2018B期(平成30年11月~平成31年3月)のMLF中性子一般課題の審査は、レフェリーによる事前審査、技術審査、専門分野別分科会での協議を経たのち、CROSSと合同で8月23日に開かれた中性子課題審査部会・利用研究課題審査委員会合同会議において審議された。その結果は9月3日に開かれたMLF施設利用委員会・選定委員会合同会議において承認された。さらに大学共同利用課題については、物構研中性子共同利用実験審査委員会での審査を経て9月13日に開催された物構研運営会議にて採択が決定された。申請課題302件(大学共同利用課題61件)の内、198件の一般課題(同、52件)、8件の新利用者支援課題、5件の一般課題(長期)(同、2件)が採択された。
2019A期(平成31年4月~11月の予定)の中性子とミュオンの一般課題は、10月17日から受付を開始し11月7日〆切で公募する。また2019B期から3年間実施する一般課題(長期)の公募要領を12月初旬に公開し、事前申請を1月初旬ごろ開始する。
8月1日付で、クロスアポイントメントによる特別准教授として、JAEA青木裕之氏が着任した。BL16を用いた研究と利用者支援、また、BL16と同じく反射率計を設置したJAEA共用ビームラインBL17との連携を強め、MLFにおける反射率計を用いた高分子科学研究分野での成果創出を行う。また、准教授として、総研大における教育にも参画する。
高エネルギー加速器研究機構の研究系技術職員の仕事を体験し、理解していただくため研究系技術職員インターンシップが、2018年9月5日(水) 【1日コース】、および2018年9月10日(月)~9月14日(金) 【5日コース】に開催された。中性子科学研究系では、5日コースのなかの2日間実習として、C++やPythonで解析プログラムを作成、および同プログラムを用いた実際の実験データを使用したオンライン解析を体験するインターンシップを実施した。受講者は2名。本インターンシップは今後も継続的に行う予定である。
◆ 装置整備・開発等
POLANOでは偏極散乱実験で使用するヘルムホルツコイル(HC)の調整を行っている。HCは試料に対して任意の方向の磁場を印加するPOLANOで利用する一連の磁場環境機器の一つとして開発を進めてきた。ヘルムホルツコイルは真空槽内に設置されるため、通電時の発熱が大きな問題となる。これを解決するために我々はHCの冷却システムを構築した。HCは大型真空槽内にフランジで固定して使用するが、そのフランジ自身を冷却することでHC本体をその熱伝導で冷却する方式を選択した。この時に重要なことは、1)冷却部からコイル本体までの十分な熱伝導を確保すること、2)HC全体としての重量が大きいので、なるべく軽量化を図りたい、3)その際に、加重や加振力に対して十分な強度を有する構造とすること、などが挙げられる。その評価・検討を行うために、熱流計算および応力計算をおこない評価した。図1にその際の熱計算および応力計算のモデルとその計算結果を示す。最終的にこのモデル形状で仕様を満たすことが確認され、この指針に沿って実機の製作を行った。
図1. (左)フランジの冷却性能を評価した熱計算結果。(右)フランジとHCへの応力計算結果。
◆ その他成果
◆ 研究成果
鉄系超伝導体母物質CaFeAsHにおける構造・磁気相転移
現在、鉄系超伝導体では、超伝導メカニズムの解明とともに、母物質の構造・磁気相転移の関係に注目が集まっている。[1] 鉄系超伝導体の典型的な母物質は122と1111系であり、低温で構造・磁気相転移を引き起こす。両者の構造・磁気相転移の性質は異なっており、122系では、一次の構造・磁気相転移が同時に起こる。一方で1111系では、構造・磁気相転移温度は異なっており(Ts > TN)、二次の相転移を示す。理論的には、鉄系超伝導体母物質の構造・磁気相転移の次数と温度差は、Csが小さい、または系の次元性が高いほど、一次かつ小さくなることが提唱されている。[2] 我々はこれまでに、1111系の新物質であるCaFeAsHを見出し、ブロック層にヒドリドイオン(H−)を含有することに由来する二つの特異な特徴を有することを示した。