KENS 中性子科学研究系

KEK

月例研究報告 5-7月

1. 共同利用等

【 人事 】

 4月1日付で、クロスアポイントメントによる特別准教授として、佐野亜沙美氏(JAEA)が着任した。また、2月16日付けでNEDO RISING2 特任准教授として齊藤高志氏(元京大・化研)、5月1日付でKEK博士研究員としてCHO Kwanghee氏(Chun-Ang Univ.)、6月16日付で科研費(代表KEK三島)研究員として市川豪氏(元名古屋大)が着任した。

【 総研大KEK つくば/J-PARC サマースチューデントプログラム 】

 学部から修士学生を対象として、KEKの研究グループにおいて最大8週間滞在するインターンシッププログラムが2019年度も実施されている。多数の応募があり、18名が選考された。中性子では、Indian Institute of Technology(インド)とInstitut Teknologi Bandung(インドネシア)の学生2名を受け入れ、データ解析の実習等を行なっている。とくに理由がある場合を除き、滞在期間は6月から9月として、見学会やKEKの研究のレクチャーなど学生が集合する機会を設けて学生同士の交流にも配慮したプログラムになっている。



2. 研究グループの活動状況

(1) ソフトマターグループ

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

◆ 装置整備・開発等

 SOFIAの整備状況(集光ミラーの実用化、他)

  •   集光ミラーの実用化
     過去5年以上にわたって理研・京大との共同研究として行ってきた集光ミラーをついに実用化させることに成功した。図1に従来の二重スリットを用いた光学系と今回設置した集光ミラーによる光学系における、試料位置でのビームプロファイルの違いを示す。二重スリットがピークの低い三角形型の強度分布を示すのに対し、集光ミラーによる光学系はピークの高い台形型の強度分布を示しており、特に試料への照射面積が狭い領域において、集光ミラーによる強度ゲイン(プロファイルの面積比に対応)が大きくなることが示している。
    この研究成果に関しては現在論文を2報執筆中であり、詳細については追って報告する。

  •  ミラー調整の自動化
     上記の集光ミラーの実用化に伴い、トラブル時にミラーの再調整が必要になった際に備え、測定プログラム上でミラーの調整を自動化するプログラムを実装した。

  •  スリット幅の再調整
     スリットの位置再現性を補償する原点スイッチ故障により、スリット幅を絞りすぎていたため、ソフト的にこの補正を行い、スリット幅を適切に設定できるようプログラムの変更を行った。

  •  Igor最新版への対応
     SOFIAではWavemetrics社のデータ解析ソフトIgorを用いて、生データから反射率への変換作業を行っている。これまでは32 bit版しかないIgorのver. 6にしか対応してこなかったが、今回64 bit版があるIgor ver. 7および8に対応した。これにより、2 GB以上の大きなファイルも読み込み、変換が行えるようになる。

  •  液液界面測定セル
    SOFIAでは、中性子ビーム自体を下方に取り出し、試料界面を自由に傾けることができない気体/液体界面のような自由界面の測定が行えるよう設計されている。今回、BL17の阿久津氏と共同で液体/液体界面が測定できるセルを開発し、SOFIAで実際に使用可能であることを確認した。今後は、広くユーザーにも提供する予定である。

 

 また、4月末および6月中旬にそれぞれチョッパーと試料ステージの故障が発生した。特に前者は3日間ユーザーへのビームタイムがキャンセルとなる事態となり、1件の一般課題が2019A期での実施ができない見込みとなった。この課題については、2019B期にビームタイムを補填する予定である。これらの故障の原因は特定できており、夏期停止期間において対策を検討している。

図1. 二重スリット光学系、および集光ミラーによる集光光学系における、試料位置でのビームプロファイル。



 論文等

  • T. Kawamoto, M. Aoki, T. Kimura, T. Mizusawa, N. L. Yamada, J. Miyake, K. Miyatake, and J. Inukai,
    "In-Plane Distribution of Water inside Nafion® Thin Film Analyzed by Neutron Reflectivity at Temperature of 80℃ and Relative Humidity of 30-80% Based on 4-Layered Structural Model",
    Jpn. J. Appl. Phys. 58, SIID01 (2019).
  • A. Hyde, M. Ohshio, C. V. Nguyen, S. Yusa, N. L. Yamada, and C. M. Phan,
    "Surface Properties of the Ethanol/Water Mixture: Thickness and Composition",
    J. Mol. Liq., 290, 11005 (2019).
  • Hiroyuki Aoki,
    "Chain dynamics in spin-coated films of poly(methyl methacrylate) in a solvent annealing process",
    Polymer Journal 51, 611–616 (2019).

