2017B 期のS1 課題実験へのビームタイム配分や、今年度のS1 課題公募の要領および審査について審議した。
2017B 期の一般課題が、全中性子BL の合計では286 件の申請があった。海外からの委員を含むNeutron Science Proposal Review Committee(9/1)や、MLF 施設利用委員会(9/6)などを通じて審査が行われた。
プレス発表
8/29付で九大高原Gr.との共同研究に関するプレス発表を行った。
http://j-parc.jp/ja/topics/2017/Press170829.html
生体適合性高分子材料の水和状態と分子構造因子の相関を解明
?医療用高分子材料の革新的性能向上への応用に期待?
九州大学 先導物質化学研究所/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所I2CN(ER)の高原 淳教授と檜垣 勇次 助教らの研究グループは、高輝度光科学研究センター(JASRI)の池本 夕佳 博士、森脇 太郎 博士、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の山田 悟史 助教らとの共同研究で、次世代高性能医療用材料として期待される双性イオン高分子の水溶液中でのナノ構造を解明しました。
プラスの電荷とマイナスの電荷の両方を持つ双性イオン高分子は、生体分子の構造を模倣していることから高い生体適合性を有することが知られていますが、実は生体適合性が発現されるメカニズムは未解明でした。本研究グループは、SPring-8の高輝度放射光を利用した赤外分光測定と、J-PARC MLFにおける中性子反射率測定による最先端の量子ビーム解析技術を用いました。その結果、高分子中のプラス電荷とマイナス電荷の距離に応じて共存イオンに対する応答性が変化し、異なる膨潤挙動を示すことが明ら かになりました。
この知見を用いることで、生体内の環境に合わせて適度な膨潤構造を持つような材料設計が可能になると期待できます。本研究成果は、抗血栓性カテーテルなどの高性能医療用高分子材料の開発によるライフサイエンス分野の発展に役立つだけでなく、水和双性イオン高分子の潤滑特性を利用した摩擦低減によるエネルギー効率の向上にも結びつくものであると期待されます。
本研究成果は、2017年8月17日に米国化学会(ACS)の国際学術誌「Langmuir」に、ACS Editor's Choice論文として掲載されました。本研究は、文部科学省 光・量子融合連携研究開発プログラムによる助成を受け、JASRI及びKEKとの共同研究として実施されました。
図1. 共存電解質との相互作用により変化する双性イオン高分子薄膜の水溶液界面における水和状態と分子構造因子の関係
中性子反射率用集光ミラーの開発(理研 山形Gr.、京大 日野正裕氏との共同研究)
中性子反射率法において、通常用いられる試料サイズは数cm角程度であるが、特に最先端の試料においてはより小さな試料サイズでの測定が好ましい。一方、ダブルスリットを用いた光学系においては、ビーム強度はビーム進行方向に対する照射面積の自乗に比例するため、サイズが小さくなるに従って測定時間が劇的に伸びるという問題がある。そこで、我々はJ-PARCの中性子反射率計SOFIAに設置可能な大面積一次元楕円集光ミラー(長さ550 mm、幅60 mm)を京大、および理研と連携して開発している(図5)。1次元楕円集光ミラーを用いた光学系ではビームの発散角が固定となるためビーム強度はビーム進行方向に対する照射面積に比例する。つまり、試料サイズが小さくなっても 発散角を増やす事により、ビーム強度の低下を補償することができることが大きな利得となる。また、ミラーの母材として加工しやすいアルミ基板を採用することにより、将来的には回転楕円形状をした2次元集光ミラーの開発も可能になると期待している。
昨年度発表した論文[1]では1次元集光ミラーのプロトタイプを作製し、半値全幅で0.34 mm集光を実現すると共に、中性子反射率測定において約3倍の強度ゲインが得られることを確認した。その後、集光ミラー改良のために製造工程の洗い出しを行った結果、自重によるたわみ、固定の際の応力によるたわみ、位置決め精度の不足に起因した形状誤差が集光スポットのサイズを大きくしている原因であることが明らかになった。
また、プロトタイプは研磨過程で付着した研磨剤の洗浄が不十分で、ミラーの縁の一部が剥離する、ミラーの反射率が60~80%にとどまるなどの問題が生じていた。そこで我々は、ケルビンクランプを用いたミラーの固定治具の採用、研磨・洗浄手法の改良といった対策を施した改良版を製作した。このミラーはレーザー干渉計による評価によると形状誤差および傾き誤差がそれぞれ0.18 μm (RMS)および16 μrad (RMS)で、ここから予想される集光スポットのサイズは半値全幅で0.16 mmである。また、プロトタイプで見られたミラーの剥離も確認できなかった。
このミラーをSOFIAで評価した結果を図6に示す。まず、成膜を施したスーパーミラーについて評価するために、集光ミラーの長手方向に対して垂直にビームを入射し、中性子反射率の測定を行った。測定は10 mm×10 mmのエリアに中性子が照射されるようビームを絞り、ミラーの位置を少しずつ移動させることによって場所による反射率のばらつきを評価した。その結果、最初のプロトタイプでは反射率が60~80%であったのに対し、第2プロトタイプでは70~90%と大きく改善したことが確認できた。この際、研磨時間が長い下流側のミラーの方において反射率が全体的に高い傾向にあることから、研磨時間を十分にとることで高い反射率が得られると考えられる。次に実際にミラーをビームラインに設置し、仮想光源を0.05 mmに絞って試料位置での集光像を評価した結果、最初のプロトタイプで半値全幅が0.34 mmであったのに対し、第2プロトタイプでは0.17 mmとこちらも大きく改善されたことを確認した。また、得られた集光像はきれいなピークを示しており、形状誤差に起因した像の歪みが大幅に改善されている。その一方、集光像はミラーの界面が荒れている際に現れる散漫散乱によると見られる裾を引いていることが明らかとなった。
今回の改良版ではプロトタイプと比較して劇的な性能向上を達成することに成功した。一方で、反射率のムラや散漫散乱による裾といった問題点も明らかになった。現在、これらの問題を解決するためのR&Dを進めており、反射率のムラが無く、試料位置で0.1 mmのビーム幅が達成可能な集光ミラーの開発を行っている。
この結果はOpt. Express 誌に掲載された[2]。
参考文献
[1] S. Takeda, Y. Yamagata, N. L. Yamada, M. Hino, T. Hosobata, J. Guo, S. Morita, T. Oda, and M. Furusaka, "Development of a large plano-elliptical neutron-focusing supermirror with metallic substrates", Opt. Express 24, 12478-12488 (2016)
[2] T. Hosobata, N. L. Yamada, M. Hino, Y. Yamagata, T. Kawai, H. Yoshinaga, K. Hori, M. Takeda, S. Takeda, and S. Morita, "Development of precision elliptic neutron-focusing supermirror", Opt. Express 25 (2017) 20012-20024.
図2. SOFIAにおける集光ミラーを用いた反射率測定の模式図
図3. SOFIAを用いた集光ミラーの評価結果
論文等
論文等
Yoshihiro Doi, Makoto Wakeshima, Keitaro Tezuka, Yue Jin Shan, Kenji Ohoyama, Sanghyun Lee, Shuki Torii, Takashi Kamiyama and Yukio Hinatsu,
"Crystal structures, magnetic properties, and DFT calculation of B-site defected 12L-perovskites Ba2La2MW2O12 (M = Mn, Co, Ni, Zn)",
J. Phys.: Condens. Matter 29, 365802 (2017).