(1) 体積弾性率が1111系の中で最も小さく、122系に匹敵する。(2) 1111系の中で最も短いc軸長を有し、三次元的なフェルミ面を有する。[3] このような特徴を持つCaFeAsHは、1111系の結晶構造を持ちながらも、122系に近い構造・磁気相転移の性質を持つと予測される。そこで我々は、CaFeAsHの構造・磁気相転移を調べるため、比熱、X線回折、中性子回折および電気抵抗率の測定を行った。比熱測定では、一本のブロードなピークが観測された。磁気・構造相転移は近接しており、二次相転移であることを示唆している。低温X線回折により、正方晶から斜方晶への構造相転移が95(2) Kで起こることが分かった。次に、J-PARC物質・生命科学実験施設内中性子BL21に設置されているNOVAで測定された(a) 150K 及び(b) 10KでのCaFeAsDの中性子回折の結果を図2に示す。矢印で示したピークが低温で新たに出現したピークで、磁気散乱によるピークだと示唆される。決定された磁気構造を図2(d)に示す。面内はa軸方向に反強的、b軸方向には強的、面間は反強的なストライプ型の反強磁性であることが分かった。鉄原子上の磁気モーメントは、0.71μBの値が得られた。最後に、磁気相転移温度を電気抵抗率の微分から見積もり、TN = 96 Kを得た。得られたTsとTNの温度差は1 Kで、1111系の中で最も小さい。TsとTNの温度差は層間長で上手く整理できる。(図3) 1111中で最も小さいTs−TNは、CaFeAsHが1111の中で最も短いc軸長を有するため、層間の磁気交換相互作用が大きいことに起因すると考えらえる。以上のように、CaFeAsHの構造・磁気相転移は、1111系と122系の中間的な性質を持つことが分かった。本研究成果は、Royal society of chemistryが発行するDalton Transactions誌に受理された。[4]
参考文献
[1] R.M. Fernandes et al., Nat. Phys. 2014, 10, 97.
[2] R.M.Fernandes et al., Phys. Rev. B, 2012, 85, 024534.
[3] Y. Muraba et al., Phys. Rev. B, 2014, 89, 094501.
[4] Y. Muraba, S. Iimura, S. Matsuishi, H. Hiramatsu, T. Honda, K. Ikeda, T. otomo, and H. Hosono Dalton Trans., 2018, 47, 12964
図2. NOVAで測定されたCaFeAsDの(a)150K及び(b)10Kでの中性子回折プロファイルCaFeAsHの(c)結晶構造と(d)決定された磁気構造。
図3. 様々な鉄系超伝導体の母物質のTs−TNと層間長の関係。
◆ 論文等
◆ 論文等
◆ 学位論文
◆ 受賞
◆ その他成果
・講習会開催
講習会名:中級者向け Z-Code 講習会
目的:粉末中性子回折、X線回折データのリートベルト解析を実習しながら学ぶ。
開催日時:平成30年11月16日(金) 9:15~17:00
場所:エッサム神田ホール1号館601会議室
講義概要:
文献等の構造情報に基づき,構造パラメータを理解しながら少し高度な構造解析を行えるようになることを目指します。内容としては、
1)X線回折と中性子回折データのリートベルト解析を行う
2)Z-Rietveld用のファイル(実験室X線、放射光など)の作り方を学ぶ
3)MEM解析を行う
4)磁気構造を解析する
5)解析が上手くいかない場合の対処法を学ぶ
6)有効歪みや結晶子サイズを計算する
・ソフトウェア配布
リートベルト解析ソフトウェアZ-Rietveld、指数付けソフトウェアConographを配布しています。
下記のアドレスからダウンロードできます。
https://z-code.kek.jp/zrg/
(配布内容)
すべての問い合わせ等はZ-Code <pjzcode@gmail.com> にお願いします。
◆ 論文等