7月3日にMLFにおいて、1MW相当(時間平均で約935 kW)となるビーム出力の連続運転に成功した。これまでのビームにより水銀標的容器が受けた影響を評価し、標的容器の改良を行う予定である。今後、さらに運転経験を蓄積しつつ、1MWの利用運転を目指す。
MLF全体として334件の申請があり、このうち中性子利用課題は285件で、前期(2018A)と比較して25件増加した。
◆ 論文等
◆ 論文等
◆ 装置整備・開発等
POLANOは実験研究開始に向け、中性子ビームを受けたコミッショニングを継続している。バックグラウンド対策の一つとして、コリメータの導入を行った(図1)。コリメータは、Fermiチョッパーの下流の遮蔽体出口、つまり偏極子の直上流に設置される。POLANOのビームライン部には100 mm角の孔が設けてあるが、外部コリメータで60 mm角に絞り、これは遮蔽体孔に固定される。その内側に内部コリメータを設置する構造である。内部コリメータは開口サイズを20~50 mm角まで選択でき、差し替えることで測定試料サイズに最適化できる設計である。また、内部コリメータの内張に1 mm厚のCdライナーを設けることによって、壁面からの反射を抑制する。図2にコリメータ設置前(上図)と設置後(下図)の散乱強度を示す。低角部分と高角部分のノイズの抑制が実現した。
◆ 論文等
◆ 論文等
◆ 研究成果
希薄溶液中におけるLi+の水和構造の解析
同位体置換試料を用いる中性子回折実験は、イオンの溶媒和構造を解明する上で非常に有効な実験手段である。しかし、同位体分率が異なる試料について観測された散乱強度の差分が全体の散乱強度に占める割合は小さい。そこで、従来報告されている実験では溶質イオンを多量に含む濃厚な溶液が研究対象とされてきた。本研究では、NOVA分光器の優れた統計精度を利用して、従来報告されていない希薄な水溶液中におけるLi+の水和構造を明らかにする事を目的とした。試料として6Li/7Li同位体分率が異なる2種類の1mol%*LiClおよび*LiClO4重水溶液を用いた。観測された6Li/7Li同位体の散乱強度の差に由来するΔLi(Q)に対して最小二乗法解析を行い、最近接Li+…OおよびLi+…D距離および水和数を求めた。1mol% LiClおよびLiClO4溶液中におけるLi+の水和数は5.9 ± 0.1および6.1 ± 0.1である事が明らかになった。Li+の水和数は溶液濃度により変化し、希薄な溶液では6である事が初めて示された。本研究成果は J. Phys. Chem. B 誌に受理された[1]。
図3. Distribution function, GLi(r), around Li+ observed for 1.0 mol % LiCl-D2O and 1.1 mol % LiClO4-D2O solutions (black dots). Short-range Li+···O(D2O) and Li+···D(D2O) interactions in the first hydration shell are indicated by red and blue lines, respectively. Contribution from the second hydration shell is denoted by green lines. The long-range random distribution of atoms is indicated by purple lines[1].
Reference
[1] Y. Kameda, S. Maeda, Y. Amo, T. Usuki, K. Ikeda, T. Otomo, J. Phys. Chem. B 122, 1695-1701 (2018).