10/16付けで、本田孝志氏(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 放射光科学第二研究系 博士研究員)が着任することとなった。
博士研究員(常勤)1名(任期は単年度契約で3年まで延長可能)を11月30日を締め切りとして公募中である。
詳細
https://www.kek.jp/ja/jobs/ReseachingStaff/impf15-5j.pdf
論文等
建設状況
京大-KEK連携で建設中のBL06中性子スピンエコー分光装置(MIEZE型及びNRSE型)では、夏期停止期間中の工事として、天井部安全柵設置等のユーティリティー工事を行った。大型工事はこれで完了し、10月からのMLF再稼働後、装置性能試験を中心に進めていく予定である。
図1. 安全柵を設置したBL06天井部。
論文
BL16 SOFIAを用いた研究について以下の論文が受理された。
強磁性半金属CrO2の局所構造解析(原子力機構・樹神克明、社本真一、東大物性研・武田晃、Max Planck・礒部正彦、名大理・伊藤正行、豊田理研・上田寛各氏との共同研究)
CrO2はルチル型の結晶構造をもち、394 Kで強磁性を示す半金属である。この系の結晶構造は常磁性相から強磁性相に渡って変化せず、ユニットセル中の2つのCrサイトは結晶学的に等価である1)。しかし強磁性状態でのNMR測定では磁気モーメントの大きさが異なる、あるいは3d電子の軌道占有状態が異なる2つの非等価なCrサイトが観測されている2,3)。そこで我々は高強度全散乱装置NOVAを用いて粉末中性子回折実験を行い、原子対相関関数(PDF)を導出して局所構造を調べた。
図2の左図は実験から得られたPDFを正方晶のユニットセルをもつ平均構造モデルと、ユニットセル中の2つのCrサイトが非等価になる斜方晶の構造モデルを用いてフィットした結果である。斜方晶構造モデルを用いると、主にCrO6八面体内のO-O原子相関で形成される2本目のピークの形状がより良く再現できる。1.5 < r < 10 Åの領域のPDFをフィットして得られるR因子は、平均構造モデルでは10.6%であるが、斜方晶構造モデルでは6.9%まで減少する。図2の右図にPDFをフィットする領域を10 Åずつ変化させたとき(boxcar refinement)に得られる斜方晶歪みの大きさ、平均構造モデルと斜方晶構造モデルで得られるR因子の比を示す。rmax ≥ 30 Åでは斜方晶歪みはほぼみえなくなり、また斜方晶構造モデルを採用することによって得られるR因子の減少もほとんどみられなくなる。これらの結果は2つのCrサイトが非等価な局所構造歪みが存在し、その相関長は30 Åより充分小さいことを示唆している。
参考文献
1) J. Dho et al., Solid State Commun. 150 (2010) 86.
2) J. Shim et al., Phys. Rev. Lett. 99 (2007) 057209.
3) 武田晃他 日本物理学会2011年秋季大会
図2. (左)CrO2のPDF(白丸)と平均構造モデル(青線)および斜方晶構造モデル(赤線)でフィットした結果。(右)boxcar refinement で得られる斜方晶歪みと、平均構造モデルと斜方晶構造モデルで得られるR因子の比(挿入図)