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月例研究報告 12月

1. 共同利用状況など

【 中性子共同利用実験審査委員会 】

 12 月25 日に開催され、2018 年度のS1 課題の実施計画の審査、及び2018A 期のS1 課題実験へのビームタイム配分の審議が行われた。なお、S1 課題の審査は、中性子共同利用実験審査委員のなかから選任された主査による予備審査を研究会形式で実施している。

BL/課題番号課題名研究代表者研究会⽇時場所
BL-12 HRC
2018S01
高分解能チョッパー分光器による物質のダイナミクスの研究 伊藤晋一(KEK 物質構造科学研究所 教授)
益田 隆嗣(東京大学物性研究所 准教授)
10/16(月)-17(火)
(MLFチョッパーユーザーグループミーティング内にて)
IQBRC2F 多⽬的ホール
BL-05 NOP
2014S03
パルス冷中性子を用いた中性子基礎物理研究 三島 賢二(KEK 物質構造科学研究所 特別准教授) 10/20(⾦) 名古屋⼤学 ES総合館6F シンポジア
BL-08 Super HRPD
2014S05
SuperHRPDの開発と機能性物質の構造科学研究 神山 崇(KEK 物質構造科学研究所 教授) 11/29(⽔) 10:00-17:00 つくば・2号館会議室中
BL-21 NOVA
2014S06
全散乱法による水素化物の規則-不規則構造解析 大友 季哉(KEK 物質構造科学研究所 教授) 12/19(⽕) 9:30-15:30 東海1号館 116室
BL-06 VIN ROSEP
2014S07
中性子スピンエコー分光器群(VIN ROSE)の建設と高度化 日野 正裕(京都大学原子炉実験所 准教授) 11/6(⽉) 13:30- 東海1号館115室
BL-16 SOFIA
2014S08
中性子反射率法を用いたソフト界面の先進的ナノ構造評価法の開発と工業材料への応用 山田 悟史(KEK 物質構造科学研究所 助教) 9/10(⽇) PM TKP 東京駅前会議室カンファレンスルーム2
BL-23 POLANO
2014S09
偏極中性⼦散乱装置POLANOによる静的・動的スピン構造物性の研究 横尾 哲也(KEK 物質構造科学研究所 准教授) 10/16(月)-17(火)
(MLFチョッパーユーザーグループミーティング内にて)
IQBRC2F 多⽬的ホール

2. 研究グループの活動状況

(1) ソフトマターグループ

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

 論文等

 

 データリダクションソフトSOFIA converterのアップデート

 J-PARC MLFのBL16に設置された中性子反射率計SOFIAでは解析ソフトウェアIgorをベースとしたデータリダクションソフトを提供している。このソフトはGUIを備え、初心者でも変換可能な作りとなっている。
 今回、更なる信頼性と効率性の向上を目的として以下の機能強化を行った。

  • サンプルのミスアライメントやサンプル自身が歪んでいる際の補正を行うよう、データの変換アルゴリズムを強化した。
  • 絶対値への規格化を行うアルゴリズムを変更することで稀に生じていたエラーを解消すると共に、グラフ上のカーソルによるデータ点の選択等を実装することによりIgor特有の操作性を可能な限り排除し、よりユーザーフレンドリーなインターフェースを実現した。
  • ユーザーからの要望があった細かなインターフェース、操作性の改良を行った。
  • マニュアルを更新し、これまでの細かなバージョンアップによる機能強化についても明文化した。

 

図1. SOFIA converterによるデータ変換の流れ。

 

