KENS

月例研究報告 4月

1. 共同利用等

【 量子ビームサイエンスフェスタならびにMLFシンポジウム開催報告 】

 2019年3月12日の2018年度量子ビームサイエンスフェスタ(QBSF)に続いて、翌13日に第10回MLFシンポジウムが、つくば国際会議場で開催され盛況のうちに閉幕した。
 本年度はKEK物構研、J-PARCセンター、CROSS、PFUAおよびMLF利用者懇談会の主催で執り行われ、茨城県、つくば市および東海村の後援と多くの学会の協賛のもと開催された。量子ビーム利用の促進と発展を目的として開催されるQBSFには、日本全国から580人ほどの参加があり、活発な議論が行われた。基調講演、ポスターセッションならびに各テーマ別に講演されるパラレルセッションが行われ、続いて懇親会と学生奨励賞の授賞式などが行われた。
 翌日のMLFシンポジウムは161人の参加があり、こちらも盛況であった。基調講演は山梨大学犬飼教授による「量子ビームを用いた固体高分子形燃料電池の解析 −ナノ材料から実セルまで−」というテーマで、燃料電池の原理にはじまり、触媒層やプロトン伝導膜の設計と評価についての包括的なご講演を頂いた。またご講演の最後には、実際の燃料電池を発電させながらのラジオグラフィー測定(いわゆるオペランド測定)をおこなう必要性に言及され、今後の量子ビーム利用に対する期待も示して頂いた。基調講演に続き、サイエンスセッションとして計8講演を頂き、中性子及びミュオン、あるいは複合的な量子ビーム利用によって得られた各分野での特筆すべき研究成果の発表があった。また施設報告としてMLFの現状、中性子・ミュオンターゲットの現状と将来展望などの報告を頂き、MLF利用者と施設との間での情報の共有を図った。その他、利用者懇談会の総会やユーザーからの要望セッションをおこない、研究成果の公表のみならず、施設の現状や施設運営に関すること、あるいはコミュニティーの発展に向けた意見交換と共通認識の醸成に寄与したと信ずる。

MLFシンポジウム実行委員 一同

図1. MLFシンポジウムにおける議論の様子。



2. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【 BL12高分解能チョッパー分光器HRC 】

◆ 論文等

  •  Ryoichi Kajimoto, TetsuyaYokoo, Mitsutaka Nakamura, Yukinobu Kawakita, Masato Matsuura, Hitoshi Endo, Hideki Seto, Shinichi Itoh, Kenji Nakajima, Seiko Ohira-Kawamura,
    "Status of neutron spectrometers at J-PARC",
    Physica B 562, 148-154 (2019)

◆ 学位論文

  •  植田大地 博士,
    "空間反転対称性の破れた重い電子系CeTSi3 (T = Rh, Ir, Pd, Pt)の磁気構造と結晶場準位の研究", 東京大学 (2019/03)
  • 菊地帆高 修士,
    "ブリージングパイロクロア格子反強磁性体Ba3Yb2Zn5O11における超高分解能中性子散乱研究", 東京大学 (2019/03)
  •  飯田晋介 修士,
    "超酸化物NaO2の中性子散乱研究", 東京大学 (2019/03)



【 BL23偏極中性子散乱装置POLANO 】

◆ 論文等

  •  Ryoichi Kajimoto, TetsuyaYokoo, Mitsutaka Nakamura, Yukinobu Kawakita, Masato Matsuura, Hitoshi Endo, Hideki Seto, Shinichi Itoh, Kenji Nakajima, Seiko Ohira-Kawamura,
    "Status of neutron spectrometers at J-PARC"",
    Physica B 562, 148-154 (2019)



(2) ソフトマターグループ

【 BL06中性子共鳴スピンエコー装置群VIN-ROSE 】

◆ 論文等

  •  Ryoichi Kajimoto, TetsuyaYokoo, Mitsutaka Nakamura, Yukinobu Kawakita, Masato Matsuura, Hitoshi Endo, Hideki Seto, Shinichi Itoh, Kenji Nakajima, Seiko Ohira-Kawamura,
    "Status of neutron spectrometers at J-PARC",
    Physica B 562, 148-154 (2019).



【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

◆ 論文等

  •  N. Nishi, J. Uchiyashiki, Y. Ikeda, S. Katakura, T. Oda, M. Hino, and N. L. Yamada,
    "Potential-Dependent Structure of the Ionic Layer at the Electrode Interface of an Ionic Liquid Probed Using Neutron Reflectometry",
    J. Phys. Chem. C 123, 9223-9230 (2019).
  • K. Akutsu-Suyama, Y. Hasegawa, T. Niizeki, S. Suzuki, H. Aoki, and F. Nemoto,
    "Neutron Reflectometry Study of Penetration of Protective Coating Material by Deuterated Sodium Pyruvate",
    JPS Conf. Proc. 25, 11018 (2019).

◆ その他成果等

  •  中島健次, ステファヌス ハルヨ, 山田悟史, 及川健一, 梶本亮一,
    "MLF将来計画技術検討会・中性子実験装置発表資料集",
    JAEA-Review 2018-032 / J-PARC 18-03 (2019).



(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

◆ 論文等

  •  Tong Wu, Asako Ishikawa, Takashi Honda, Hiromu Tamatsukuri, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo, Satoru Matsuishi,
    "Nephelauxetic effect of the hydride ligand in Sr2LiSiO4H as a host material for rare-earth-activated phosphors",
    RSC Adv. 9, 5282-5287 (2019).
  •  Hiroshi Mizoguchi, Sang-Won Park, Kazuhisa Kishida, Masaaki Kitano, Junghwan Kim, Masato Sasase, Takashi Honda, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo, and Hideo Hosono,
    "Zeolitic Intermetallics: LnNiSi (Ln = La–Nd)",
    J. Am. Chem. Soc. 141, 3376-3379 (2019).
  •  Yasuo Kameda, Yuko Amo, Takeshi Usuki, Yasuhiro Umebayashi, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo,
    "Origin of the Difference in Ion-Water Distances Determined by X-ray and Neutron Diffraction Measurements for Aqueous NaCl and KCl Solutions",
    Bulletin of the Chemical Society of Japan 92, 754-767 (2019).

◆ 学位論文

  •  堀江映仁 修士,
    "反強磁性体と非磁性体の混晶物質Ba3Co1-xCaxRu2O9のスピン状態と磁気構造", 明治大学 (2019/03/26)
  •  沼倉凌介 博士,
    "希土類R-Mg-Si系三元化合物の開発とその磁性と伝導の研究", 埼玉大学 (2019/03/20)
  •  十島彩樺 修士,
    "正スピネル型クロム酸化物における元素欠損と物性との相関関係", 広島大学 (2019/03/23)
  •  谷上真惟 修士,
    "量子ビーム技術を活用したAl-Fe, Al-Mn系水素化物の高温高圧合成研究", 兵庫県立大学 (2019/03)

◆ その他

 3月11日に開催された液体非晶質研究会(主催:中性子産業利用推進協議会、茨城県中性子利用促進研究会、共催:J-PARC MLF利用者懇談会)において、BL21 NOVAの全散乱データ処理実習を行った。同研究会には、企業からの参加者12名を含む51名が参加した。NOVAで開発したデータ処理ソフトは、BL20 iMateriaでも使われ始めている。今後も、こような機会を通じて、全散乱実験ユーザーの拡大を進めていく予定である。