◆ 研究成果
中性子反射率計用一次元集光ミラーの開発(理化学研究所、京都大学との共同研究)
中性子反射率計SOFIAでは、精密加工した金属基板に蒸着することにより、60 mm × 550 mmの大面積を有する一次元楕円型集光ミラーの開発を継続して行ってきた。今回、これまでに培ってきた知見に加えて、研磨プロセスとミラーの固定方法の見直しにより、基板表面の形状精度の向上および粗さの改善に成功し、試料位置でのビームサイズを130 μm(FWHM)まで絞ることに成功した。反射率計に集光光学系を適用することにより、小さな試料に中性子ビームを収束させることができる。また、これまでに開発したミラーは場所によって反射率のムラが生じており、不均質であることが実用化の障害になっていたが、これも粗さの改善により全面にわたって高い反射率を有するミラーを成膜することに成功した。この集光ミラーは実際に装置に設置されており、共同利用に供されている。
なお、この成果はOpt. Express誌にて公開され、以下の通りプレスリリースを行った。さらなる詳細についてはこちら示してあるので、参照されたし。
http://j-parc.jp/c/press-release/2019/09/19000331.html
参考文献
T. Hosobata, N. L. Yamada, M. Hino, H. Yoshinaga, F. Nemoto, K. Hori, T. Kawai, Y. Yamagata, M. Takeda, and S. Takeda, "Elliptic neutron-focusing supermirror for illuminating small samples in neutron reflectometry", Opt. Express 27, 26807 (2019).
図1. 今回製作した中性子反射率計用1次元集光ミラー。
論文等
マスメディア
◆ 装置整備・開発等
POLANOでは2019A期から非偏極中性子散乱実験での一般課題受け入れを果たした。それに伴い、今後はいわゆる試料環境機器(SE機器)の整備を進めていかなければいけない。これまでの試験運転ではKEKつくばで利用していた標準型GM4K冷凍機(マニュアルゴニオメーター付き)を再利用して6K程度の低温を実現していた。しかしながら、この冷凍機は20年選手で、温度も十分下がらず、ゴニオメーター制御もリモートでできないなどの難点があった。POLANOではこれからの一般課題の受け入れにあたって、手始めに標準的な冷凍機を導入した。GM型の4K冷凍機に試料の回転機構を備えたもので、トップローディング構造(TL)とした。POLANOでは試料環境機器をセットするのにジブクレーンを利用するが、重量物のクレーンによる運搬は極力避けたい。TLタイプの測定試料セッティング時には、軽量なセンタースティックのみを簡便に入れ替えることで実現する。
構造設計では、サポート柱によって生じるダークアングルを検出器位置に干渉しない設計とした。また、本冷凍機が設置される大型真空槽内との差圧に十分耐えられる構造を有しながら、極力バックグラウンドを生じない工夫をしている。図2左図は実際にPOLANO試料槽に設置された冷凍機である。TLタイプであるため、試料のω回転(ゴニオ回転)は360˚自在に稼働することができ、もちろんリモート制御でスクリプトによるプログラムが可能である。したがって利用者は温度変化に併せて、回転測定の自動測定をすることができる。図2右図はPOLANO試料槽内においておこなった冷却試験結果である。最低温までの冷却時間はおよそ5時間と長い。もちろんTLタイプであるので、試料交換などは短時間で行える。この試料交換も含めて、遮蔽体内で効率的にハンドリングするために、ヘリウムガスの導入ライン整備をおこなった。これらの整備により、4K程度までの低温実験は簡便に行えるようになった。今後は引き続きの試料環境整備が必要であるが、POLANOはMLFにおけるSE標準化に準拠しているため、例えば共通機器や他のBL保有のSE機器の利用も可能としている。
図2. 今回製作した中性子反射率計用1次元集光ミラー(左図)。POLANO試料槽内においておこなった冷却試験結果(右図)。
◆ その他成果
◆ 研究成果
熱中性子14N(n,p)14C反応断面積の精密測定(京都大学、KEK、名古屋大学、東京大学、九州大学、大阪大学他)
窒素は大気の78%を占めており、アミノ酸に含まれることからほぼ全ての生物にとって必須の元素である。窒素のうち99.6%を占める14Nは熱中性子を吸収し陽子を放出する14N(n,p)14C反応を起こすことが知られている。この反応は、大気中性子の吸収から生成される14Cは放射性炭素年代測定に用いられる他、人体における中性子線量当量の主原因である。また恒星進化の過程で起こるCNOサイクルにおいても重要な役割を果たす。またこの反応は中性子フラックスモニター用としても利用されており、J-PARCでその開発が進められている。
14N(n,p)14C反応断面積は古くから測定が行われてきたが、そのターゲット数の不定性からその精度は3%程度にとどまっていた。京都大学を中心とするグループはこの14N(n,p)14Cの熱中性子断面積を中性子寿命実験のために開発したガスハンドリングシステム、ガス検出器(TPC)、スピンフリップチョッパーを用いることで高精度での測定を行った。実験はN2と3Heガスを精度良く混合し、その反応数比を計数することで行う。従来の個体ターゲットに比べガスターゲットを用いることでターゲット量の不確かさを低減し、その反応断面積を1.868(7) barnと不確かさ0.4%で決定することに成功した。これは既存の測定に比べ約5倍の精度である。
本結果は14N(n,p)14C反応だけでなく、この反応を参照した実験、例えば17O(n,α)14C反応断面積の決定にも影響を与える。過去の測定から257(10) mbarnであったこの反応断面積は今回の結果より249(6) mbarnに改定される。また今回確立した手法は他の(n,p)や(n,α)反応にも応用可能であり、今後sub%の高精度核反応断面積測定が可能になる。
図3. TPCで測定したエネルギースペクトル。14N(n,p)14Cと3He(n,p)3Hによるイベントが良く弁別できている。
図4. 熱中性子に対する14N(n,p)14C反応断面積。灰色は過去の測定データの加重平均であり1.84(3) barnであり、今回の結果1.868(7) barnとの一致している。
◆ 論文等
◆ 論文等