KENS

KEK

月例研究報告 9月

1. 共同利用状況など

【 J-PARC/MLF 2016B一般課題 】

 2016B期のMLF中性子利用一般課題は、234件の申請があり、90件が採択された。このうち、物構研が運用している5本のビームラインで実施している大学共同利用分は、47件の申請があり、25件が採択された。

【 S1型課題予備審査会 】

 J-PARC/MLFにおいて実施中のS1型課題については、物構研・中性子課題審査委員会により指名された主査による予備審査を研究会形式で実施している。

課題番号課題名(申請者)研究会  開催日開催場所
2014S05
(NOP)
パルス冷中性子を用いた中性子基礎物理研究(名古屋・清水) 8/9 名古屋大学
2014S03
(SuperHRPD)
SuperHRPDによる高分解能粉末中性子構造解析法の開発と機能性物質の構造科学研究(KEK・神山) 11/15 KEK
研究本館
2014S06
(NOVA)
全散乱法による水素化物の規則-不規則構造解析(KEK・大友) 11/21 KEK
東海1号館
2014S07
(VIN ROSE)
中性子スピンエコー分光器群(VIN ROSE)の建設と高度化(京大・日野) 10/4 KEK
東海1号館
2014S08
(SOFIA)
中性子反射率法を用いたソフト界面の先進的ナノ構造評価法の開発と工業材料への応用(KEK・山田悟史) 9/28 研究者英語センター
2014S097
(POLANO)
偏極中性子散乱装置POLANOによる静的・動的スピン構造物性の研究(KEK・横尾) 11/15 KEK
4号館
2014S10
(SPICA)
特殊環境中性子回折装置を使ったin situ測定による蓄電池材料の構造学的研究(KEK・米村)) 11/15 KEK
研究本館
2016S016
(HRC)
高分解能チョッパー分光器による物質のダイナミクスの研究(KEK・伊藤、東大・益田) 11/14 KEK
東海1号館

 

2. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【 BL12高分解能チョッパー分光器HRC 】

 学会発表

  • Neutron Scattering Study in Breathing Pyrochlore Antiferromagnet Ba3Yb2Zn5O11
    T. Masuda, T. Haku, M. Soda, M. Sera, K. Kimura, J. Taylor, S. Itoh, T. Yokoo, Y. Matsumoto, D. Yu, R. A. Mole, T. Takeuchi, S. Nakatsuji, Y. Kono, T. Sakakibara, L.-J. Chang
    8th International Conference on Highly Frustrated Magnetism 2016 (HFM2016), GIS NTU Convention Center, Taipei, Taiwan, 7 - 11 September 2016
  • High Resolution Chopper Spectrometer HRC and Neutron Brillouin Scattering
    S. Itoh, T. Yokoo, T. Masuda, H. Yoshizawa, M. Soda, M.o Yoshida, T.Hawai, D. Kawana, R. Sugiura, T. Asami, Y. Kawamura, T. Shinozaki, Y. Ihata
    7th Workshop on Inelastic Neutron Spectrometers (WINS2016), 8 - 9 September 2016, Kutschstall Potsdam and Helmholtz-Zentrum Berlin, Germany
  • 高分解能チョッパー分光器HRCによる中性子ブリルアン散乱実験
    伊藤晋一、横尾哲也、羽合孝文、益田隆嗣、吉沢英樹、左右田稔 、吉田雅A、浅見俊夫、杉浦良介、川名大地、篠崎知子、川村義久、井畑良明
    日本物理学会2016年秋季大会、金沢大学、2016年9月13-16日
  • ホールドープされた一次元鎖のスピン-電荷ダイナミクス
    横尾哲也,羽合孝文,伊藤晋一,池田陽一,吉澤英樹
    日本物理学会2016年秋季大会、金沢大学、2016年9月13-16日
  • リラクサー磁性体LuFeCoO4における中性子散乱研究
    左右田稔、伊藤晋一、横尾哲也、益田隆嗣
    日本物理学会2016年秋季大会、金沢大学、2016年9月13-16日
  • Au-Si-Tb Tsai型近似結晶の中性子非弾性散乱実験
    廣戸孝信、佐藤卓、羽合孝B、横尾哲也、伊藤晋一、田村隆治
    日本物理学会2016年秋季大会、金沢大学、2016年9月13-16日
  • 充填スクッテルダイトPrFe4P12の高エネルギー中性子分光
    前田駿一、桑原慶太郎、川名大地、横尾哲也、伊藤晋一
    日本物理学会2016年秋季大会、金沢大学、2016年9月13-16日
  • 空間反転対称性の破れたCeTSi3(T=Pd,Pt)の磁気特性
    植田大地、池田陽一、柴田浩貴、𠮷田雅洋、伊藤晋一、横尾哲也、吉澤英樹
    日本物理学会2016年秋季大会、金沢大学、2016年9月13-16日
  • 近藤半導体Yb1-xRxB12(R=Lu,Zr,Y)のギャップレス状態からのYbB12の近藤温度評価
    横道啓省、和田徹、植松直之、石井克弥、林健人、伊賀文俊、桑原慶太郎、佐藤桂輔、佐藤仁、伊藤晋一、横尾哲也、井深壮史、近藤晃弘、金道浩一
    日本物理学会2016年秋季大会、金沢大学、2016年9月13-16日