 学位論文

  • 小草優希 修士, "オキシエチレン側鎖を有するポリビニルエーテル表面の構築", 大学 (2019/3)
  • 川崎浩輝 修士, "温度応答性高分子薄膜の膨潤挙動と生体成分付着特性", 大学 (2019/3)
  • 米盛茂樹 修士, "パーフルオロスルホン酸系高分子電解質薄膜の凝集状態とプロトン伝導" 州大学 (2019/3)
  • 坂巻達記 修士, "ポリスルホベタインブラシ薄膜のイオン選択的水和状態", 九州大学 (2019/03)

 マスメディア

  • 住友ゴム工業 岸本浩道, "ゴムの謎を解明して生まれたエコタイヤ 巨大科学施設を駆使する住友ゴムの「エイトマン」",
    東洋経済2019年5月18日号 (2019).

 受賞

  • 堀 耕一郎, "カーボン界面におけるバウンドラバーの熱運動特性", 日本ゴム協会若手優秀発表賞 (2019/5/23)



(2) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

◆ 論文等

  • Yasuo Kameda, Koichi Sato, Ryo Hasebe, Yuko Amo, Takeshi Usuki, Yasuhiro Umebayashi, Kazutaka Ikeda, and Toshiya Otomo,
    "Solvation Structure of Li+ in Methanol and 2‑Propanol Solutions Studied by ATR-IR and Neutron Diffraction with 6Li/7Li Isotopic Substitution Methods",
    Journal of Physical Chemistry B 123, 4967-4975 (2019).
  • Keiga Fukui, Soshi Iimura, Tomofumi Tada, Satoru Fujitsu, Masato Sasase, Hiromu Tamatsukuri, Takashi Honda, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo & Hideo Hosono,
    "Characteristic fast H− ion conduction in oxygen-substituted lanthanum hydride",
    Nature Communications 10, 2578 (2019).
  • Toyoto Sato, Luke L. Daemen, Yongqiang Cheng, Anibal J. Ramirez‐Cuesta, Kazutaka Ikeda, Takuma Aoki, Toshiya Otomo, Shin‐ichi Orimo,
    "Hydrogen‐Release Reaction of a Complex Transition Metal Hydride with Covalently Bound Hydrogen and Hydride Ions",
    Chem. Phys. Chem 20, 1392-1397 (2019).
  • Hiroshi Akiba, Hirokazu Kobayashi, Hiroshi Kitagawa, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, and Osamu Yamamuro,
    "Structural and Thermodynamic Studies of Hydrogen Absorption/Desorption Processes on PdPt Nanoparticles",
    J. Phys. Chem. C 123, 9471-9478 (2019).

◆ その他

  • S. Ohira-Kawamura, T. Hattori, S. harjo, K. Ikeda, N. Miyata, T. Miyazaki, H. Aoki, M. Watanabe, Y. Sakaguchi, and T. Oku,
    "Highlight of recent sample environment at J-PARC MLF",
    Neutron News 30, 11 (2019)



(3) 量子物性グループ

【 BL12高分解能チョッパー分光器HRC 】

◆ 論文等

  • M. WATANABE, H. NOJIRI, S. ITOH, S. OHIRA-KAWAMURA, T. KIHARA, T. MASUDA, T. SAHARA, M. SODA and R. TAKAHASHI,
    "Development of Compact High Field Pulsed Magnet System for New Sample Environment Equipment at MLF in J-PARC",
    JPS Conf. Proc. 25, 11024 (2019).



(4) 構造科学グループ

◆ 論文等

  • Masato Hagihala, Shohei Hayashida, Maxim Avdeev, Hirotaka Manaka, Hodaka Kikuchi and Takatsugu Masuda,
    "Magnetic states of coupled spin tubes with frustrated geometry in CsCrF4",
    npj Quantum Materials 4, 14 (2019).
  • Ping Miao, Rui Wang, Weiming Zhu, Jiajie Liu, Tongchao Liu, Jiangtao Hu, Shuankui Li, Zhijian Tan, Akihiro Koda, Fengfeng Zhu, Erxi Feng, Yixi Su, Takashi Kamiyama, Yinguo Xiao, and Feng Pan,
    "Revealing magnetic ground state of a layered cathode material by muon spin relaxation and neutron scattering experiments",
    Appl. Phys. Lett. 114, 203901 (2019).

◆ 学位論文

  • Wu Peng 博士, "Investigation of the quantum material selenides by angle-resolved photoemission spectroscopy and neutron scattering",
    University of Science and Technology of China (2019/4/9)



(5) 中性子光学研究グループ

【 BL05中性子光学基礎物理測定装置NOP 】

◆ 学位論文

  • 長倉直樹 博士, "Precise Neutron Lifetime Measurement Using Pulsed Neutron Beams",
    東京大学 (2019/3/25)