J-PARCは感染防止に努めつつ段階的に利用を再開することにし、物質・生命科学実験施設(MLF)については5月15日に利用運転を再開した。利用者の受け入れについては、国や県の移動規制の緩和に応じて、段階的に再開された。6月24日までは加速出力600kWで、6月25日からは1MWで運転された。6月27日に夏前の利用運転を終了した。
◆ 研究成果
二十面体クラスター結晶中の結晶場解明に成功
(廣戸孝信(物材機構), 佐藤卓(東北大多元研), H. Cao(ORNL), 羽合孝文(KEK物構研), 横尾哲也(KEK物構研), 伊藤晋一(KEK物構研), 田村隆治(東理大基礎工))
結晶には許されない対称性がある。代表例は正二十面体対称性である。正二十面体はプラトンの多面体の一つとして古くから知られるが、結晶の並進対称性とは相容れないこともまた古くから知られている。1982年に発見された「準結晶」は自然が空間次元を拡張することにより正二十面体対称性と並進対称性を巧みに両立させた興味深い存在である。一方、マクロに正二十面体対称ではないものの、局所的に(ほぼ)正二十面体対称をもつクラスターからなる結晶が存在する(図1)。本研究ではこのような二十面体クラスター結晶Au70Si17Tb13の磁気励起スペクトルをBL12 HRC分光器を用いて調べた。代表的な結果を図2に示す。励起スペクトルの詳細な解析から本系のTb 4f 電子の結晶場分裂状態を世界で初めて確定した。この結果、局所容易軸は二十面体クラスター対称性によって決まっていること、しかしながら容易軸は二十面体に特徴的な擬五回軸方向ではなくそれに垂直な方向であることが判明した。これらの結果は同時に報告した本物質の磁気構造解析結果(図3)とも一致しており、二十面体クラスター中の4f電子状態の興味深い性質と考えられる。
本研究は英国物理学会発行の専門誌 J. Phys.: Condens. Matter に掲載された。
参考文献:T. Hiroto, T. J. Sato, H. Cao, T. Hawai, T. Yokoo, S. Itoh, and R. Tamura, "Noncoplanar ferrimagnetism and local crystalline-electric-field anisotropy in the quasicrystal approximant Au70Si17Tb13, J. Phys.: Condens. Matter 32 (2020) 415802.
図1. Au70Si17Tb13結晶中の二十面体Tbクラスターの配列。
図2. 常磁性T = 15 Kにおける磁気励起スペクトル。非常に幅の広い非弾性散乱ピークが 4 meV 付近に観測された。
図3. Tb磁気モーメント配列。局所容易軸は磁気モーメント方向とほぼ一致していることが確認された。
◆ 論文等
◆ 論文等