(2) 量子物性グループ

【 BL12 高分解能チョッパー分光器HRC 】

 不等辺ダイアモンド型量子スピン鎖物質K3Cu3AlO2(SO4)4で観測された朝永-Luttinger スピン液体的な振る舞い等

 S = 1/2スピンがダイヤモンド型の鎖を形成するダイヤモンド型量子スピン鎖は、一次元性とスピンフラストレーションの相乗効果により、多彩な量子状態が出現する系である。代表的物質Cu3(CO3)2(OH)2では、明瞭な1/3磁化プラトーが観測され、また反強磁性転移温度TN = 1.8K以上では、理論計算で予想されていたalternating dimer-monomer (ADM) スピン液体状態の形成を支持する実験結果が得られた事で注目を集めた[1]。しかし、鎖間相互作用が無視できないため、本磁性の起源について未解明な部分を残す。理想的な一次元性を有するダイヤモンド型量子スピン鎖モデル物質の発見が望まれていた。我々は、磁性イオンCu2+が不等辺ダイヤモンド鎖を形成するK3Cu3AlO2(SO4)4(鉱物名Alumoklyuchevskite)の人工合成に成功し、磁性研究を進めてきた[2]。Cu2+不等辺ダイヤモンド鎖の間には非磁性イオンK+, Al3+が存在する。最近接相互作用Ji (i :1 ~ 5)および次近接相互作用Jm, Jd, Jd’が存在することがわかり【図.1(a)】、理論研究からは、ADMスピン液体状態とはdimer, monomerの配置が異なるスピン液体基底状態を有すると予想された【図.1(b)】[3]。中性子非弾性散乱では、低エネルギー側ではmonomerが連なり形成された一次元鎖の励起(スピンノン励起)が、高エネルギー側ではdimerの励起スペクトルが観測されるはずである。図2(a)はJ-PARC MLF BL12(HRC)で測定されたK3Cu3AlO2(SO4)4の粉末中性子非弾性散乱スペクトルである。Brillouinゾーンセンターから立ち上がる連続体励起が確認できる。図2(b), (c)はそれぞれ、高エネルギー側の中性子非弾性散乱スペクトル、文献[3]で得られた交換相互作用値を用いて計算されたS(q,ω)を粉末平均化して得られたスペクトルである。40meV付近に磁気励起が観測されており、dimerの磁気励起であると理解できる。低エネルギー側も含め、計算結果と実験結果は非常に良い一致を見せている。同じくJ-PARC MLFに設置されているミュオン実験装置D1で測定されたμSRスペクトルからは、90mKの極低温まで長距離磁気秩序の形成は観測されず、加えて、量子スピン液体特有の緩和率磁場依存性を観測した。
 上記実験結果は、我々が予想したK3Cu3AlO2(SO4)4のスピン状態モデルの妥当性を強く支持している。つまり本物質の基底状態は、dimer部分は量子非磁性状態を形成しているため、monomerで形成された量子スピン鎖の基底状態、Tomonaga-Luttingerスピン液体状態である可能性が極めて高い。本研究成果は、Scientific Reportsに掲載された[4]。

 [1] H. Kikuchi et al., Phys. Rev. Lett. 94, 227201 (2005).
 [2] M. Fujihala et al., J. Phys. Soc. Jpn. 84, 073702 (2015).
 [3] K. Morita et al. Phys. Rev. B 95, 184412 (2017).
 [4] M. Fujihala et al., Scientific reports 7, 16785 (2017), doi:10.1038/s41598-017-16935-9.

図2. K3Cu3AlO2(SO4)4の (a) 有効スピンモデル、(b) 期待される基底状態の模

 

図3. (a) T = 4Kでの中性子非弾性散乱(INS)スペクトルの磁気散乱成分(Ei=45.95meV)。100Kで測定したデータを使用しフォノンの寄与を差し引いた。(b) T = 4K、Ei = 205.8meVのINSスペクトル。(c) DMRG法を用い計算されたK3Cu3AlO2(SO4)4粉末試料のINSスペクトル。

 

 学会発表

 日本中性子科学会第17回年会発表 2017年12月2-3日

  • 高分解能チョッパー分光器HRCの建設と中性子ブリルアン散乱法の実装(技術賞受賞記念講演)、
    伊藤晋一、横尾哲也、益田隆嗣、吉澤英樹、遠藤康夫、川名大地、杉浦良介、浅見俊夫、左右田稔、井深壮史、羽合孝文
  • 基底一重項磁性体CsFeCl3の圧力誘起量子相転移(ポスター賞受賞)、
    林田翔平、萩原雅人、栗田伸之、田中秀数、松本正茂、上床美也、伊藤晋一、左右田稔、Tao Hong、Oksana Zaharko、益田隆嗣
  • HRCの2017年の進展、
    伊藤晋一、横尾哲也、益田隆嗣、吉沢英樹、羽合孝文、吉田雅洋、浅井晋一郎、川名大地、杉浦良介、浅見俊夫、井畑良明
  • 金属反強磁性体FexMn1-x(x=0.7,0.5)の磁気励起、
    伊藤晋一、羽合孝文、井深壮史、横尾哲也、遠藤康夫
  • 1次元ハルデン鎖を持つNd2BaNiO5単結晶の非弾性散乱、
    羽合孝文、横尾哲也、伊藤晋一、吉沢英樹/li>
  • スピン3/2反強磁性交替鎖物質RCrGeO5の磁気励起、
    長谷正司、浅井晋一郎、左右田稔、益田隆嗣、川名大地、横尾哲也、伊藤晋一、河野昌仙
  • Pr1.4-xLa0.6CexCuO4+&#948の磁気励起に対する電子ドーピング効果、
    浅野駿、鈴木謙介、堤健之、佐々木隆了、佐藤研太朗、池田陽一、梶本亮一、池内和彦、伊藤晋一、横尾哲也、羽合孝文、藤田全基
  • V-Ti-Cr 合金水素化物の中性子全散乱、非弾性散乱測定による構造解析、
    池田一貴、大友季哉、大下英敏、伊藤晋一、横尾哲也、羽合孝文、Kim Hyunjeong、榊浩司、中村優美子、町田晃彦

