KENS 中性子科学研究系

KEK

月例研究報告 10月

1. 共同利用状況など

【 MLF運転再開 】

 10/27よりMLF中性子ビーム供給が再開され、各ビームラインは順調に稼働している。

【 MLF 2016A期一般課題公募 】

 10/17〜11/9の受付期間として、2016A期の一般課題公募が行われた。

 

2. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【 BL12高分解能チョッパー分光器HRC 】

 機器整備状況

 MLF(J-PARC)の夏期停止期間に以下の機器整備を行った。

・中性子ブリルアン散乱実験や高エネルギー実験の拡充のため、散乱角が0.6-10°の小角領域の検出配置の変更を検出器の増設のため、小角部フランジの改造を行い、0.6-4°の範囲に検出器を2列に設置した。
・散乱角が3°以上の領域には有効長2.8mの検出器を建設当初128本設置した。その後さらに128本購入できて、2013年度に設置した。検出器の構造上の問題で検出効率の位置依存性が一様でない検出器が多数あり、検出器メーカーは再製作し、今年1月に再設置したが、あまり改善されていなかった。今回、メーカーがHRCにおいて調整作業を行い、Cf線源を用いて一様性を確認した。MLF再開後に中性子ビームを用いて性能試験を実施する予定である。現在-30°〜62°の範囲に検出器が設置されている。
・真空散乱槽の主排気装置であるクライオポンプは、運転時間が17000時間を越えたので、定期保守(冷凍機と吸着体の交換)を行った。
・フェルミチョッパーが時々うまく同期しないという問題があり、これまで磁気軸受及び制御ソフトのパラメーターの調整を行ってきたが、これらの調整では改善していない。今回、回転体のバランス調整を実施したところ、バランスは向上した。また、それに応じて制御ソフトのパラメーターの再調整を行った。
・真空散乱槽内壁に貼付けたB4Cライナーの一部が、試料と検出器を結ぶ直線を遮り、いくつかの検出器で散乱中性子を検出できない状態になっていた。B4Cライナーの形状を修正してこの問題を改善した。
・制御ソフトでは、昨年後購入した1K冷凍機の温度調節とゴニオの制御をするための接続設定を行った。解析ソフトでは、生データからS(Q,ω)への変換方法を再検討し、変換方法の修正を行った。小角部検出器の変更にともない、解析ソフト上での検出器配置の変更を行った。
・検出器系がノイズを広いイベントデータの量を増大させている。このノイズは解析時に消去できるものであるが、データ量の低減適正化は必要である。今回調査を行い、T0チョッパーで発生するノイズが電源ケーブルを通じて検出器系に回り込んでいることが判明した。対策の検討を開始した。
・14Tまで磁場を印加できる超伝導磁石をHRCの試料位置に設置して、昨年10Tまでの励磁に成功した。オシレーティングラジアルコリメーターによるバックグラウンドの低減を確認した。今年2月にHRCで予備的な実験を行った。しかし、液体ヘリウム槽から真空断熱槽へのリークが見つかり、修理のためメーカーに返送する手続をすすめている。

 

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図1. HRCの小角部検出器の取り付けの様子。

 

【 BL23偏極中性子散乱装置POLANO 】

 装置建設および機器開発

 MLF(J-PARC)の夏期停止期間に予定していた大型工事はあらかた終了した。この工事により分光器の主要な部分の整備はほぼ終了し(図2)、ビーム受け入れに向けた準備は進んだ。放射線変更申請の遅れにより、この10月からの稼働に併せたビーム受け入れはできないが、今後の申請予定に合わせた準備を進めてゆく。
 下に挙げた開発項目はPOLANOにおける高性能偏極実験実現に向けて不可欠な要素である。SEOP開発は従来型より高い偏極率の得られるRb-Kハイブリッド型のフィリングステーションを整備し、実用に向けて大きく前進した。磁場環境についてはヘルムホルツ(各種)コイル、直流電源、ホール素子センサーなどを整備し、励磁試験を行った。

(建設工事予定)
・真空槽周辺、ビームライン、PPS関連、DAQ関連、増設建屋

(機器開発予定)
・SEOP開発、DNP開発、スピンフリッパー開発、磁場環境開発、計算環境開発、高速チョッパー制御開発

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図2. POLANOに設置されたビームライン機器。

 

(2) ソフトマターグループ

【 ニュースリリース 】

 住友ゴム工業株式会社が10月29日、新材料開発技術「ADVANCED 4D NANO DESIGN」の完成を発表した。この技術はSPring-8とJ-PARC、京を連携活用することにより、タイヤの相反性能である低燃費性能、グリップ性能、耐摩耗性能の大幅な向上が可能となるもの。これにより、ゴム内部のストレスや発熱を発生させている原因が、シリカネットワーク運動、架橋構造、シリカ界面ポリマー運動と密接に関係していることが分かった。そしてこのストレスを発生させる原因を低減させることにより、低燃費性能とグリップ性能を維持しつつ、耐摩耗性能を飛躍的に向上させるゴムの開発に成功した。(詳細はhttp://www.srigroup.co.jp/newsrelease/2015/sri/2015_130.htmlを参照)
 この成果は、光・量子融合連携研究開発プログラム「中性子とミュオンの連携による『摩擦』と『潤滑』の本質的理解」の協力のもとに得られた。

