KENS

KEK

月例研究報告 4月

1. 共同利用状況など

【 J-PARC MLF中性子ビームライン長期課題 】

 最長3年または6申請ラウンドに渡る実施が可能で、KEK設置者BL、共用BL、JAEA設置者BLにまたがる複数の中性子実験装置を含む申請が可能な長期課題を2017B期より開始する。公募は、3月30日に締め切られ、24件(うち海外10件)の申請があった。長期課題については、ヒアリング審査も行われる。

 

2. 研究グループの活動状況

(1) ソフトマターグループ

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

 成果発表

  • H. Tanoue, N. L. Yamada, K. Ito, H. Yokoyama,
    “Quantitative Analysis of Polymer Brush Formation Kinetics using Quartz Crystal Microbalance: Viscoelasticity of Polymer Brush”,
    Langmuir, accepted (DOI: 10.1021/acs.langmuir.7b00961
  • 宮武佑樹, “重水素化ポリスチレン/ポリ-2-クロロスチレン薄膜の相分離と脱濡れ”,
    修士論文(京都大学), 2017年3月.
  • 松山瑠璃子, “物理的手法に基づく高分子の表面改質と細胞応答挙動”,
    修士論文(九州大学), 2017年3月.

 Grafting-to法を用いた高分子ブラシの形成過程(東京大学 横山グループ)

 高分子の末端を表面に化学的に結合させた、nmスケールのブラシは「高分子ブラシ」と呼ばれており、特に高密度の高分子ブラシは超親水(疎水)性や防汚性、低摩擦性等の特異的な性質をしばしば発現するため次世代の機能性材料として注目されており、人工関節などに応用されている。高分子ブラシの作成法として、高分子の末端に表面に特異的に反応する官能基を修飾し、表面に高分子を修飾する”Grafting-to”法、逆に高分子の反応の起点となる官能基を基盤に修飾し、そこに高分子のモノマーを次々に反応させてブラシを成長させる”Grafting-from”法等が知られており、前者は後者と比較して簡便に作成できる一方、ブラシの密度が低いため機能性に劣るという欠点を有する。これは、密度が上がるにつれて先に反応・吸着した高分子が新たな高分子の反応・吸着を立体的に阻害するためであることが知られているが、実際にその形成過程を観察した例はない。 そこで、東京大学の横山グループは中性子反射率法(NR)と表面プラズモン共鳴分析法を用いた表面構造解析と水晶発振子マイクロバランス法(QCM)を用いた質量分析を組み合わせることにより、Grafting-to法によって高分子ブラシが形成される際の厚さと密度、およびブラシの粘性の変化をそれぞれ評価した。図1(左)に高分子ブラシの材料となるチオールを末端修飾したポリエチレングリコールの水溶液を金薄膜の表面に接触させた後のプロファイル変化を示す。プロファイルの測定は中性子反射率計SOFIAを用い、広いQ領域を同時測定するために波長幅を拡張したダブルフレームモードにて測定を行った。プロファイルに現れた干渉は金薄膜とその表面に吸着した高分子ブラシによる干渉で、時間の経過につれて周期が短く(膜厚が大きく)なっていることがわかる。この干渉をフィッティングにより評価した結果が図1(右)のグラフで、ブラシ密度が0.17 chains/nm2に到達するまでは膜厚が単調に増加しているのに対して、これを超えると膜厚がおよそ4 nmからほとんど変化していないことを示している。これに対し、同様の実験をQCMで行い、貯蔵弾性率、損失弾性率の時間変化を評価したところ、ブラシ密度が0.17 chains/nm2に到達するとブラシが粘性的な応答から弾性的な応答へと変化することが明らかになった。これは、ブラシ密度が0.17 chains/nm2に到達すると、表面に吸着したブラシ分子がほぼ伸びきった状態を保ったまま密度増加していくと同時に、粘弾性挙動に変化が現れることを示している。 これまで、NRは長い測定時間を要するため、高分子ブラシの評価は反応を止めた終状態でのみ行われてきた。それに対し、SOFIAを用いた実験では数分オーダーでの時分割に成功し、その形成過程を追うことができた。ただし、高分子ブラシがまばらに形成された希薄領域における評価を行うには数分オーダーの時分割測定でもまだ不足している上、高分子ブラシの種類によっては今回の系よりも早い時間でブラシの形成が完了してしまうため、NRのみで更なる詳細を追うことには限界がある。一方、QCMは秒オーダーでも測定可能であるため、今回の知見を深めて行くことにより、希薄領域の評価や他の高分子ブラシ系においてもその形成メカニズムの解析が可能になると期待される。

Reference
1. H. Tanoue, N. L. Yamada, K. Ito, and H. Yokoyama,
Langmuir, accepted (DOI: 10.1021/acs.langmuir.7b00961).

