KENS

月例研究報告 7月

1. 共同利用状況など

【 人事 】

 4月16日付で植田大地助教が、6月1日付で山田雅子助教が着任した。

 

【 MLF運転状況 】

 MLFは、加速器出力830 kWで安定に運転してきたが、6月24日に共用運転を終了した。その後、1 MWを目指した試験運転を行い、6月26日に今年度前期の運転を終了した。

 

2. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【 BL23 偏極中性子散乱装置POLANO 】

◆ 研究成果

三次元反強磁性体FeTiO3のスピン波励起

社本真一(CROSS)、今井正樹(原研機構)、Jae-Ho Chung(Korea Univ)、横尾哲也(J-PARC)、植田大地(J-PARC)、伊藤晋一(J-PARC)

 POLANOでは2019年度より非偏極中性子を用いた一般課題利用をおこなっている。本課題はコロナ禍による海外各国間における出入国制限のため、多くの実験課題がキャンセルとなるなか実施した実験である。特に今回はPOLANOでは初の試みとなる、三次元物質におけるω回転(試料回転)測定をおこなった。POLANOでは昨夏にDAQおよびデータ排出など計算環境の整備をおこない、現在では非常に要求の高くなった試料回転測定に対応できるようにした。以下得られた実験結果を紹介する。
 二次元ハニカム格子上の強磁性スピン波の分散は、波数ベクトル(Qx、Qy)=(1/3 1/3)で2つのモードが線形に交差する。これはグラフェンの電子バンド構造に類似している。群速度は線形分散で一定であるため、このようなスピン波分散に励起されるマグノン(または電子)は相対論的ディラック方程式に従い、ディラックマグノンと呼ばれる。これまでに、いくつかの物質でこのディラックマグノンが観測されたが、そのほとんどは二次元のハニカム層がファンデルワールス力で弱く積み重なった物質であった。FeTiO3は、結晶構造がR-3空間群に属する磁性酸化物絶縁体であり、座屈したハニカム層が積み重なった三次元構造を形成する。そのFe2+スピン(S = 2)は、c軸にほぼ平行に向き、最隣接交換相互作用を介して強磁性的に秩序化し、面間は反強磁性的となる。そのスピン波構造は、約40年前に調べられていたが[1]、今回の実験でディラック点近傍での包括的な動的構造を捉えることに成功し、より詳細な分散と強度を得ることができた。

[1] H. Kato et al., J. Phys. C: Solid State Phys. 19, 6993 (1986).

図1. POLANOで観測されたFeTiO3のマグノン分散。

 

(2) ソフトマターグループ

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

◆ その他

  • マスメディア
    瀬戸秀紀氏らの研究を「Research Features」が紹介
    英国の科学情報誌「Research Features Magazine」が最新号(141号)で瀬戸秀紀教授らの研究を取り上げました。MLFのBL02に設置されたダイナミクス解析装置DNAを用いて行った、生体分子と水和水との関係を明らかにした研究成果を紹介しています。

    「Research Features Magazine」は、生物学や健康・医学分野から物理科学におよぶ幅広い科学研究を、読みやすい文章と美しい挿し絵で紹介し、毎号11万人を超える人々に愛読されています。 Research Featuresのウェブページはこちらです。 https://researchfeatures.com/publications/research-features-magazine-141/
    https://researchfeatures.com/water-dynamics-probing-interactions-biomolecules-hydration/

    瀬戸秀紀, "Water dynamics: Probing the interactions between biomolecules and hydration", Research Features, (2022-05-13).

  • 山下直輝, 平山朋子, 山田悟史, 清水湧太郎, 小田和裕, 川本英貴,
    "二塩基酸エステル誘導体が形成する吸着分子膜の構造とトライボロジー特性",
    トライボロジスト 67, 284-298 (2022).

 

(3) 水素貯蔵基盤研究グループ

【 BL21高強度全散乱装置NOVA 】

◆ 論文等

  • Seok Hyun Song, Seokjae Hong, Moses Cho, Jong-Gyu Yoo, Hyeong Min Jin, Sang-Hyuk Lee, Maxim Avdeev, Kazutaka Ikeda, Jongsoon Kim, Sang Cheol Nam, Seung-Ho Yu, Inchul Park, Hyungsub Kim,
    "Rational design of Li off-stoichiometric Ni-rich Layered Cathode Materials for Li-ion Batteries",
    Chemical Engineering Journal 448, 137685 (2022).

◆ その他