 受賞

  • 日本中性子科学会第15回技術賞、高分解能チョッパー分光器HRCの建設と中性子ブリルアン散乱法の実装、
    伊藤晋一、横尾哲也、益田隆嗣、吉澤英樹、遠藤康夫、川名大地、杉浦良介、浅見俊夫、左右田稔、井深壮史、羽合孝文

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21 高強度全散乱装置NOVA 】

 論文発表

  • T. Ohkubo,
    "Insights from ab initio molecular dynamics simulations for a multicomponent oxide glass",
    Geochim. Cosmochim. Acta (2017) 1-13.
  • K. Itoh, J. Saida, T. Otomo,
    "Inhomogeneity of local packing density and atomic bonding of Ni67Zr33 amorphous alloy",
    J. Alloys. Comp. 732 (2018) 585-592.
  • K. Kodama, K. Ikeda, S.-I. Shamoto, T. Otomo,
    "Alternative Equation on Magnetic Pair Distribution Function for Quantitative Analysis",
    J. Phys. Soc. Jpn. 86 (2017) 124708.
  • S. Maeda, Y. Kameda, Y. Amo, T. Usuki, K. Ikeda, T. Otomo, M. Yanagisawa, S. Seki, N. Arai, H. Watanabe, Y. Umebayashi,
    "Local Structure of Li+ in Concentrated Ethylene Carbonate Solutions Studied by Low-Frequency Raman Scattering and Neutron Diffraction with 6Li/7Li Isotopic Substitution Methods",
    J. Phys. Chem. B 121 (2017) 10979-10987.
  • H. Nishihara, H. Fujimoto, H. Itoi, K. Nomura, H. Tanaka, M.T. Miyahara, P.A. Bonnaud, R. Miura, A. Suzuki, N. Miyamoto, N. Hatakeyama, A. Miyamoto, K. Ikeda, T. Otomo, T. Kyotania,
    "Graphene-based ordered framework with a diverse range of carbon polygons formed in zeolite nanochannels",
    Carbon, accepted.

 

(4) 構造科学グループ

【 BL08超高分解能粉末中性子回折装置 SuperHRPD 】

【 講習会開催報告 】

 中級者向け Z-Code 講習会

 平成 29 年度中級者向け Z-Code 講習会を 11月2日にLMJ 東京研修センターにおいて開催した。本講習会は、粉末構造解析の経験者を対象にZ-Codeを用いて少し高度な構造解析を一人で行えることを目指す。X線と中性子データの同時解析やMEM解析、簡単なプロファイル解析、磁気構造解析についても解説した。中級者向け講習会は年1回開催している。

【 ソフトウェア配布 】

 リートベルト解析ソフトウェアZ-Rietveld、指数付けソフトウェアConographを配布しています。

 (配布内容)

  • Z-Rietveld for Mac 1.0.5 (動作環境:Mac OS 10.9 or later 有効期限 2019/12/31)
  • Z-Rietveld for Mac 0.9.44.4 (動作環境:Mac OS 10.7 - 10.8 有効期限 2020/03/31)
  • Z-Rietveld for Win 1.0.2 (動作環境:Windows 7, 8.1 and 10 有効期限 2018/10/31)
  • Sample_data (Ver. 2017/11/10)
  • Conograph_Mac (Ver. 0.9)
  • ・ Conograph_Win_JPN (Ver. 0.9)
  • ・ Conograph_Win_ENG (Ver. 0.9)