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1*. (左)SOFIAで得られた時分割NRプロファイルとそのフィッティング結果。 (右)時分割NR解析より得られたブラシ密度と厚さの相関。* Reproduced from Figures 3 and 5 in the reference.

 

(2) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

 成果発表

  • S. Takagi, Y. Iijima, T. Sato, H. Saitoh, K. Ikeda, T. Otomo, K. Miwa, T. Ikeshoji, S.-I. Orimo,
    “Formation of novel transition metal hydride complexes with ninefold hydrogen coordination”,
    Sci. Rep. 7 (2017) 44253.
  • K. Mori, T. Kasai, K. Iwase, F. Fujisaki, Y. Onodera, T. Fukunaga,
    “Structural origin of massive improvement in Li-ion conductivity on transition from (Li2S)5(GeS2)(P2S5) glass to Li10GeP2S12 crystal”,
    Solid State Ionics 301 (2017) 163-169.
  • S. Iimura, Y. Tomota, S. Matsuishi, R. Masuda, M. Seto, H. Hiraka, K. Ikeda, T. Otomo, H. Hosono,
    “Ferrimagnetic Cage Framework in Ca12Fe10Si4O32Cl6”,
    Inorg. Chem. 56 (2017) 566-572.

 2016年度 量子ビームサイエンスフェスタ(つくば、エポカル)2016年3月15日

  • 2014S06 全散乱法による水素化物の規則?不規則構造解析 大友 季哉
  • 2015MP003 NaAlH4-Ti系化合物における原子・イオン輸送機構の解明 大友 季哉

 日本物理学会第72回年次大会(阪大、豊中キャンパス)2017年3月17-20日

  • 単結晶ダイヤモンド検出器の開発及び評価
    原明日翔, 田中真伸, 金子純一, 藤井祐樹, 橋本義徳, 平野慎太郎, 水越司, 西口創, 嶋岡毅紘, 山崎聡, 牧野俊晴, 小泉聡, 上殿明良, 八井崇, 三原智, 田中秀治, 佐波俊哉, 萩原雅之, 吉田光宏, 橋本義徳, 岸本俊二, 小嶋健児, 大友季哉, 大下英敏, 瀬谷智洋
  • T'構造銅酸化物RE2CuO4 (RE = Pr, Nd)における還元アニールによる局所構造変化
    鈴木謙介, 池田一貴, 大友季哉, 藤田全基
  • 中性子回折によるSiO2ガラスの高温高圧下での相転移/緩和の検証
    服部高典, 佐野亜沙美, 稲村泰弘, ヤガファロフオスカー, 片山芳則, 千葉文野, 大友季哉
  • La, Mn置換したSrTiO3の結晶構造解析
    梶本亮一, 中村充孝, 社本真一, 池田一貴, 大友季哉, 畑博人, 江藤貴弘, 奥田哲治
  • 分散メッセージングによるNOVAのオンライン解析システムの開発
    大下英敏, 大友季哉, 池田一貴, 本田孝志, 金子直勝, 瀬谷智洋, 鈴谷賢太郎, 安芳次, 森山健太郎, 稲村泰弘
  • スピネル型酸化物MgTi2O4における,相転移近傍のナノスケール構造揺らぎ
    鳥越秀平, 服部崇幸, 樹神克明, 本田孝志, 仁谷浩明, 阿部仁, 佐賀山基, 池田一貴, 大友季哉, 村川寛, 酒井英明, 花咲徳亮
  • 熱測定と中性子回折によるPt/Pd合金ナノ粒子の水素吸蔵/放出過程の研究
    秋葉宙, 小林浩和, 北川宏, 池田一貴, 大友季哉, 山室修

 

(3) 中性子光学研究グループ

【 BL05中性子光学基礎物理測定装置NOP 】

 成果発表

  • N. Naganawa, S. Awano, M. Hino, M. Hirose, K. Hirota, H. Kawahara, M. Kitaguchi, K. Mishima, T. Nagae, H. M. Shimizu, S. Tasaki, A. Umemoto,
    “A neutron detector with submicron spatial resolution using fine- grained nuclear emulsion”,
    Physics Procedia, accepted.
  • Noriko OI, Hirohiko M. Shimizu, Katsuya Hirota, Masaaki Kitaguchi, Christopher C. Haddock, William M. Snow, Tamaki Yoshioka, Satoru Matsumoto, Kenji Mishima, Takashi Ino, Tatsushi Shima,
    “Measurement of neutron scattering from noble gas to search for a short-range unknown force”,
    Proceedings of Science, accepted.
  • Naoki Nagakura, Katsuya Hirota, Sei Ieki, Takashi Ino, Yoshihisa Iwashita, Masaaki Kitaguchi, Ryunosuke Kitahara, Kenji Mishima, Aya Morishita, Hideyuki Oide, Hidetoshi Otono, Risa Sakakibara, Yoshichika Seki, Tatsushi Shima, Hirohiko M. Shimizu, Tomoaki Sugino, Naoyuki Sumi, Hirochika Sumino, Kaoru Taketani, Genki Tanaka, Tatsuhiko Tomita, Takahito Yamada, Satoru Yamashita, Mami Yokohashi, and Tamaki Yoshioka,
    “Precise Neutron Lifetime Experiment Using Pulsed Neutron Beams At J-PARC”,
    Proceedings of Science, accepted.

