KENS 中性子科学研究系

KEK

月例研究報告 11月

1. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【 BL12高分解能チョッパー分光器HRC 】

◆ 論文等

  • 林田翔平、益田隆嗣,
    "量子磁性体CsFeCl3における圧力誘起量子相転移の中性子散乱研究",
    波紋 28, 200-203 (2018).

【 BL23偏極中性子散乱装置POLANO 】

◆ 装置整備

 PPOLANOでは偏極散乱実験で利用する磁場環境機器の一つとしてヘルムホルツコイル(HC)の開発と調整を進めている。HCはなるべくコイルによるダークアングルを減らす必要があるため、非対称なコイル構造を開発した。横磁場発生用に3つのコイルを利用し、3種類の磁場のベクトル和により面内で自在に磁場を制御する。加えて、縦磁場用のペアコイルの計4系統のコイル(電源)を利用する。これらHCシステムは真空槽内に設置されるため、励磁時における発熱が大きな問題となる。我々は解決のため冷却システムを設計・製作し、その動作試験をおこなった。
 試験用真空チャンバー内に冷却システム(新しく製造した冷却用フランジ+HC)を設置し、実際のビームラインでの使用時と同じ真空中での条件を再現する。その後、コイルに通電しながら冷却性能の評価を行った。図1は冷却性能試験の結果で、通電時のコイル温度(一番高温になると考えられる箇所)の時間変化を示している。図1左図は横磁場コイル3つにそれぞれ10Aで通電した結果、図1右図が縦磁場コイルに8Aで通電した結果である。この電流はそれぞれ実験時に印加する最大磁場発生時の電流となる。試験の結果からどちらの条件においてもコイル温度は構成部材の耐熱温度以下となり、冷却システムが有効に機能しており、実験時の安全性に問題無いことを確認した。現在はテストベンチでの磁場校正作業とMLF施設に設置するための安全審査を進めている。

図1. コイル温度の時間変化を示した図。 (左) 3つの横磁場コイルにそれぞれ10Aの電流を通電。(右)上下に配置された縦磁場コイルに8Aの電流を通電。

(2) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

◆ 研究成果

 スピネル型チタン酸化物におけるアイス型のナノスケール格子揺らぎの発見

 氷ではH2OのHはOと共有結合をしているが、一方で、別のH2OのOとも水素結合をしている(図2)。その結果、H2Oの配向はアイスルールと呼ばれる規則に従う。この配向仕方について無数のパターンが存在するため、低温でもエントロピーが残る事がL.Paulingによって指摘された。このように格子構造的にアイスルールを満たす状態を、大阪大学花咲研究室では遷移金属酸化物でも作れないか探索してきた。
 スピネル型チタン酸化物MgTi2O4ではTiがパイロクロア格子を形成しているが、Tiは3価でS = 1/2の量子スピン系である。低温でTiがスピン一重項対を形成し2量体化するが、このTi2量体がc軸方向にヘリカル状に並ぶ事で、立方晶相から正方晶相へ構造相転移を起こす[1,2]。このTi2量体化では、2つのTiが近付き、別の2つのTiが遠ざかるので、このTi変位は上記のアイスルールを満たしている(図2)。しかし、構造相転移によって2量体が整列してしまうので、アイス状態ではない。そこで、Tiの一部をMgに置換して、この長距離秩序を抑制できないかと花咲グループは考えた。実際、Tiサイトを1%~3%程度置換するだけで、正方晶相は抑制され立方晶相に戻った(図4(a))。さらに、立方晶相内に、正方晶的な格子揺らぎが残されているかを調べるため、BL21(NOVA)で中性子回折を測定してPDF解析を行った(図3)。その結果、立方晶相内においても、正方晶的な格子揺らぎ(Ti変位)がナノメータースケールで残っている事を突き止めた。また、12.5%置換した領域(x=0.25)では、Ti変位構造の相関長が10Å程度になっており、格子変位型のアイス状態とも呼べる状態になっている事が分かった(図4(b))。本結果は、Phys.Rev.B誌に10月24日付で掲載された[3]。

参考文献
[1] M. Isobe and Y. Ueda, J.Phys.Soc.Jpn. 71, 1848 (2002).
[2] M. Schmidt, W. Ratcliff, P.G. Radaelli, K. Refson, N.M. Harrison, and S.-W. Cheong, Phys.Rev.Lett. 92, 056402 (2004).
[3] S. Torigoe, T. Hattori, K. Kodama, T. Honda, H. Sagayama, K. Ikeda, T. Otomo, H. Nitani, H. Abe, H. Murakawa, H. Sakai, and N. Hanasaki, "Nanoscale ice-type structural fluctuation in spinel titanates", Phys.Rev.B 98, 134443-1-7 (2018).

図2. H2OのアイスルールとMgTi2O4系のTi変位

図3. Mg1+xTi2-xO4の中性子PDF解析

図4. (a)Mg1+xTi2-xO4のMg置換に対する相図 (b)正方晶的なTi変位構造の相関長

◆ 論文等

◆ その他刊行誌

  • 大友季哉、池田一貴,
    “中性子全散乱法の炭素材料構造解析への適用”, 炭素 285, 217-221 (2018).



(3) 中性子光学研究グループ

【 BL05中性子光学基礎物理測定装置NOP 】

◆ 論文等

  • N. Naganawa, T. Ariga, S. Awano, M. Hino, K. Hirota, H. Kawahara, M. Kitaguchi, K. Mishima, H. M. Shimizu, S. Tada, S. Tasaki, A. Umemoto,
    "A Cold/Ultracold Neutron Detector using Fine-grained Nuclear Emulsion with Spatial Resolution less than 100 nm",
    European Physical Journal C 78, 959 (2018).