15-14:35 | 試料水平型中性子反射率計SOFIAのアップグレードスケジュールと実験実施状況 | 山田 悟史 (高エネルギー加速器研究機構) |
14:35-14:55 | 休憩 | |
14:55-15:15 | ミュオニウム及び磁性ナノ粒子マーカーμSRで見るポリマーダイナミクス | 竹下 聡史( 高エネルギー加速器研究機構) |
15:15-15:35 | 中性子反射率法による基板界面のゴムの構造解析 | 増井 友美 (住友ゴム工業株式会社) |
15:35-15:55 | 中性子反射率法および周波数変調型原子間力顕微鏡法による固液界面分析結果の比較・対応 | 平山 朋子(同志社大学) |
15:55-16:15 | 休憩 | |
16:15-16:35 | 水潤滑界面におけるポリビニルエーテルの凝集状態 | 張翠、織田ゆか里、〇川口大輔、田中敬二(九州大学) |
16:35-16:55 | 中性子反射率測定による高分子添加剤の吸着構造評価 | ○水上雅史、Yuvaraj Sivalingam、栗原和枝(東北大学) |
16:55-17:30 | 議論 |
図2. 瀬戸秀紀教授による開会の挨拶
論文
BL16 SOFIAを用いた研究について以下の論文が受理された。
逆CuO2型のTi2H正方格子から成る層状金属水素化物、H-イオンの特性を活かした新物質合成(東京工業大学・溝口拓、SangWon Park、細野秀雄氏との共同研究)
鉄系超伝導体プロトタイプLaFeAsOのような混合アニオン系は、高温超伝導に代表される新規物性を産み出すポテンシャルを持つ物質として注目を浴びている。東京工業大学の細野グループは、LaFeAsOと似た層状構造を持つ新たな混合アニオン水素化物Ln2M2As2Hx (Ln = La or Sm,; M = Ti--Mn) の高圧合成に最近成功した。高強度中性子全散乱装置(NOVA)を利用してTOF中性子粉末回折を測定し、結晶構造解析を行ったところ、特異なM2H正方格子からなる二次元面の存在が明らかになった(図3)。銅酸化物高温超伝導体の二次元面を構成する良く知られたCuO2正方格子とは、カチオンとアニオンを反転させた構造となっている。さらに、金属La2Ti2As2H2.3で強いTi-Ti結合が実現していることが分かった。これは、H-イオンの1s軌道から来る等方性に加え、H-イオンが電子ドナーとして存在するために、それを取り囲むTiイオンの酸化数が低下することが原因と考えられる。このように、H-イオンの特性を活かした新物質を合成することで、高温超伝導のような興味深い物性が新たに発現する可能性があり、今後の研究の発展が期待される。
"An Anti CuO2-type Metal Hydride Square Net Structure in Ln2M2As2Hx (Ln = La or Sm, M = Ti, V, Cr, or Mn)", Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 2932--2935 [DOI: 10.1002/anie.201409023]
Hiroshi Mizoguchi, SangWon Park, Haruhiro Hiraka, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo, and Hideo Hosono
図3. La2Ti2As2H2.3の結晶構造(左)と、Ti2H二次元面(右)。上記文献の図に"H2"を加えて転載(Copyright © 2015 Wiley-VCH)。
工場試験を終えた14TマグネットがMLF長尺ビームライン棟(BL08建家)に搬入され、マグネット本体の組立作業が行われた。組立後にヘリウムリークディテクタを用いたリークチェックが行われ、真空漏れが無いことを確認した。現在、オフラインでのコミッショニングに向けて準備を進めている。
図4. BL08建家内での組立作業。(左)スーパーインシュレーションシートの巻きつけ、(右)組み上がった14Tマグネット。
超微粒子原子核乾板を用いたサブミクロン分解能冷中性子検出器の開発(名古屋大学長縄氏らとの共同研究)
原子核乾板(エマルジョン)はゼラチン中でAgBr結晶を成長、分散させたもので、放射線に対してカメラのフィルムのように軌跡を記録する。高分解能で3次元描像を可視化でき、粒子線検出器として古くから原子核、素粒子物理の研究に用いられている。感光したAgBr結晶微粒子が現像されて生じる銀の微粒子を顕微鏡で観測し画像解析することによりサブミクロンの位置分解能が得られる。6Liや10Bといった中性子を吸収しイオンを放出する原子核を混ぜ込むことでサブミクロンから数十nmという超高分解能の中性子検出器として機能することが期待されている。今回開発された中性子検出用原子核乾板(中性子エマルジョン)は中性子検出用の10Bを基板に蒸着し、反応位置を限定することでその端点の位置決定精度を向上させた。また、AgBr結晶を超微粒子化することで端点の位置決定精度も向上させている。BL05中性子光学基礎物理測定装置NOPにおいて実際に中性子ビームを照射したところ、実際に中性子の吸収によるものと考えられる飛跡が得られた。検出効率などまだ理解できていない部分はあるが、今後サブミクロンから数十nmという従来得られなかった超高分解能を持つ検出器として中性子の空間的量子状態の観測や超小型の中性子干渉計への応用が期待される。
図5. ホウ素蒸着型中性子エマルジョンでとらえた中性子捕獲時の飛跡
"超微粒子原子核乾板を用いた高分解能 冷/超冷中性子検出器の開発"
長縄 直崇、日本物理学会 第70回年次大会, 早稲田大学早稲田キャンパス, 2015/3/22