 

 A neutron detector with submicron spatial resolution using fine- grained nuclear emulsion (名古屋大学 長縄他)

 原子核乾板(エマルジョン)はゼラチン中でAgBr結晶を成長、分散させたもので、放射線に対してカメラのフィルムのように軌跡を記録する。高分解能で3次元描像を可視化でき、粒子線検出器として古くから原子核、素粒子物理の研究に用いられている。感光したAgBr結晶微粒子が現像されて生じる銀の微粒子を顕微鏡で観測し画像解析することによりサブミクロンの位置分解能が得られる。6Liや10Bといった中性子を吸収しイオンを放出する原子核を混ぜ込むことでサブミクロンから数十nmという超高分解能の中性子検出器として機能することが期待されている。今回開発された中性子検出用原子核乾板(中性子エマルジョン)は中性子検出用のLiNO3をエマルジョンにドープしたもので、反応のトラックを解析することで位置決定精度を向上させている。本検出器の性能試験をBL05ビームラインにて行ったところ、想定どおりの検出効率が得られた。飛跡から位置分解能は0.37μmと予想される結果となった。これは現存する位置敏感型中性子検出器より1桁程度小さいものである。今後サブミクロンから数十nmという従来得られなかった超高分解能を持つ検出器として中性子の空間的量子状態の観測や超小型の中性子干渉計への応用が期待される。

参考文献
“A neutron detector with submicron spatial resolution using fine- grained nuclear emulsion” N. Naganawa, S. Awano, M. Hino, M. Hirose, K. Hirota, H. Kawahara, M. Kitaguchi, K. Mishima, T. Nagae, H. M. Shimizu, S. Tasaki, A. Umemoto, Proceedings of 8th International Topical Meeting on Neutron Radiography, ITMNR-8, 4-8 September 2016, Beijing, China, Physics Procedia accepted (2017).


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図2. An example of a neutron absorption event by 6Li observed under an optical microscope with an epi-illumination system (circled in red). A pair of tracks of an alpha particle and a triton (green arrows) in back-to-back topology was identified.

【 研究会 】

 2nd workshop of Concepts of neutron sources (CoNS-II)

 新しい概念の中性子源を目指す研究会「第2回 Concept of Neutron Sources」を開催した。

 開催日時:平成29年3月7日(火) 13:00 - 17:00
 会 場:J-PARC研究棟408号室
 〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方2番地4
 https://www2.kek.jp/imss/kens/topics/2017/02/011945.html

 組織委員: 鬼柳善明(名古屋大)、清水裕彦(名古屋大)、Albert YOUNG(ノースカロライナ州立大)、大友季哉(KEK)、岩下芳久(京都大)、三島賢二(KEK)、猪野隆(KEK)

 プログラム

Start timeNameaffiliationProgram
13:00 H.M. Shimizu Nagoya Univ. Opening remark
13:10 K. Mishima KEK Neutron production reactions
13:35 R. Hajima QST Generation of narrow-band gamma-rays by laser Compton scattering
14:00 A. Yoshimi Okayama Univ. New scheme of high-quality neutron source using intense MeV gamma beam from "quantum" ion
14:25 S. Sasaki ANL Preliminary consideration on neutron source using photon beam from ILC undulator
14:50 M. Teshigawara JAEA New neutron moderator/reflector materials: Experiment at J-PARC
15:15 Y. Tsuchikawa Nagoya Univ. New neutron moderator/reflector materials: Data analysis
15:30 Break    
15:50 E. Pierre TRIUMF/RCNP Status of the Ultracold Neutron source at TRIUMF
16:15 A. Young NC State Univ. Spallation-driven UCN source
16:40 M. Harada JAEA Very preliminary neutronic study for the 2nd spallation neutron source at J-PARC
17:05 M. Hartl ESS Catalytic ortho-/parahydrogen conversion for liquid hydrogen moderators
17:30 T. Otomo KEK Closing remark