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

 論文

 BL16 SOFIAを用いた研究について以下の論文が受理された。

  • T. Hirata, H. Matsuno, D. Kawaguchi, N. L. Yamada, and M. Tanaka,
    "Construction of a blood-compatible interface based on surface segregation in a polymer blend Polymer",
    Polymer 78, 219-224 (2015).
  • F. Chen, D. Peng, Y. Ogata, K. Tanaka, Z. Yang, Y. Fujii, N. L. Yamada, C.-H. Lam, and O. K. C. Tsui,
    "Confinement Effect on the Effective Viscosity of Plasticized Polymer Films",,
    Macromolecules 48, 7719-7726 (2015).

 

 装置整備状況・運転状況

 BL16では4月に試料ステージの変更を行い、一度に設置できるサンプルの数を増加させたが、夏期メンテナンス中に改良を加え、サンプル数をさらに増加させた。また、バックグラウンドを低減させた固体液体界面セルや、ペルチェ素子を利用した温調装置などの試料環境整備も行った。一方、使える波長範囲を広げるために熱外中性子に対応したディスクチョッパーを設置する予定であったが、クレーンの都合がつかず延期することとなった。
 10/27のJ-PARC運転再開後は前述のサンプルステージの調整を行い、10/31よりユーザーへの供用を再開した。

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

 論文発表

 NOVAを用いた成果が、下記の論文として発表された。

  • 1) Mizoguchi, H., Park, S., Hiraka, H., Ikeda, K., Otomo, T., Hosono, H.,
    "An anti CuO2-type metal hydride square net structure in Ln2M2As2H(x) (Ln=La or Sm, M=Ti, V, Cr, or Mn)",
    Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 54, 2932-2935 (2015).
  • 2) Mori, K., Furuta, K., Onodera, Y., Iwase, K., Fukunaga, T.,
    "Three-dimensional structures and lithium-ion conduction pathways of (Li2S)x(GeS2)100−x superionic glasses",
    Solid State Ionics, 280, 44-50 (2015).
  • 3) Ohshita, H., Ishiwata, M., Iwase, K., Fujisaki, F., Muto, S., Satoh, S., Seya, T., Sakaguchi, M., Otomo, T., Ikeda, K., Kaneko, N., Suzuya, K.,
    "New Neutron Beam Monitor Based on GEM",
    JPS Conference Proceedings, 8, 036019 (2015).
  • 4) Sekine, Y., Kobayashi, R., Chi, S., Fernandez-Baca, J.A., Suzuya, K., Fujisaki, F., Ikeda, K., Otomo, T., Ikeda-Fukazawa, T., Yamauchi, H., Fukazawa, H.,
    "Neutron Diffraction of Ice and Water in Hydrogels",
    JJPS Conference Proceedings, 8, 033009 (2015).
  • 5) Onodera, Y., Nakashima, H., Mori, K., Otomo, T., Fukunaga, T.,
    "Structure and conductivity of Na-P-S superionic conducting glasses studied by neutron and X-ray diffraction",
    JPS Conference Proceedings, 8, 031013 (2015).
  • 6) Maruyama, K., Arai, Y., Sato, S., Sanada, M., Otomo, T., Suzuya, K., Itoh, K.,
    "Neutron Diffraction Study of Isotope Enriched Glassy Sm4Ti9O24",
    JPS Conference Proceedings, 8, 031007 (2015).
  • 7) Kodama, K., Igawa, N., Shamoto, S.-I., Ikeda, K., Ohshita, H., Kaneko, N., Otomo, T., Suzuya, K., Hoshikawa, A., Ishigaki, T.,
    "Local Lattice Distortion Caused by Short-Range Charge Ordering in Transition Metal Oxides",
    JPS Conference Proceedings, 8, 034002 (2015).
  • 8) Hosokawa, S., Stellhorn, J., Pilgrim, W.-C., Boudet, N., Blanc, N., Kohara, S., Tajiri, H., Kato, H., Kawakita, Y., Otomo, T.,
    "A Combination of Anomalous X-ray Scattering and Neutron Diffraction for Structural Characterizations of Zr45Cu45Ag10Metallic Glass",
    JPS Conference Proceedings, 8, 031002 (2015).
  • 9) Furuta, K., Mori, K., Onodera, Y., Fukunaga, T.,
    "Local Structure of Lithium Ion Conducting Germanium Sulfide Glass: (Li2S)40(GeS2)60",
    JPS Conference Proceedings, 8, 031004 (2015).
  • 10) Arima, H., Kawamata, T., Yokoyama, Y., Sugiyama, K., Otomo, T.,
    "Structural Study of Fe80B20 Amorphous Alloy by Anomalous X-ray Scattering Coupled with Neutron Diffraction",
    JPS Conference Proceedings, 8, 031019 (2015).