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月例研究報告 1月

1. 共同利用状況など

【 中性子共同利用実験審査委員会 】

 J-PARCにおいて物質構造科学研究所が保有する中性子科学実験装置を用いて行うプロジェクト研究型課題(S1型課題)及び装置調整課題の審査が、2021年12月22日に開催された中性子共同利用実験審査委員会において行われた。S1型課題では課題ごとに審査委員会委員を主査として予備審査(研究会)を事前に行い、主査による評価をもとに審査が行われた。S1型課題は、新規申請1課題が採択され、7課題の継続が了承された。装置調整課題1課題が採択された。また、新規に申請されたマルチプローブ課題の審査が行われた。審査結果は今月開催される物質構造科学研究所運営会議で審議される。

【 受賞 】

 2021年12月1 – 3日に日本中性子科学会第21回年会が開催され(リモート開催)、2021年度の各賞の表彰が行われた。中性子科学研究系の瀬戸秀紀教授が受賞テーマ「中性子散乱のソフトマター研究への応用と発展」により日本中性子科学会学会賞を受賞した。KEKの客員教員である理化学研究所光量子工学研究センターの山形豊氏が同所属の細畠拓也氏とともに受賞テーマ「中性子集光ミラーのための超平滑な曲面を有する金属基板の開発」により日本中性子科学会技術賞を受賞した。
https://www2.kek.jp/imss/news/2021/topics/1201JSNS2021/

 

2. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【 BL23偏極中性子散乱装置POLANO 】

◆ 装置整備・開発等

3He中性子スピンフィルターのインストレーション

 POLANOはオンビーム型の偏極3He中性子スピンフィルター(以下NSF)により入射中性子ビームをスピン偏極させる。これまで開発を続けてきたNSFも本年7月にその設置と各種安全審査が完了し、POLANOビームライン上で運転及び性能試験を行い設計性能が実現できていることを確認した。NSFは3He原子核がスピン方向に依存した大きな中性子吸収断面積を持つことを利用し、非偏極中性子が核スピンのそろった3Heガスを通過することで偏極中性子ビームを実現するデバイスである。3Heガスは、spin-exchange optical pumping (SEOP)という手法で核スピンをそろえることができる。SEOPでは、まず光ポンピングによりアルカリ金属の不対電子スピンを整列させ、これが3He原子核に移行して3He核スピンが偏極する。SEOPには、光ポンピングのための高強度レーザー、3He偏極保持のための均一磁場、アルカリ金属の数密度を適切な値に調整するための非磁性ヒーターが必要である。POLANOに設置したコンパクトなNSFはこれらに加えて3He核スピンを無損失で反転するNMRも搭載されており、これにより入射中性子ビームのスピン方向を瞬時に反転することができる。中性子ビームを使った性能評価は未実施だが、他の手法によりPOLANOビームライン上で3He偏極率80%程度が実現できていることを確認した。今後、中性子ビームを使った性能評価を行い偏極中性子散乱測定に供される。

 

図1. POLANOに設置した偏極3He中性子スピンフィルター。

 

(2) ソフトマターグループ

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

◆ 論文等

  • F. Nemoto, N. L. Yamada, M. Hino, H. Aoki, H. Seto,
    "Neutron- Reflectometry-Based In Situ Structural Analysis of an Additive Aligning Agent for the Alignment of Nematic Liquid Crystals on Solid Substrates",
    Soft matter,
    (2022, accepted).

 

◆ その他

  • 山田悟史,
    “X線/中性子反射率法を用いた有機薄膜の構造解析 - X線or中性子の利点を生かした競争的利用とX線and中性子の利点を生かした協奏的利用”,
    放射光 34, 288-296 (2021).

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

◆ 論文等

  • X. Wang, X, Tang, P. Zhang, Y. Wang, D. Gao, J. Liu, K. Hui, Y. Wang, Y. Wang, X. Dong, T. Hattori, A. Sano-Furukawa, K. Ikeda, P. Miao, X. Lin, M. Tang, Z. Zuo, H. Zheng, K. Li, H-k. Ma,
    "Crystalline Fully Carboxylated Polyacetylene Obtained under High Pressure as a Li-Ion Battery Anode Material",
    J. Phys. Chem. Lett. 12, 12055-12061 (2021).

 

(4) 構造科学グループ

【 BL08超高分解能粉末中性子回折装置 SuperHRPD 】

◆ 論文等

  • Hirotoshi Yamada, Naoki Morimoto, Hyosuke Mukohara, Tomonori Tojo, Sei-ichi Yano, Eisuke Magome, Takao Morimura, Raman Bekarevich, Kazutaka Mitsuishi,
    "Concerted influence of microstructure and adsorbed water on lithium-ion conduction of Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3",
    J. Power Sources 511, 230422 (2021).
  • M. Arai, K.H. Andersen, D.N. Argyriou, W. Schweika, L. Zanini, S. Harjo, T. Kamiyama, M. Harada,
    "The performance of neutron diffractometers at long and short pulse spallation sources: Comparison between ESS and J-PARC",
    J. Neutron Res. 23, 215-232 (2021).

 

(5) 中性子光学研究グループ

【 BL05中性子光学基礎物理測定装置NOP 】

◆ その他

  • 三島賢二, "中性子寿命の謎,解明に向けた新しい手法", Isotope News 778, 6-9 (2021).
  • 三島賢二, "中性子の寿命から宇宙の謎を解く", Cross T&T 68, 36-39 (2021).
  • 三島賢二, 角直幸, 北口雅暁, 吉岡瑞樹, 音野瑛俊, "中性子寿命の謎の解明に向けて", 高エネルギーニュース 39, 159-169 (2021).

 

◆ 受賞

  • 藤家拓大, "多層膜パルス中性子干渉計を用いた核散乱長測定",
    日本中性子科学会 第21回 日本中性子科学会年会 ポスター賞 (2021/12/02).