【 BL23偏極中性子散乱装置POLANO 】

 装置整備・開発等

 POLANOは6月に行われた放射線変更申請に伴う施設検査に合格し、シャッターの開閉が許可された。今夏は中性子受け入れ前の最期の大型工事を行っており、生体遮蔽内ガイド管の真空調整、検出器設置および配線、Fermiチョッパーの設置と調整、各種制御系の整備などを進めている(図1)。11月からのJ-PARC運転再開に合わせてビーム受け入れを行い、コミッショニングを開始する予定である。

 機器整備として、SEOP偏極子を初めとし磁場環境や計算環境あるいはチョッパー開発に注力している。偏極実験の心臓部となる3Heスピンフィルター(以下3He NSF)はKEKで開発を進めている。POLANOではビームライン上で3Heガスを偏極するin-situ方式を採用した。ビーム軸方向の長さ60 cm×幅60 cm×高さ30 cmのコンパクトな設計になっており、真空散乱槽の直上流に設置を予定している。初期段階での性能として、3He NSF位置でビーム径50 mmに対して、中性子エネルギー50 meV以上、3He偏極率70%以上を目指している。POLANO 3He NSFは、adiabatic fast passage (AFP)と呼ばれる3Heスピン反転装置が装備されており、一定時間ごとに入射中性子のスピンをフリップしながら測定を行うことができる。このAFP NMRをはじめ、レーザー光学系、磁場環境、ヒーターなどにさまざまな工夫を凝らすことによりコンパクトな3He偏極装置が実現できている。現在は、連続運転試験を繰り返しながら、装置の安全性や耐久性の強化を図り、POLANOのコミッショニングに備えている。磁気シールド付きソレノイドの内側に3Heセルが設置されている。レーザー光学系、AFP NMR、ガイドコイル等が60 cm×60 cmの光学テーブル上に配置されている(図2)。

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図1. PSDの配線作業

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図2. テスト中のPOLANO 3He NSF

(2) ソフトマターグループ

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

 論文等

  1. S. Takahashi, N. L. Yamada, K. Ito, and H. Yokoyama,
    "Inclusion Complex of α-Cyclodextrin with Poly(ethylene glycol) Brush",
    Macromolecules, accepted (DOI: 10.1021/acs.macromol.6b01238).
  2. T. Fujiwara, U. Bautista, Y. Mitsuya, H. Takahashi, N. L. Yamada, Y. Otake, A. Taketani, M. Uesaka, H. Toyokawa,
    "Microstructured boron foil scintillating G-GEM detector for neutron imaging",
    Nucl. Instr. and Meth. A, accepted (DOI: 10.1016/j.nima.2016.09.005).
  3. T. Minato, H. Kawaura, M. Hirayama, S. Taminato, K. Suzuki, N. L. Yamada, H. Sugaya, K. Yamamoto, K. Nakanishi, Y. Orikasa, H. Tanida, R. Kanno, H. Arai, Y. Uchimoto, and Z. Ogumi,
    "Dynamic Behavior at the Interface between Lithium Cobalt Oxide and an Organic Electrolyte Monitored by Neutron Reflectivity Measurements",
    J. Phys. Chem. C 120, 20082–20088 (2016) (DOI: 10.1021/acs.jpcc.6b02523)

 架橋ポリイソプレン薄膜の溶媒膨潤挙動(九州大学 田中グループ)

 ゴム材料の物性制御において、マクロな物性を支配していると考えられているフィラー界面における高分子鎖の凝集状態(いわゆるバウンドラバー層)の構造形成メカニズムを理解することは極めて重要である。九州大学の田中グループは、モデルフィラーとして石英を位置づけ、その上に調製したポリイソプレン(PI)架橋薄膜を良溶媒に浸漬させた際の膨潤度の分布を中性子反射率測定に基づき評価した。測定はJ-PARCのBL16に設置したSOFIA反射率計を用いて行った。
 図3(a)にPI架橋薄膜を空気中、および両溶媒であるn-ヘキサン中で測定した反射率プロファイルを示す(ただし、n-ヘキサンはPIとのコントラストをつけるために重水素化してある)。空気中の反射率プロファイルが広いq領域に渡って薄膜の厚さに対応する干渉を示しているのに対し、n-ヘキサン中では干渉の周期が狭くなった他、低q領域でしか干渉が観察できなかった。これはPI薄膜が膨潤すると同時に、膜表面が粗くなったことを示唆している。実際、PI薄膜の詳細な構造を評価するためにフィッティングによる解析を行ったところ、図3(b)の散乱振幅密度プロファイルが示す通り、基板界面にほとんど膨潤しない層、および、この界面層と薄膜内部相の間に中間層が形成されることが明らかとなった。これらの層はフィラーに吸着したバウンドラバーの形成と密接に関係していると考えており、その形成メカニズムおよびダイナミクスを評価することによって、ゴム材料の物性制御に繋がる知見が得られると期待できる。

参考文献
[1] S. Shimomura, M. Inutsuka, N. L. Yamada, and K. Tanaka, "Unswollen layer of cross-linked polyisoprene at the solid interface", Polymer, in press (DOI: 10.1016/j.polymer.2016.07.047).

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図3. (a)PI架橋薄膜を空気中、および良溶媒であるn-ヘキサン中で測定した反射率プロファイル、および(b)反射率プロファイルをフィッティングすることにより得られた散乱振幅密度プロファイル。n-ヘキサンで膨潤することにより、基板界面にほとんど膨潤しない層、に加えて界面層と薄膜内部相の間に中間層が形成されることが明らかとなった。

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

 11月からのビーム再開に向け、40試料交換機、温調機能付き試料交換機などの試料環境の調整・整備、測定中のデータ可視化のためのオンラインモニターの整備、ラジアルコリメーターの設計などを進めている。